お帰りいただいて結構ですよ、彼方さん
勇者とは元来孤独な生き物だ。
その存在は、ただ魔王を倒すためにある。
富、栄誉、名声、地位。それらの価値も塵芥に過ぎず、虚無しか生まない。
家族、友人、仲間、恋人。だれも存在目的を共有することはできず、真の理解者たり得ない。
ただ
勇者は、愛と勇気だけが友なのである。
――なんていうのは、昔読んだマンガの勇者だったか。なんか目の前の
「おいおい、どういう意味だよ、それ。まさかお前、そんな彼女たくさんいたのか?」
ツッコむと、
「ままままさか、そそそそんなわけ、ないだろ」
なんかめちゃくちゃ動揺している。これは、怪しい。
ぐいっと酒を一口流し込み、ずいっと
「だよなー。勇者様だもんなー。まさか二股なんてカッコ悪いマネ、できなよなー」
「そっ、そうだとも。そそ、そんな。ふ、ふふ二股なんて。ふっ、不誠実な!」
「……………………」
脂汗をだらだらかいて、目が泳ぎまくっている。空いていたキャップに酒を注いでやっても、少しも口に運ぶ気配がない。
「うん、で。だからお前の彼女ってどんな
「うっ。や、だから、彼女っていう、そもそもそれが誤解だ! 俺に正式に付き合ってる女はいない」
「え? いやだって、さっき自分で恋人がいるって自慢げに言ってただろ」
「恋人違う。恋仲の相手、だ! あと自慢じゃない」
この勇者、詭弁を弄してますね。
「じゃあまぁ、その恋仲の相手ってのにどんな人がいるか、ちょっと話してみろよ」
窺うようにちらりと見上げてから、
しかも。
世界のために、
「よく
「や、それは、まぁな。べ、別に後ろめたいことはしてない、ないぞ。うん。バレなきゃいいんだし、な」
バレなきゃとか言ってる時点でアウトだと思う。でも血の気のひいた顔で手をぶるぶるさせてる
というか、こんなあからさまに狼狽えて、なにもなかったとは思えない。
「ふうん。じゃあ、バレなかったわけだな」
「ぎっくう」
うわあ。口でぎっくうとか言った。
「……バレたのか?」
なんとか誤魔化そうとあわあわしていたかっぱは、そしてとうとう涙目でこくりと頷いた。
「よりにもよって、
修羅場になったらしい。でもそれ、自業自得だよな。
「そんなときに、召喚陣が現れたんで――」
修羅場を放置して召喚陣に逃げ込んだ、と。
「え、ってことは、お前。もしこの世界の魔王とかを倒せて自分の世界に帰れたら、……修羅場なの?」
「…………なんかうまい感じにみんな記憶なくしてたりしねーかなー」
無理だと思う。
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