あとがき『川上稔 短編集 パワーワードの尊い話が、ハッピーエンドで五本入り(2)』
あとがき
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●総統閣下の塔
初出はTwitter。1での「化け物のはなし」もそうだったんですが、コミケの前夜に投下して、祭気分に花を添える、みたいな感ありました。
どちらも実は会社での泊まり込み作業中で、その作業とはホライゾンのアニメの設定作り。
コレを書いてた時は一期の設定で各国の制服の裏表描いてて、「化け物」の時は三征西班牙の戦艦描いてましたね……。
当時、チョイとTwitter小説が流行って(?)いて、じゃあ自分も、という感。プロットは頭の中にあったので、後はそれを書いて投稿。結構速かったらしく、驚かれたりしました。
ネタとしては、ノスタルジーのある短編を書きたい、というのがありまして。自分の中でそれを考えてみたら、中学の時に深夜ラジオに齧り付いてたアレ。そういうので物語を作ってみよう、と思った訳ですね。戦後の復興の時期に故郷を訪れる、というのは昔の映画の王道だったような。色合いとしては1930年代あたりの米国映画みたいな、そんな感です。
Twitterのリアルタイム投稿なので、とにかく書きやすいように、という判断から一人称。これだと文法的制約やミスがかなり減るので。そして書き出してみると、面白い事に言外情報が意外とアドリブで出てきたりして、なかなか面白かったです。
主人公のノスタルジーと再会。そしてある男のノスタルジーと再会。どちらも放送をしているときにこそ”再会”があるような。そんな内容です。
●ライブ”黒死無双”
歌詞の初出はアニメ版ホライゾンの特典小説から。恋愛がある訳でもなく、何処かの村で起きていた小さな奇跡の話。誰からも相手にされていないと、認められていないと、そう荒れていた少年が、自ら選んだ道の先でこそそれが叶うが、周囲もそれを望んでいたと。
歌はここで終わりですが、歌い手の台詞を聞く限り、少年は多くの人を救いに行っているのだと思います。
●天使の解釈違い
1で出た「最後に見るもの」と同様、パワコメを想定したパワーワード系一人称の黎明。
発表したときは「いつもの」みたいに受け取られてたんですが、短編で読みやすいということもあり、段々と評価が上がっていったタイトルです。御新規さんや、久し振りにうちの作品に戻って来た人達にも受け容れられたりで。
内容を思い付いたのは、昔に電撃HPでTOKYOを連載していたとき。あの中の一話で、月に置いた地球との距離を測るための鏡を利用して、幾らか前の世界を映す、というのがありまして。これをもっと拡大化したらどうなるかな、というのが頭にあった訳ですね。
でまあ、天使が地球の外で活動していて……、というのと結びついてこんな感じに。
なお、美術館というと箱根とかのいろいろがありますが、自分、何か行ったこともないイメージだけの美術館というのが頭の中にあります。今回も解りにくいんですが、そのイメージ。
しかし、女性キャラが「馬鹿野郎」とかいうの、うち、多い気がしますが、まあ実際そんなもんですよね。
●黄金周環
ゴールデンウィークが年の初めから何日目とか、そういうの知ったらネタにするしかないじゃないですか。
加速法はやはりTOKYOで出したギアシフト式の無限加速法。
このタイトルは、実体験というか、実生活がかなり入ってまして。ええ、勤務先(TENKY)が世田谷の千歳烏山だったので、たまに深夜、荷物の運搬とかに車出してたんですね。
なので国道二十号からのルートで新宿方面に向けて立川から府中から調布を抜けて会社まで。途中、調布に入ると、調布空港のある処が灯り無いので真っ暗で不思議な感じがするんですが、一方であのあたりは高速道路のライトが遠くで列になっていて、ちょっと面白いです。
なのでそこから灯りのある街を見下ろしてドライブ。深夜の中央道もなかなか雰囲気いいもので。真っ暗な海の上を渡っているようだ、というか。
また、ここらへん、うちの母方の実家が鳥取なもので、夏になると車で一晩掛けて行っていた記憶とかもあるのだと思います。
何と言うか。そんな「遠くに連れて行ってくれる場所と時間」の話かな、と。
ついでにいうと次の「黄金の夜」も近いですね。
●幸いの人
書き下ろしではありますが、これもまた、カクヨムでの連載開始時に第一回目候補としてあったものでした。
これが一番手に来たら、今までの読者の人達はたとえば世界観として何処に収まるのか、とか、そういう話を楽しんだかと思います。
一方でこれをひとまず置いたのは、話の分類が非常に難しかったからです。当時は「尊い」なんて表現はメジャーではなかったですし。
どことなく皮肉めいたクールな女性。不幸の代名詞のように扱われて黒い服で町を行く。ちょっと昔のアメコミのような世界観から、一気にプライマルな世界へ。
不幸を自認するがゆえ、誰からも距離をとっていた彼女は、しかし実は誰も彼も救い、心配し、誰からも慕われていた王様であった、と。それが、自分が最後のホンモノになるまで堪えて通すとき、隣にいるのは、唯一彼女を幸福に出来る”幸運”であると、そんな話。
存外無敵である彼女は、王でもあり、姉に謝らせないためにも、他者の心配を無視していたのですが、最後にそれを認めます。
ラブコメではなくラブストーリーでもない。運命のように合致する二人の物語ということで、うちのタイトルが持つCP性を「そうならなければならない」で突き詰めると、こんな感じになるというか。1のコガレが文系で未来を見るそれなら、こっちは体育会系で目の前を見続けるそれですね。理系は何処だ。ともあれ仕掛を知ってから再度読むと、彼への感情移入が変わって、そこから再度読むと、全体像が変わって見えると思います。
●禁書区画で待ってる
作家には人生で幾つか「これは致死量が高い!」と言えるタイトルが手元に出来ます。このパワコメシリーズはどれもその傾向が高いんですが、
「短編集のラストを任せる」
という観点で最大致死量を計るならコレしかないと思います。よくこれが手元にあったもんだ、と。
実は最初、書き下ろしを最後に回す「何となくの流れ」だったんですが、トータル読み直して編成変えました。そのくらい御強い。
東西の冷戦。分かたれた国と、そこでの騒動があり、しかし二百年後。
世界が変わるとき、大図書館はどういう役目を終えるのか、と。
禁書区画が、禁じられた兵器群の収集場かと思えば、実は敵国の敵性文化ともいえる”あらゆる本”の収集場所であった、と。入ってきた人達は皆憤りますが、しかしそれらに目を通せるだけの知性があれば、戦争なんてやってる場合じゃないと、そうなっていく。
これは私見ですが、たとえば敵対している国や人々がいたとして、でもその人の家の本棚に好きな作家の本があった場合、それを話題として話が出来ると思うんですよね。
そのとき、諸処の問題は消えて、交流出来る。
だとすれば、”交流出来る時間を増やすことが出来るもの”が多くあればあるほど、諸処の問題もやがて交流の一つとなり、小さなものになるだろうと。
うちのような仕事の本質の中には、そういった部分があると思っていて、この大図書館の仕事は正にそれです。為政者達は、敵国の為政者達と「●●たん良いよね!」とか盛り上がったんじゃないか。ノブタンかよ。
手紙とリアルの遣り取りは、うちの得手とするものの一つで、しかし短編の中でそれを持ち込むのはなかなか大変でした。普通にそれをやると、読者が「ここは感動シーンだ」と思わない限りそうならないような、結構リスク高い仕掛けなんですよね。
大図書館と司書という、イメージの強い舞台とキャラ、そして東西分裂というショック性の高い前提と、そこからの開放が、それを為した感です。司書さんに、「もういいだろう」という処まで短編で持って行けたのが今作の致死量の仕込みだと思います。
なお、発想としては、連載を始める前にアイデアメモをした、
「司書が図書館で知らずの内に出会っていた」
という、謎の文面。コレ、何考えて書いたんだ……。読み取りの方向によっては別の話になっていた気もしますが、それでも致死量高かったと思います。
ともあれ電書を閉じたあと、ハーと一息吐いて貰えれば幸いです。
そんな感じで全体感想でした。
パワコメと合わせて22本? 短編結構ありますねー。書くのはアイデアストックがいるので、チョイと休んでますが、また機会あったら、ちらほら書いていきたい感です。
さて今回の作業BGMはReliqで「Feet」。異国感あるというか、ノスタルジックを重ね打ちしてくる曲が良い感じです。
では最後、
「誰が一番尊かったのだろうか」
という処で。
令和三年 雪の降らなかった朝っぱら
川上 稔
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