前のエピソード――【再掲】素敵の距離÷２

●どんな話よ●

　東京、八王子の山奥にある八王子山の上大学にて、勝手に作られた”ダベるメンズ・サークル”通称ダメサーの面々が、毎度テキトーにダベったり学生生活をして行く話をテキトーにザッピングで。

●登場人物●

■王子・総志：男。二年。リーダー。王子グループの次期頭首。製紙関係。世界の中心系。

■白川・鳳凰：男。二年。ゴダイゴ。ホーちゃん。元ヒッキー。情報収集系。泊と付き合ってる。

■四方山・隆：男。二年。ヨモ、サル。修理工場。チンピラ系スポーツマン。長身イケメンだが残念系。

■女王・桜子：女。二年。花子。女王グループの次期頭首。レジャー系。泊の後輩。学連副長。名字は”めのう”。名字の読み方は”めのう”。

■泊・寬美　：女。三年。カンミ。会長。イッパク。やるときゃやる元会長。白川と付き合ってる。名字の読み方は”とまり”。今回チョイ役。

■郷里・祐理：女。二年。ゴリ。ユリ。スポーツ特待生枠。桜子の友人。意外とまとめ役。

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●今回はテスト前の雨の日に図書館前で、というあたりです。

「あら、会長、ごきげんよう。図書館に用ですの？」

「あ、桜子ちゃん！　丁度良かった！　今、経済三階の大教室が使えなくなったから！　ちょっと早メシしようと思ってこっち来たんだよね！　何か食ってく！？」

「あの、泊さん、図書館で食事は出来ない気がするんですけど」

「え？　王子君がコピー用紙ヤギみたいに食ってんのは、あれ何一体！？　食事じゃないの？」

「会長、王子君はコピー用紙舐めてるだけで、食べてないと思いますのよ？」

「あー、クッソ！　フォローするとか、桜子ちゃんは王子君の味方か！　この裏切りは高くつくから今度北口の松屋で豚丼奢るといいよ！」

「会長、あそこの松屋、入り口が鋭角で狭いので、古本ロードの”よこすか”にしません？」

「”よこすか”？　そんな店あったっけ？」

「ええ、こっちの人が横浜で出してたハンバーガーショップを、移転してきたそうですの。お隣あきる野市の秋川牛使ったローストビーフサンドイッチが、最近噂で」

「”よこすか”なのに横浜で、しかもここ八王子なのに秋川牛で、更にハンバーガーショップなのにサンドイッチが噂とか、あの店のオヤジは確実に都落ちでこっち戻ってきたんだろうけど、どのあたりまで自分失って大丈夫なのか心配になるよねアレ」

「いや、やっぱり店保つのが大事なんで、正体無くなるならそれはそれで有りじゃないですかね」

「おっとゴリさん現実的回答がトガリ気味でカワイイね！　流石！　何処で鍛えたの！？」

「いえ、うち、実家は一応、飲食なんで」

「え！？　じゃあ横浜で横浜牛とか使ってハンバーガー作ってんの！？　地元牧場と提携して、ハンバーガーに牛の写真が”二週間前のコイツがコレです”とか猟奇ついてて雑にこっちの食欲ケズリとっていくアレ！」

「横浜で牛は生産してないと思いますのよ？」

「いや桜子、そうじゃなくて全体的に違うって」

「大丈夫大丈夫、解ってる解ってるって！　ドンマイ！　――でも何？　話戻すけど、王子君、コピー用紙舐めてるだけなの？　食えないの？」

「あの、泊さん、シロウト考えですみませんけど、普通、人間はコピー用紙食えないんじゃないですかね」

「いや、王子君は製紙工場の跡取りだからコピー用紙食えるよ！　小豆工場の跡取りは小豆食えるっしょ！？」

「会長、一年で習う論理学Ⅰの試験じゃないんですから」

「あの、ヨモ君は車の修理工場の跡取りですが、彼、車食えるんですか？」

「食えるよ！　ゴムタイヤにハンドル一緒に食ってます！　って顔してるじゃん！？」

「…………」

「祐理？」

「え？　何？」

「会長と話すときは言葉遣いに気を付けなさい。――持って行かれますわよ」

「あ、うん。心底そう思った」

「ヘイヘイゴリさんビビってるゥ！　でも何？　王子君、まだコピー用紙食えない人間なの？　ヤギ以下だね彼！」

「ヤギより上の基準が厳しい……」

「というか会長、食事は図書館ですの？　どうやって？」

「あ、最上階あるじゃない。あそこ、図書館の扱いじゃないから、実はメシ食えるんだよね」

「え？　図書館の最上階って、美術館じゃなかったでしたっけ？」

「ええ、学長の親族が、何やら明治時代から集めてきた収蔵品を展示とか、そんな話でしたわね。ただ、一般公開されませんのよね」

「ああ、うん、贋作多いから」

「ちょっとちょっとちょっと、あの」

「いや、ホントホント。私が一年の時に四年の先輩から聞いたんだけど、何かダミーのオッサン雇って鑑定番組に出したらしいんだコレが」

「ダミーのオッサン？」

「うん。その頃、学長が何だか後ろ盾の選挙だなんだで裏に回って大金使ってたらしく、あんま表に出て目立つとポリス案件誘発しそうだって話でさ。何か教授顔っぽいの使ってやったんだって」

「あの、泊さん、今、その人の学校敷地内なんですけど」

「気にしない気にしない！　目立つところでやった方が安全なんだよ！」

「それで、ダミーのオッサンはどうなりましたの？」

「うん、もう大体解ると思うけど、自信をもって送り出した掛け軸が”コレどこの縁日で売りつけられたんですかねアハハ！”みたいなの食らってさ。――出入りの骨董品屋が夜逃げして、ダミーのオッサンも時給千二百円で放逐？　みたいな？」

「意外と支払いキッチリやったんですね」

「そうそう。でまあ、学長大恥かいて、もう二度と鑑定とか出さねえって言って、自分の所蔵品を図書館の最上階にただただ並べてんだよねアレ」

「ただただ並べてる？」

「うん。ナンタラ時代とか、ダレソーレの作とか、そういうの一切着けないで、何か自分が思ったタイトル着けて飾ってんだよ。

　だから美術系のお偉いさんの話だと、1/100くらいの確率で国際級のホンモノがあるらしいんだけど”それ以外の贋作が多すぎて目が慣れてしまって、確証が持てない”とか」

「何のカモフラージュですかソレ」

「まあそういう意味で、美術館じゃなくて”収蔵品見学所”みたいなことになっててさ。実は窓側の区画でフツーにセルフの喫茶ルーム。眺め良いから楽しいよ！」

「確かに十二階の眺めは最高でしょうねえ」

「お？　お？　女王グループはテーマパーク運営してるから、そのくらいの高さだと余裕？　確か相模の遊園地で高さ88メートルみたいなの作ったんだっけ？」

「ええ。高さ日本一になるなら100メートル越えが必要ですけど、うちのお爺様の意見で”ここからだと富士山見えるから88メートル！　決まり！”みたいな」

「あまり他人の家のことにモノ言いたくないけど、ビミョーに理屈が通ってないよね」

「ホント、昔からそういう方なので」

「じゃあ元からバグってんだ！　つーか、私、確かここで会ったことあったよね？　去年の学園祭でさ」

「え？　お忍びで？」

「いや、黒塗りの外車が二桁ガツンって入り口に停まってさ。学校内に”ヤクザが攻めてきた！”って話題に」

「あー、私、面倒なんでアパートで寝てたんですけど、ヤクザが入って来たってのは先輩からききました。あれ、桜子ちゃんか」

「私じゃありませんのよ？」

「でもそんなのと、泊さんがどういう接点を？」

「いや、黒塗りマイカーが学校の正門塞いじゃってさ。私そのとき、バイトで自動車部手伝ってレースクイーンの格好してたんだけど、物資積んだワゴンが中入れないからって、運搬手伝ってたんだよね。それで”ハイハイ、どいてどいてー！　死ぬよー！　いいのかあ――ッ！”って人分けてたら桜子ちゃんの元の元にバッタリ」

「後でお爺様が言ってましたけど”ガードが全く役に立ってなかった”そうですの」

「泊さん、そういう処あるよね……」

「人徳人徳！　だから目の前の爺ちゃんが責任者だと思ったから”コレ、デカイ車全部、後でバック出し出来るの？　大丈夫！？　隣の歯科大の駐車場突っ切る裏道教えよっか！？”って言ったら馬鹿ウケしちゃって」

「剛胆だ……」

「普通普通！　たまにスーパーでいるじゃん！？　そういうの！　――そうしたら爺ちゃん、私が運んでた物資に目を留めてさ」

「あのとき、会長は何運んでましたの？」

「ああ、うん。自動車部が古い車のレストア作業見せるってんで、塗装用のシンナー運んでたんだよね！　18l缶。あの、コントで頭殴るヤツ！」

「それで、どう説明したんです！」

「うん。だから説明したよ。”コレ！？　コレは今、イベントで塗装やっててね！　終わったらシンナーごっこするんだよ！　ほらコレ、横に書いてあるッしょ？　コレを吸ってもシンナー酔いは起こしません、って！　だから安心して皆でシンナーごっこで吸うの！　ごっこ遊び！　合法！　お爺ちゃんも一杯やってく！？　ビニル袋でいいよ！”って言ったら”戦後かよ！”って馬鹿ウケしちゃって」