勇者様の魔王判定基準が。

 冷凍お好み焼きのレンチン待ちで手持ち無沙汰にしているときだった。

「そういえば俺、昼間にもこれ見たんだが」

 テレビを見ている彼方かなたが言う。

「これ?」

 ちょうどニュースで今日の国会を取り上げている。“これ”というのはどうやら国会中継のことらしい。そんなもの見てたのか……。

「そう、これだ。何時間もやってた。これって、この世界の議会なのか?」

「えーと。議会と国会って意味一緒? だよな……うん、俺の住んでるこの国の議会ってので合ってる、と思うけど」

 あんまり社会は得意じゃない。歴史ならゲームや漫画で多少なじみがあるが、公民となると正直さっぱりだった。歯切れの悪い返答に彼方かなたがちょっと不審そうな顔をする。慌てて質問をくっつけた。

「てかお前、国会中継を何時間も見てたの? 面白かった?」

 彼方かなたはどういう意味なのか口をすぼめた。

「んー、なんつーか。最初は驚いたんだ。議会とかって普通は覗いちゃいけないもんだろ、特に俺みたいなヨソ者が。見てていいもんか悩んだんだが、誰にも怒られないし、魔王についての話し合いでもしてないかと思って」

 ずるずる見続けたらしい。でも何百時間見てたって魔王はぜったい議題に上がらない。

「ま、今日は魔王の話は出なかったみたいだが。なかなか言ってることが難しくってな。アレはアレだろ? なんか決まった慣用表現とかがあるんだろ?」

 ん? 慣用表現?

「こっちの世界へ来たときに召喚陣が翻訳してくれたみたいで、日常会話は困らないんだが、さすがに慣用句とかはな、分からないみたいだ。質疑応答っぽかったが、質問の意味は分かっても答えてるヤツの言ってることが分からん、みたいな」

 ……たぶんソレは、慣用表現とかのせいじゃなかっただろうと思う。が、黙っておこう。普通に議論してアレだと思われるのは、ちょっとアレだ。うん。

「よく意味も分からない国会を何時間も見れたな」

 呆れ半分感心半分で言う。俺なら国会中継は5分も見れない自信がある。

「ヒマだったからな、じゃなくて。これも魔王捜しのためだからな」

 勇者はニヒルな笑みを浮かべるが、本音ダダ漏れでいまいち締まっていなかった。

「で、だ。その国会中継こっかいちゅーけーとやらを見てたらな、なんか紛糾しててな」

「……紛糾……」

 国会は今ちょうど某大臣の不正献金がどうのと騒いでいるから、たぶんそのせいだろう。

 そろそろお好み焼きもできる頃合いだろうと、いつものキャップにCGCいつもの酒を注ぐ。彼方かなたは待ってましたとばかりに手を伸ばし、ちろりと舐めた。

 そして深い笑みをたたえ、不敵に瞳を輝かせた。

「それでどうやら俺は魔王を見つけたぞ」

「は、え!?」

 思わぬ言葉に驚いて心臓がはねる。おちょこに注ごうとしていた酒がこぼれた。

「だ、誰が……?」

 彼方かなたが無言でテレビを指さす。映っていたのは例の疑惑の大臣だった。

「え、そんな、まさか。でも、なんで……?」

「んー。今日見た中で一番顔が


 見 た 目 で 判 断 ま じ か !


「いやいやいやいや。そんなわけあるか! 確かにあの顔は、悪の総帥チックな顔だけれども。誰もが一度は思うけれども!」

 でも、いくら疑惑の渦中の人とは言え、某大臣を倒したところで特に世界は救われない。言っちゃなんだが、そこまでの人ではないと思う。あれが魔王だったら世界は平和だ。

「はははは、やっぱダメか。もう魔王っぽいヤツ倒しときゃ、いいんじゃねーかと思ったんだが」

 どうやら彼方かなたもさほど本気ではなかったらしく、というか冗談だったようだ。紛らわしい。

「まったく。適当に魔王とか言うなよ。驚き損だよ」

「悪い悪い」

 口では謝っているものの、その顔はちょっとつまらなそうで、冗談が思ったほど受けなかったとでも言いたげだ。

 憮然として睨みつけてやったら、彼方かなたは神妙な顔になって酒を口に運んだ。

「悪かったって。もっとも、正体の分かってる魔王なんかより、隠れ潜んでる魔王の方がよっぽど厄介だがな」

 彼方かなたの不吉な一言に、電子レンジの終わりを告げるピー音が被さった。



 ちなみに。

 それからはよく彼方かなたと“魔王っぽい顔選手権”を開催したのだが、とうとう最後まで某大臣よりは見つからなかった。



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