真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である

 飲み続けているうちに、そういえば彼方かなたが静かだなぁと思って見たら、小さい勇者は酔い潰れていた。

 テーブルにぺたりと倒れてくーくーと寝息をたてている。

「おい、ちょっと。そんなとこで寝るな」

 指先でちょんちょん突ついてみたが、彼方かなたが起きる様子はない。

 指を避けるようにころんと寝返りを打つと、むにゃむにゃ言いながら丸くなった。

 ……久しぶりの酒だとか言いながら、やたらハイペースに飲んでたからなぁ。それにしたって仮にも勇者が前後不覚で揺さぶられても起きないとか、いいんだろうか。

「ほら、起きろー。寝るなら寝床いけ」

 もうしばらく声をかけながら突っついてもダメだった。

 手の掛かるヤツだ、仕方がない。そっとつまみ上げ、手のひらに乗っける。やはり起きない。彼方かなたはややしっとりひんやりしていた。

 気をつけて運びながらふと思う。

 彼方かなたは居るかどうかも定かでない魔王を探しているけれど。確実に存在しているはずなのに実体の分からないヤツがもう一人いる。


 勇者の召喚者。


 彼方かなたは召喚をはっきり自分の魔法じゃないと言った。ならば勇者をうちの風呂場へ送り込んだヤツがいるのだ。

 果たしてそいつは何を思ってそんなことをしたのだろう。魔王を知っているのか。あるいは違う意図があったのか。なぜその後干渉してこないのか。できないのか。

 そもそも味方なのか、敵なのか。

 分からないことだらけだ。

 部屋の隅にしつらえてある彼方かなたの寝床へ放り込む。寝こけている彼方かなたは、ちゃんと自分で布団へもそもそと潜りこんでいった。

「……むにゃー……」

 その寝顔はなんとも幸せそうである。

「………………………………このやろー」

 ずぶりと指を突き刺すと、勇者はぐへぇと潰れた。

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