あとがき『川上稔 短編集 パワーワードのラブコメが、ハッピーエンドで五本入り(1)(2)』
あとがき
そんな訳で”パワーワードのラブコメが、ハッピーエンドで五本入り”の後書きです。
何でこっちで後書きが、と思われる方もいらっしゃると思うんですが、コレ、カクヨム版を読まれていた方々は、別の疑問もあると思います。つまり「1,2掲載以外の他の話はどーなるの」というアレ。
でまあ、こちらとしては3,4があるものと考えていて、後書きは総合的なのをそっちに置こうと思ってたんですが(各話を語ることになるので、発表順で一覧したいという思惑)、現状まず1,2という発刊になりまして。コレだと今の処では後書きが無いような作りになるので、1,2分の各話後書きをカクヨムで、という感ですね。
では1,2分、各話後書きスタート。
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そんな訳で”パワーワードのラブコメが、ハッピーエンドで五本入り”の後書きです。
今回、デジタルのみでの発刊というのを踏み切ってみました。これからの時代を考えると、紙本とは別の、小回りが効いて、気軽かつリスク少なめで出せる”手”を用意しておくのは有意だろう、と考えたもので。こんなことが出来るのも皆様の御陰です。有難う御座います。また、出版社、編集部の皆様、御手数など頂き感謝します。
さて今作、カクヨムでの連載からの抜き出し(2では書き下ろし有り)です。
恋愛系の短編、というと自分的には意外感あるかもしれないんですが「CP系短編」って言うとスゴく解りやすい……。実際、カクヨムで最初に出した”君が手を放さない”も、そっち系でしたし。
ですがカクヨムで同じように出してるアイコントークの話と短編だと、アイコントークの方が優勢なんですね。PV数で見ていると、短編を出すと、そこで「堰止まる」というか、後ろへPVが届かないような状態になりやすい。
ではどうしようか、と。短編を更に短くするのは有りだと思うんですが、それだと制限が掛かることになります。好きに書けてない。
なもんで、アイコントークのように、読み出したら勢いで読める文章を作ろう、と、そんな話に自分の中でなりました。
そこでいろいろ思案したり調べていて至ったのが、SNS上の、短い文でのPV数。つまりバズるとか、そういうアレです。その中で、事件性によってPVが上がってるのではなく、話術的、言葉的に上がっているものを集めて見ると、コレが年齢性別あまり関係無しに支持されている、と気付きまして。
パワーワードってヤツです。
じゃあ”それ”ではなく、”そういう考え”で短編を作ればいいのではないか、と。
言葉としての解りやすさや、文体の美しさではなくて、目の前でダベってお互いどーしようもないネタで笑ってるような、そんな感覚。ファミレスや部室とか昼休みの窓際のアレ。
幾つかファンタジー系を初めとする短編で練習して、手応え来たので、じゃあ”この系列”で行くか、と「恋知る人々」書き出してみたらマー速い速い。そして出来上がったものが高い支持を得て、このラインが確定します。
それが回を重ねてこうなってる訳ですね。
●恋知る人々
作風として、意識的に”完全にこっち側”に振った第一弾。読者にも解りやすいよう、現代の学生を主人公に据えてフレッシュ感というか。ギャ、ギャップちゃうわ……! とか言いたくなりもしますが、マーこのくらいインパクト無いと駄目ですよね。
ラブコメ、というのを解りやすくするために、相手の心が読める少女、という設定。スタートとして、恋ってのは何だろう、と。そういう解りやすい話でもあります。少女の性格はかなりおとなしめ(自分の中では今の高校生女子だと”俺”とかフツーだよね、という感覚なので)。
なお、美術やってる少年は、ほら、アレ、何か物体見ると「これはどう描くべきか……」って、ありますよね。扱いやすいというか、ちょっと変わり者の空気感が出しやすいので、美術部の男子、というのは今後もいろいろ出てきます。
●素敵の距離÷2
「恋知る人々」を書いて、好評だったんですが、それとは別で懸念していたことがありました。「恋知る人々」は、主人公が他者の心を読める、という特殊能力持ちでしたが、”そういうのが無ければ川上稔のラブコメは成立しない”と、そんな流れになるのは避けよう、と思った訳です。だから場所的なシチュエーションはあってもそういう能力などは無しとした話。最初に”告白の木”が話題に出ますが、それによる成就ものではないのは、そのあたりを明確にするためだったりします。しかし学校内の掲示板とか、今でもあるんかな……。
主人公の口調はかなりおとなしめですが、ルックスはナチュラルにちょっと派手っぽいイメージ。「恋知る人々」の主人公とは逆な感で、ここらでもバリエを出そうと、そんな感ですね。
なお、後述しますが、舞台となっている空間。何処かの地方都市のような場所が初めて明確になった回でもあります。
●地獄の片隅で笑う
悪役というか、ニヒルめいたタイトルですが、恋愛系としてタイトルギャップ。シリーズ? としては珍しく東京らしき場所が舞台で、主人公の年齢も高め。作品としてのバリエーションを増やそうと、そんな感じです。とはいえ全話読んでみると、主人公は、恐らく他の主人公達のいるあの地方都市あたりの出で、つまり「電車で都会に行った先」でこういう生活をしているのだろうな、と、そんな感。
舞台装置としての踏切と公園は、今でもまだこういう場所ありますねー……。京王線が高架化始めた、というのを聞いて、逆転発想のようにコレが思い付いたものだったりしました。空気感としては西武線沿いな気も。
立場の対称とか、二つに分かれた構図を幾つも中に仕込んで、彼岸と此方で逢瀬を重ねる。どちらが彼岸なのかは解りませんが、地獄の方が生きてる感あるのは、ちょっとしたサガですね。今作から、恋愛というイメージの他、仲間とか、同じ価値観もった存在同士、という要素も入って、CP感強くなります。
●嘘で叶える約束
これまで女性視点だったので、男性視点側からの一作。ちょっとまた特殊な能力というか、不思議要素を復活させてみました。「恋知る人々」が浮かないように、こういう要素の可能性を出しておく感じで。
とはいえコレ、元々は女性視点側でした。「地獄の片隅で笑う」の前に書いてたんですね。男も幽霊ではない作り。それで書いてみたところ、やはり出生のあたりが最初から引き延ばしまくってオチが弱い、という感があり、じゃあ男女逆転で。でも実は女性側が、という作りにした方が情報量二倍になっていいよね的な。彼女がかなり攻め気ですが、よく考えるとこっち出て来てかなり後がない感。どちらもなかなか大変です。
なお、舞台は結構明確になって、東京隣県の、県庁所在地より一コ離れた処、みたいなイメージ。あまり深く考えてませんが、他の話も大体ここか、この周辺、という捉え方です。地方都市の中で幾つか学校があって、という処。
●未来の正直
実は学生時代、自分の在学していた翌年からPC授業が標準となり、後を追う感じで学校にPCが導入されていくのを見ていた世代です。今、やる気のある学校や部活だとインドア系もいろいろ頑張ってるそうで。そういうのと、自分らの世代のアレやコレを混ぜて考えた一作。中学の時は美術部に顔出したりしてたなー。ちなみに大学時代は美術部で部長やってました。
そんな風に自分の中で見知った感あるので、「三人目」みたいな感じで部長が出てきてます。ちょっと勘違いの三角関係? という訳ではありませんが、部活特有の上下感というか、空気感のガイドやお助け役として。
作中、最初と最後で解りますが、大人になってヒット作を出した主人公がインタビューを受けているという形式です。
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●幸せの基準
自分の方で、料理ネタは確実に押さえたいなー、という思いがありました。そんな自分の中での鉄板ネタとしての料理ですが、学生を主人公に据えようと思ったところでやはり弁当。しかし弁当って、作るの難しいですよね……。作中でも言ってますが、肉とか見た目が変わってしまうし、米とかオカズと一緒に入れると変に湿ってしまったりと。アレは毎日の経験によって出来が変わっていくものだと思ってます。
なお、料理ネタはイケる、という変な自信があって危険だったので、そこだけに頼らないよう、登場人物として”母”を出しました。「未来の正直」で先輩がちょっといい位置を回したように、視界を広く持つつもりで出しましたが、思った以上に御活躍。夜10時くらいからのドラマの日常シーンみたいな。スタジオ撮りの安心した人工感のような雰囲気が出ていれば、と思ったりです。
●星祭りの夜
元ネタは、ホライゾンのアニメBDに特典として入った喜美の”星祭り”。あれの歌詞(DAMに入ってるので、検索で確認出来ます)は世界観を固定しないCPモノなんですが、以前、BDBOXの作業をしつつ、コレで一本行けるんじゃないかという思案がありました。
なので良い機会ということで此方で一つ。
舞台としてる地方都市の郊外、山に近い神社と裏の山は、うちの方だと何処にでも似たような場所があるんですが、強いて言うなら八王子の滝山城跡あたりがそんな感じ。あの入り口からちょっと昇ったあたりに神社があって……、って言ってどんだけ解るんかな……。
なお、原作? の歌詞ではストレートに彼女の方が背が高いんですが、星祭りの成り立ちで戦後の空気を入れようということで赤いハイヒール。巫女服と合わせて、という処です。ともあれ頭の中では歌詞が先行して「コレは上手くまとまる」という変な自信があったんですが、最後に主人公がヒールを持ち出した処で「まとまったー!」みたいな安堵感出た憶えがあります。
●鍵の行き先
これを書いてた頃、住んでる部屋の前に椅子を出して、テラスのような感で執筆していたんですが、うちのドアが空気漏れしないよう処置したら閉まりが悪くてですね……。コレをコツで押し開ける背が高いヒロイン像、というのを考えてギャップで読書部、みたいなのを思案したとき、大学時代に美術部権限で使用しまくった印刷室が結びついてきた、って処です。いや、部誌を輪転機で刷ってホチキス止めして、毎月の活動報告として文連に出して、とか、そんなんやってたんですね。ただそれはかなり昔のことなので、今の物語を書くときは、そういう時代もあった、という描写で。
なお、全体の中では久し振りの男主人公。彼の古本的知識というか”背表紙の色”などの話は、大学時代に自分自身が古本屋を回りまくってた事に由来します。
しかし学園祭前の学校。夜でも皆が残って作業していたりってのは、今でもあるんでしょうか。灯りのついた校舎を見上げるのは、自分なんかだと原風景の一つです。
全体として変に自分の経験が生きてるので、リアルな部分ありますね。
読んでいてそれとなく気づいた人もいるかと思いますが、舞台となってる学校は「嘘で叶える約束」と同じ学校と、自分の中で明確にして書いてます。「素敵の距離÷2」で告白の木が出たように、この街は”木”がシンボルなんだと思ったりで。
●自由の置き場
頭の良い二人を出そう、と馬鹿な頭で考えたとき、その解りやすい差として、授業の捉え方を使うことにしました。自分の高校時代、各教科の担当がまあ個性強いのばかりでして、誰一人として同じような授業がなかったんですね。その中で、テストよりも”持論含みで授業して、各学期ごとに板書したノートを回収し、それを重要視する”という先生と、”教科書に書いてあることだけを板書で説明する”という先生がいまして、しかしこの二人の授業が結構記憶に残っていたりします。なのでこの二派で二人を描写していく感。
頭がいい連中特有の「途中を抜かして会話する」も多用してみたら、マー会話が速い速い。この二人はファミレスで時間潰すようなことしないで、コンビニと帰宅途中でテキパキいろいろ終わらせるだろうなあ、と、そんな感じで書いてました。でまあ、頭良くて完結しているからこそ、お互いの体調や連絡というアナログな部分で油断する、と。
ともあれ”速度感”では全体の中で随一だと思います。
舞台となっているのは学校と駅ですが、駅舎は地方独特の複線をまたぐような二階屋駅舎。
平成の初期に、各所にあった古い駅舎が、何処も同じような形のものに作り直されることが多くありましたが、地方や校外独特の共通項としてイメージしやすいものだな、と今になって思ったりです。
なお「作画が凄くて抜けないエロ漫画みたいな」という表現を入れたとき「ああ、現代の話をやってるな……」と思いましたが、よく考えたらナルゼあたりは普通に言う。
●再会の夜
これまで書いた九本の要素を「今後」という空気も含めてまとめてみようと、そんな感じの一作です。皆結構、学生生活を謳歌してるので、そんな連中と「地獄の片隅で笑う」の主人公の、間を埋めるような話、という感で。
なので基本的な舞台を、学校ではなく「学校ではない処、生活へと向かう場所」として、駅と、学生以外が主に使用して年季の入った立ち食い蕎麦屋で。時間帯も、未来へ繋がる駅の方が日中で、地元では主に夜と、そんな感じで差をつけました。
いやまあ、やはり夜歩きですよ。大学時代、二年くらいから夜に気分転換がてら、三キロほど離れた駅前を通過し、行きつけのゲーセンに行ってたりしました。後にそこで仲間とバイトするようになるんですが、以後もその夜歩きは続いたりして。あの、灯りがついた街を、更に強い灯りのある駅やコンビニとかに向かうとき、そこに「誰か知ってるヤツがいるんじゃないか」と、そんな確信無く思える雰囲気は、やはり独特ですね。
学生時代の勢いばかりの時期から次の時期へ向かいつつ、原風景のようなものがあることに気付き出したりと、そんな”中間”時期の話ですが、どんなもんでしょうか。
ともあれ現状、全体こんな感じで。3,4があればアレやコレやのまた話が出せると思いますが、機会ありましたら、ということで。
作業BGMはいろいろですがメインとして元気ロケッツのTouchme(Kzmix)で。どいつもこいつもこのくらい元気で良いんじゃないでしょうか。
ではまあ、
「誰が一番恋を知ってるんだろうか」
という処で。
令和二年八月 やたら暑い朝っぱら
川上 稔
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