あとがき『川上稔 短編集 パワーワードの尊い話が、ハッピーエンドで五本入り(1)』


 あとがき


 そういう訳で後書きを書くのをサッパリ忘れていたので、こっちで書きます。

 というかパワコメの後書きとまとめて2の後ろに入れようか、とも思ったんですが、何分、ちょっと読み味違うので、ソレは無理だなー、的な。

 なのでまあ、前回と続いてこちらでスタート。

 今回はパワ尊の1の分です。


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●君が手を離さない


 以前から、短編集を出すかどうか的な話があった訳です。ホライゾンと併行して何かやるなら、小回り効くスタイルがベストなので、だとすると短編集。既に「総統閣下の塔」「化け物の話」「コガレ」あたりはストックとして使えるので、後二本くらいあれば一冊になるよね、と。でも短編を出す場所無いからなー、みたいな流れで表に出なかったんですが、ともあれそのときに想定していた一本。カクヨムで連載を持つときは、コレを最初にしようと決めてました。

 短編は如何に言外情報を用意して言外のまま出していくか、という部分があると思います。とはいえ自分は文章練習や実践で古文から入った(怪奇談や平家物語)ので、実は言外情報という意識があまり無くて、どっちかって言うと古文の「省略性」に由来してそれをやってます。この情報を隠そう、じゃなくて、このくらい言わなくても通じるだろう的な。面倒くさがりな感。

 今回はマー、訳ありらしい男女が、ただただ普通の生活を得ていくだけの話というか。外ではいろいろあるようだけど、二人にはそれが関わってくることもない。普通の生活というものが、実はどれだけ価値があるものか、という処で。

 ファンタジーというと、魔法とかのルールや、現実的にどーなの? という問いに対するアンサーが注目されがちですが、民俗性(風習など)が大事かな、と思っていたりします。つまり、しきたりや、決まり事など。何となく視界に入っていたけれども、後になってその意味に気づくとか。それは当然、言外情報なんですけど、そういうものを幾つ仕込めるかが大切というか。

 ともあれ薬師も大変ですけど、中央に残ったパーティ最後の一人が一番大変な気が。

 しかしカクヨムで連載したとき、分量から前後に分けたんですが、コレが失敗。御新規さんはとりあえずブックマークなどするんですが、後編があるとなると「後に回す枠」に入るらしく、後ろへのPVが堰き止められる結果に。結局、前後編を合わせた合本版を作ってトップに置いてます。

 一方で評価も高くて安心というか。これが最初にあると、ちょっと格調……、とまでは言いませんが、全体への信頼感になりますよね。



●化け物のはなし


 元はTwitterに投稿したものです。アイデアとしては、140字制限を逆手にとって、●と○で短く状況や台詞で切った物語を書けばいいんじゃないか的な。●と○で世界観がちょっと違って、物語がしかし一つのストーリーを見せていく、という。

 海辺の街、というのにちょっとした憧れじみたものがあるのは、80年代生きた人間だと絶対的な流れだと思います。不良がいて砂浜があって単車があってさ、みたいな。でも、雪が降らない、となると九州か四国かなー、という処ですね。

 話としてはそれこそ化け物と少女の物語。天使だって化け物なんだ、というのは、書いてて何となく出てきたものですが、よく考えたら昔のPCゲーム(ザナドゥとか)だとそこらへんのが敵(倒すとペナルティ)で出てきてたな……、とか思ったりで。倒したらいかんのに通り道にいるんですよアイツら……。

 なお、扉絵はエンディング後。彼女の着る革ジャンパーの背に翼が描いてあります。



●コガレ


 かなり昔の電撃HPが初出。全体の中で一番古いですね。

 題材にしているのは”進化”。

 主人公の僕は「”人類”という概念に該当するもの」で、君は「人類担当の”進化”」という話。

 友人は恐竜のそれですね。

 ――で、これだけだと何が何だか解らないので、チョイと自分で解説します。

 まずは、

「次の世界への移行」

 として、何処でもない処に行くことからスタート。まだ人類の始まりどころか生物の始まってない状況に行くので不安が最高でも、”君”はもうこのときからいてくれる訳で。

 そして万物の始まりである水。大半の生命の通る道ですが、他のものにならないことを”君”が保証してくれます。

 続くのは、太古の荒れた地球の環境。こういう環境下で最初の生命が出来た、という処を経て植物の発生へ。植物が酸素を作って”風”となり、更に進化の過程として魚を経過するのでそちらに気が取られますが、魚にはならないので君は言います「そんなことは無いと思うのですけど」と。

 一時期、恐竜を経て、小さな哺乳類に。

 手紙は、「”魚”を共有した」友人が死んだことを伝えますが、ネズミが運んできたということは、恐竜の時代が終わったということですね。

 友人は鳥になりたかったと。鳥が恐竜の今の姿である、というのはここ数年で日本でも常識となりましたが、これを書いた頃は恐竜ブームも来てなくて、異説感あった憶えがあります。

 3からが人間の時代。

 ここから先は、一種、自分や読者の方々も含めた現生の人類の話になります。

 家を出て歩き出し、振り返った我が家は箱船のように見えて。

 ”君”の名前は、”進化”という概念ですが、これを解明出来るかどうかは今でも不明ですね。なので名前は聞いても解らない。追い求めるのが”僕”の生きていくことそのものであり、過去に別れた友人達も共にいるのだと、そんな感じで。

 あまり自作解説はしないのですが、このくらいは言っておいていいだろう、と。

 これを書いてからデカめの恐竜ブームが二度ほど来たり、天体ブームとかもありましたが、大枠ズレてないようで幸いです。ホントは家の外に犬がいて一緒に行く、というシーンもあったんですが、いろいろありすぎなので割愛しました。



●最後に見るもの


 昔に思い付いたアイデアで、ゴーストの魔女とリターン騎士が地元生活する、というのがありました。それをちょっと膨らませてこの形に。

 実験として、パワコメの前段にあたります。つまり一人称の口調がパワーワード系。自分の中でこの”系”の語りをやって、”停まらずに書けるか”を計ってみたというか。結果、行けたので、この後いろいろ考えてパワコメに注力することになります。

 ともあれ自分の遺体を見たとき、どう思うのかな、とか。臨死体験とか、そのあたりの話はたびたびオカルト系で見るものですが、当然、損壊した遺体の臨死体験ってのは無い訳でして、このあたりは想像力ですね。

 なのでそこらへん考えつつ。ちなみに海があったり、広大な平地があったりで、結構立地のいい国ですが、大陸? の端にあると考えてます。温暖な青森、みたいな。民俗というか、風物とかいろいろ。酒場の描写とか、書いてて遊びますよね……。

 バリエーション的に、主人公の帰りを待つ義姉のプリーストとか、そこらへんの話とかも脳内にはあるので、そういうのもいつか表に出せたら、と思ったりですね。



●ひめたるもの


 クッソ面倒くさい主従の話を思い付いたというか。アイデアとしては、基本、しきたり的に「何でも手に入るが、自分の思い通りのものが手に入らない(誰かが選んで”ベスト”を渡してくる)王」と「その王が、王になる前に手に入れた部下」という話でした。その部下が亡国の姫だったりすると良いよね的な。

 何故こうなった……?

 多分、傍にいるために書記官にしたのがいけなかったんですね。あと、どちらかというと「外からの語り」でやろうと思ったのと、正体をミステリアスにしようと思ったので喋れないようにしたのがいけなかったというか。

 自分の本来の秘書官ではない、外で選ばれた秘書官を新しく宛がわれて、デタラメ言行録を語り始める王様の子供っぽさもアレですが、そんな王にすら読めない文字で、自分だけの王の記録を作り続ける秘書官の両片思いならぬ「両推し思い」というか。

 秘書官も、別にその座を離れても、いずれ王が外征始めるときに手元に戻すだろうと、そんな余裕感あったりで。国家の動きを通して自分達の繋がりを試して試されるのが、遊びとなっているあたり、両者良い性格してます。

 カクヨムでは追記として後半部がありますが、今回、ちょっと繋ぎを作って一つにしました。全体、言外情報だけで出来てる話とも言えるので、そこらへんを読んでいく人にとってはベストなタイトルかと思います。



●空と海を結ぶもの


 カクヨム連載を始める前、第一回に何を書こうかとリスト出しをして、書かなかったままとっておいたものがあります。それがコレ。第一回にすることを考えた場合、間口の広さという点で「君が~」の方が良いと判断したからですね。

 発想自体はかなり古くて、実はAIで戦争をするというネタより「脳を直接機械にエントリーする」というネタの方で先に話が出来てました。90年代あたりはそういうネタが多かったんですよねー……。あのアニメとかあのゲームとか小説とか、と思い付く人は同年代。

 なので機械であっても「人のように触れ合おうと思う」部分に違和感を得てないのが特徴。AI世代だと、その意識があるということに目が行くと思いますが、とりあえずイチャイチャして貰った方がカワイイので、そんな感じで。

 自分的には、ハッキングしてやってきた彼女との遣り取りのあたりが、自分らしさというか、「省略」の強みが出てる箇所だと思います。

 しかしカウチポテトって死語全開ですが、あの状況を他の言葉で伝えるのがかなり難しいことに気づきました。

 自分的に、海溝の底から往年のバラエティのOPが聞こえてきたりする、というのが、現代的なファンタジー感ありありだな、と思ったりです。

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