やめられない 、とまらない!

 はっきり言って冷凍のお好み焼きは、旨い。

 もちろん鉄板で焼いて食べるお好み焼きとは違うのだが、ソースとマヨネーズをぐちゃぐちゃにのっけて食べるのが好きだ。

 彼方かなたもどうやら気に入ったのだろう。勇者の槍をソースでベタベタにしながら最後の一口を頬ばった。

 でも一つ問題がある。解凍にかかる時間が結構長いのだ。立て続けに二枚チンして、三枚目となるともう面倒くさい。

 まだ酒は飲み足りないし、そうなるとやっぱりつまむものがないと口が寂しい。なにかないかと乾き物をストックした袋、通称つまみ袋をごそごそ漁る。

 下から出てきたのは赤いパッケージでおなじみ、カルビーのかっぱえびせん。「やめられない、とまらない」あれだ。好きでたいてい買い置きしているのだが。

「…………」

 ふと思う。なんでえびせんなんだろうか。エビともせんべいとも関係ないだろう。……実はかっぱの好物、とか?

 いやでも、さすがに彼方かなたもかっぱえびせんは知らないはずだ。カルビーさんが異世界に出荷してるとかでない限り。

 これでいいやとかっぱえびせんを開け、空いていた皿の上に出した。

「! おおおおおおおっ」

 突然彼方かなたが奇声を発する。びっくりして見ると、腰を浮かせた彼方かなたがキラッキラ輝く目でかっぱえびせんを見つめていた。

「それ、かっぱえびせんじゃねーか!」

「…………え?」

 彼方かなたはさっそく一本つかみ、パリパリ美味しそうに食べ尽くした。満足げに口のまわりを舐める。すぐに次の一本を手に取った。

「こっちのかっぱえびせんも旨いな。うちのかっぱえびせんと甲乙つけがたいな、こりゃ」

「そっちの世界でもかっぱえびせんって買える、のか?」

 まさかカルビー、売ってる?

「は? 買う? そんなわけないだろ。これはあれだ、お袋の味だ。子供の頃、よく作ってくれて食べた」

 かっぱえびせんが手作りおやつ……そんな馬鹿な、と思う。どうして異世界にかっぱえびせんがあるんだ。まさかカルビーの人が異世界転移して? いやそれとも、異世界から来た人がカルビーに就職したとか。

 混乱しているうちに目の前では彼方かなたが次々とかっぱえびせんを食べている。まさにやめられないとまらない、だ。食べ損ねてはたまらない。慌てて一本取った。

 日本酒を一口。そしてかっぱえびせんを一本。日本酒のほのかな甘みとかっぱえびせんのしょっぱさ。永久ループものだ。それぞれの盃に酒を追加しながら彼方かなたに聞いてみる。

「ってことは、お前もかっぱえびせん作れるのか?」

 もしや焼きたてかっぱえびせん食べ放題も夢ではないかもしれない。しかし彼方かなたはあっさり首を横に振った。

「そんなもん、無理に決まってるだろ。俺はお袋じゃないからな」

 そこはレシピ受け継ぐとかしとけよ。でも、そうか。こいつ。

「……もとの世界に家族残してきてるんだよな。お前のこと、心配してるんじゃないか?」

 彼方かなたはちょっと遠くを見る目をし、それから苦笑しながら肩をすくめた。

「そうかもな。でもたぶん大丈夫だ。もともと俺は魔王を倒す旅に出るために、一族を飛び出したからな。今さらそんな無頼もんの心配するような親じゃねぇな」

 そう言うかっぱは、しかしどこか寂しげで、なのにかっぱえびせんを食べる手を止めることはなかった。仕方なくもう1袋開ける。

「……結婚とか、子供とかは? いたのか?」

「いや。気楽な独り身だ。……もっとも恋仲な相手ぐらいはいたが」

「そっか」

 恋人を残して異世界に来て帰れなくなっているというのは、さぞ不安なことだろう。彼方かなたは眉間に深いしわを刻み、苦り切った表情を浮かべた。いやでも。恋人のことを思い出しているにしては苦悶しすぎじゃないか、その顔。

「どんなだったんだよ?」

 彼方かなたは右手にかっぱえびせんを握ったまま、左手だけで器用にペットボトルのキャップを呷った。

「そうだなぁ。だれの話をすっかな」


 ……………………………………………………………ん?



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