ダメサーの王子達”タンクと棚田”
●どんな話よ●
東京、八王子の山奥にある八王子山の上大学にて、勝手に作られた”ダベるメンズ・サークル”通称ダメサーの面々が、毎度テキトーにダベったり学生生活をして行く話をテキトーにザッピングで。
●登場人物●
■王子・総志:男。二年。リーダー。王子グループの次期頭首。製紙関係。世界の中心系。
■白川・鳳凰:男。二年。ゴダイゴ。ホーちゃん。元ヒッキー。情報収集系。泊と付き合ってる。
■四方山・隆:男。二年。ヨモ、サル。修理工場。チンピラ系スポーツマン。長身イケメンだが残念系。
■女王・桜子:女。二年。花子。女王グループの次期頭首。レジャー系。泊の後輩。学連副長。名字は”めのう”。名字の読み方は”めのう”。
■泊・寬美 :女。三年。カンミ。会長。イッパク。やるときゃやる元会長。白川と付き合ってる。名字の読み方は”とまり”。今回チョイ役。
■郷里・祐理:女。二年。ゴリ。ユリ。スポーツ特待生枠。桜子の友人。意外とまとめ役。
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●今回はテスト後に体育館前で、というあたりです。
「お? どうしたのヨモ君、体育館に用?」
「いや、ゴダイゴが水泳の補修ってんで、ここで合流。ゴリは部活か?」
「あー、この後ね。桜子が運動能力測定のアレ、やってなかったって言うから、ここで合流」
「おーい、ヨモ氏、待たせた?」
「祐理、待たせましたわね。有り難う。――四方山君も?」
「いや、俺はゴダイゴに夏休みの課題の資料借りに来た」
「うわ真面目だ。見かけに拠らない」
「祐理? ビミョーに失礼ですのよ?」
「ヨモ氏の見かけを一切フォローしてないよソレ」
「うるせえよ。うちはガッコ出たら家継ぐからな。留年とかそういう危険は避けてえんだよ」
「ここ、ユルユルだから留年はほとんど無いと思うけどね。というかちょっと身体冷えたから何処かで一息入れない?」
「私もちょっと補給したいですわね。祐理、こっちの地域に何かそういう処、ありますの?」
「こっちの地域って、……桜の中で、体育館周辺とか、どうなってんのかな?」
「うちの学校、変に広いからな……」
「西と東に分かれるよね。西が校舎とかのある文明圏で、こっちの体育館やグラウンド側は野人の支配圏だと思う」
「野人って」
「武器持った半裸やジャージ民族がグループ組んで歩いてるし」
「あー御免、かなり否定出来ない。バット持ちとか長物持ち、確かに私もすれ違うわ」
「何かやたら見かけるよな。何? 戦場にでも行くのか? あれ」
「山の上にメイングラウンドが出来たじゃない? でも倉庫はこっち、クラブ棟や今サブグラウンドになってる方にあるのよね。場合によっては尾根の向こうに棚田があるから、そっちにまで運ぶ必要があって」
「棚田?」
「テニスコートとハンドボールとかのミニコートがさ、尾根向こうの学校敷地に、段差的に作られてるの」
「ああ、形状的に棚田……」
「ううん? 水捌け悪くて雨降ると上段から下段まで田植え目前! みたいになってさ。一回、夏の学校の風景を卒アル用に残す、ってので写真部が梅雨明けにドローン飛ばしたら、マジで柵に囲まれた棚田にしか見えなくて議論になった」
「厳重な棚田って、ビミョーに不気味な気がする」
「自然を活かす、ってんで、斜面の盛り土とかほとんどやらなかったから等高線がスムーズだったとか」
「でも、そっちの方にまで武器を運びますの? 倉庫は設けませんの?」
「武器……」
「まあバットとかポールとかいろいろあるからな……」
「うん。一回倉庫設けたんだけど、棚田だから浸水の上で泥も堆積しちゃって。今は扉全部外して屋根のある休憩所になってるけど、去年みたいな豪雨があると十年以内に土に沈むって」
「自然には逆らえませんわね……」
「その結論で問題無いの?」
「いやまあ、だからこっちから運ぶ訳ね」
「でも祐理、尾根向こうじゃなく、五月頃にプロパンガスの長いタンク抱えてあっちに走って行くの見ましたけど、アレ、何ですの?」
「あっち? 学生課に抗議か?」
「あ、ソレ、アレだ。酸素。男子の方で使ってるんだけど、酸素用のタンクが数足りなくて、空になったプロパンのソケット変えて使ってた筈」
「プロパンのタンク使うなよ」
「いや、OBがガス屋やってて供出あったから。そしたら、ほら、上のグラウンドとか、一般の人達にも開放してる時間あるじゃない? で、周辺住民から抗議が来たのよ。アンタの処の学生が集団でプロパンガスをスーハー吸ってるって」
「祐理? プロパン吸って気持ち良くなりますの?」
「桜子? 酸素、酸素だからね? 外から見たらプロパンだけど」
「いやだから外から見た話だろコレ」
「リーダーの紙舐めるのと良い勝負だな、と思ったけど、リーダーは本当にやってるからリーダーの方が上だ……」
「最後の”……”は何?」
「勝たなくていい勝負で圧倒した感だ……」
「でも何でそれを学生課に?」
「うん。抗議あったから、じゃあ実際のを証明しようっていう話になって、男子の短距離班が学生課に行ったのね。それで学生課のカウンターでプロパン吸って見せて自分達が正しいことを証明したって」
「祐理? 酸素、酸素ですのよ? 外から見たらプロパンですけど」
「学生課にいた皆、ビックリしたろうなあ。中入って来た短パンTシャツがいきなりプロパン吸い始めたら」
「三人で向かってましたわよ?」
「履修届出しに行った先で三人吸ってたら警察案件だろ」
「一人でも充分に警察案件じゃないかな」
「祐理? 何で三人も向かわせましたの?」
「いや、私の指示じゃないんで……」
「寂しかったんじゃないかな……?」
「お前、イッパクみたいなこと言い出してるぞ」
「先日、リーダーに同じ事言われてショックを受けたばかりだよ……」
「王子は何て言いましたの?」
「いや、こっちの両肩掴んで”ゴダイゴ! 正気を持て! 大事なのは個性だ!”って」
「正しいんだか矛盾してるんだか解らんな」
「というか多分、桜子が王子君みたいなこと言い出したとき、泊さんが言う台詞だと思う」
「ともあれプロパンの謎が解けましたわ。私も学連の代表の一人として、質問があったら同じように答えますわ」
「いや、これについては解らないフリした方がいいんじゃねえかな……」
「”私、知ってますわ!”ってハキハキ回答されたら、この人、いろいろ詳しいけど、おかしいゾーンの人だな……、って思うよね」
「し、失礼ですわね……!」
「あー、桜子、でもそれだったらついでにもう一つ、抗議が別で来るから憶えておいて」
「? 何かやらかしましたの?」
「いや、男子がプロパンスーハーやってるのを見て、うちら女陸も顧問に頼んだのよ。男子だけプロパン吸ってズルいです! 女子にもプロパン下さい! って」
「酸素。酸素、な?」
「いやもう皆プロパンって呼んでるから」
「それで女子にもプロパンが補給されましたの?」
「いや、ガス屋に余りのタンクがなくて。だからいろいろ探したら、飲食やってるOBがスーパードライの19lタンクがあるよ! って十本ぐらい持ってきてさ。
上のグラウンドでそれ吸ってたら付近住民がネットの向こうからスマホで撮影してた」
「ビール吸ったかー」
「新しいトレーニングです、って言ったら良かったんじゃね?」
「酔っ払いの言い訳にしか聞こえませんわよ?」
「ワーオ、味方がゼロだよ女陸。でもそうじゃないの」
「何やったんだよ」
「うん。男子のプロパンに比べると容量全然少ないからね、毎晩補充するんだけど、何か専用のコンプレッサーの設定間違ったせいで、夜中に爆発しちゃって」
「どういうことですの?」
「何か倉庫の窓割って、ビールのタンクが飛び散ったらしいよ? 私寝てて気付かなかったけど、友人のスマホ見たらビールのタンク抱えて真顔になってる消防隊員写ってた」
「ネットに出回らなくて良かったな」
「私、それも質問あったら答えますの?」
「こうなったらハキハキ答えて”あ、コイツ、あっちのゾーンの人間だ”って思わせた方がマウント取れると思う」
「桜子はこっちのゾーンだと思ってたんだけど、遠く行っちゃうかー」
「行きませんわよ……!」
「というか、聞いてて思ったけど、野人と市民の交流会って結構あるんだ」
「会じゃないけどね? 柵の向こうから御菓子の差し入れ貰ったとか、結構あるよ?」
「あら、思ったより友好的ですのね」
「うん。私も外周走ってたら地元の叔母ちゃんと子供からネット越しにバナナ貰ったことある。有り難うって、スマイルで言ったら、子供の方が”ウワーッ! 笑ったァ――ッ!”って引かれた」
「ストレートに動物園かよ」
「あれ結構ショックでいろいろ考えたもんだけど、半裸いるし、あまり動物園と変わらないかなー。たびたび半裸禁止令出るよ、男子の方」
「男子はホントに……」
「だよねー。ってか、あれ何ですぐ脱ぐの? 部族の掟とか威嚇行動とか、あるの?」
「俺どっちかっていうと着衣してる方なんで、俺に聞かれてもな……」
「リーダーとか、夏でもスーツだよね」
「暑くありませんの?」
「いや、水分補給とか、ちゃんとしてるから大丈夫だって。
そうしないと”紙の味が解らなくなるからな!”って言ってた」
「王子君、ド安定だ」
「うん。でも補給系の飲料だと味が濃すぎて紙の味がブレるし、茶だと舐めたときに紙に色が映るから駄目だって。究極は塩入れた米の研ぎ汁が”糊と近しい味で一番美味い! 母の味! どうだ!”って勧められたけどホントに糊だよアレ」
「多種多様かつ無意味にブレませんわね……」
「ある意味ギャップが無いよね」
「でも、何でそんな尾根とか分かれた土地にこの学校建てたんだか、うちの学長」
「あ、カンミが言ってた。何か元々は谷底で川流れてたんだけど、水源が呪いで枯渇したとかで買い取り出来る土地になってさ。そこで学長が買い取ったんだって」
「何か不穏な単語が混じってきた気が」
「高尾は天狗の出る土地で、前蹴りが効くからな」
「その話は別で。――でも、そういう流れでこの学校を? うちの学長、勉強奨励とか校則に挙げてましたし、なかなか出来ますのね」
「いや? 何かゴルフ場作れるぞ、って騙されたんだって。買い取ってみたら中央に尾根があってゴルフ場にすると一回山越えないと駄目だって」
「何で視察しねえんだ」
「あー、呪いの峠だ、ソレ」
「何ですの? ソレ」
「いや、ほら、あれあれ、さっきから話にある体育館南の尾根あるじゃない? あれが呪いの峠」
「ありましたかしら……、と思ったけど、ありますわね」
「あれが何だよ一体」
「うん、あの尾根さ、今、夏で思い切り緑になってるから尾根って解るけど、冬場とかで枯れ木ばっかりになると、向こうにある棚田の上の方、貯水池とか変電所とかのある研究棟? その更に南にある山と重なって、錯覚で区別しにくくなるんだよね」
「あー……、言われてみると、角度揃うのか……?」
「学校出来た頃はハゲ山で、研究棟の方も無かったらしいのね。――で、今みたいに山頂にグラウンドとかもなくてさ。だから山越えた相模湖方面の寮とかに住んでた人達が、ちょっと山越えてショートカットだ、って行こうとしたら、ほら、実際は山が二重にある訳じゃない?」
「自分達の住処があると思って山越えたら、無人の谷底があるとか、チョイとホラーだね」
「いや、当時はそこ、今は棚田のあたりに廃村があって。近寄ったら、変な白い服着た連中が何か荷物の運び込みやってたとかで。見つかって追いかけられたから慌てて逃げたって、そういう話」
「邪教かよ」
「一回有志で山狩り入れたけど痕跡出なくて諦めたって」
「……それ、多分ですけど、会長から聞いたことありますわね」
「カンミが? 何て?」
「ええ。何か天文部の言い伝えで、高尾の山中に光の一切入らない谷底があって、そこがいいスポットなんだとか」
「ああ、確かに天体観測にはいいかも。昔は明かり無かったと思うし」
「ええ。だから天文部が天体観測と称して、伝来の”草”を栽培していたとか」
「近所で何やってんだよ」
「いえ、噂みたいなものですわ。たびたびそこらへん、話に出ますけど」
「あ、それよりそろそろ移動しない? 一息入れたいって話」
「あー、そうだった、御免。でも、近くに部活棟のラウンジあるけど、今は半裸が威嚇し合ってる時間帯かも」
「いきなりハードル高えな」
「御菓子あげると喜ぶけど、引かないでくれると有り難いかなー。行く? それとも図書館にする?」
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