アルバイトに精を出す彼方さん
いいかげん部屋に掃除機をかけたい。
ここのところばたばたしていて、ちょっと掃除がご無沙汰だ。幸いに天気もいいし、換気にほどよい風も吹いていて掃除日和だ。
惰眠をむさぼっていた小さい勇者をたたき起こし、朝食を片付けるようせっつく。ぼうっとした
「今から掃除機かけるから。高いとこにいて」
そう言うと、
動きまわってすっかり汗をかいた。まだ4月だというのに最近めっきり気温が高い。
一休みとばかりに台所の椅子に座って水を飲む。テーブルの上では
「……? どうかした?」
「ん。いや。なんつーかなぁ」
「いっつも食べさせてもらって、世話になりっぱなしだからなァ。少しは俺も稼いで返したいんだが。なんかないか? 俺にできる仕事」
15センチのかっぱ、もとい異世界人からの就労相談。これはなかなか難しい。
「……うーん、ユーチューバー? ごめん、今のなし」
とっさに口走った単語へ
「うーん。新聞配達なんて(朝起きれないから)絶対無理だし、コンビニも無理だろうし。そもそも雇ってくれる店がある気がしないな」
そう言うと、
「一応、これでも勇者だからな。腕っぷしには自信があるんだが。賞金首とか、いないのか?」
いないですね。
「まぁ、あれじゃない。それこそ勇者なんだから、本来の仕事の魔王討伐に注力してれば?」
世話になっているだなんて妙な気遣いはいらない。そんな意味を込めて言ってみたけれど、
「でもよ。俺は俺が稼いだ金で、お前に生ハムを食べさせてやりてぇ」
そんな風に言われ、悪い気はしない。というか、まぁ、嬉しい。でもそれ、生ハムって自分食べたいだけじゃなかろうか。
前食べたとき、相当気に入ったようだけど、あれっきり買ってきてないからなぁ。
「だから、なっ。俺でも稼げる方法をなんか一緒に考えてくれ」
そんなに必死にお願いされても、そうそう思いつくわけがない。仕方なく、うーんと二人一緒に唸る。窓から入ってくる風が生ぬるい。もうすぐに暑い季節になるな。今日はついでにクーラーのフィルター掃除もやっちゃうか。扇風機も一度洗っておきたいし。
「あ、そうだ」
放り出したままの掃除機見てたら思いついた。
「うちに来たころにタンスの裏の埃を掃除してたこと、あっただろ。あの時みたいに掃除機の入らないとこの掃除してくれたら、すっごい助かるんだけど」
依頼を受けてもらえるだろうか、と丁寧に頼んだら、
「そんなもん、お安いご用だ!」
言うが早いか飛び出し、つむじ風のようになって隙間へ消えていった。
うん、これでよし。さてと、フィルター掃除やるか。
彼方旋風は予想以上にいい働きをしてくれた。
タンス裏はもちろんのこと、ベッドの隙間から桟から、とにかく隙間や溝を総ざらいだった。地味に嬉しかったのは冷蔵庫の裏だ。置いて以来一度も掃除なんてしてなかったから、それはもうひどい有り様だったらしい。
「どうだ!」
「うん、これはすごい。これは報酬をはずまないと」
ちょうど財布に五百円玉があったので、それを渡す。
「おお、こりゃ、デカいコインだな。これで生ハムは買えるのか?」
「うん。この間食べたぐらいなら、余裕で」
「そうかそうか……って、そーじゃないだろ!」
「お前から稼いでどーするッ。それじゃ意味ないだろうが。俺が欲しいのは外貨だ!」
ふむ。やっぱりお小遣いじゃ誤魔化せなかったか。
「まぁまぁ。お前の稼ぎかたはおいおい考えるとして。今日はそれで生ハム買ってくるよ」
彼方は微妙な表情で逡巡していたが、ほどなくしてそっと五百円を差し出してきた。生ハムの誘惑には抗えなかったらしい。
その後。ふとした思いつきから、
おかげで
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