ライフライン:テレフォンを使用します
「あ、もしもし。母さん?」
昼休憩中、久しぶりに実家に電話する。
「なに、突然。どうかした?」
変わらないのんびりとした母の声。なんて言うと郷愁っぽいが、なんのことはない。実家は車で15分もあれば行けちゃう近場だ。なまじっか近いと顔を出さないというだけである。
「いやちょっと聞きたいことがあんだけど」
ちなみに実家の方が駅の近い街中にある。朝の通勤渋滞に閉口して、職場に通いやすい安アパートへ出たというだけだった。
「なに? 結婚でも決まった?」
「違います。あのさぁ、前になんとかってきゅうりが美味しいつって、よく買ってきてただろ? あれ、なんてきゅうりだっけ?」
電話の向こうで母が「はぁ?」と間抜けな声を出す。
「またなんで、きゅうり……?」
「いや、ちょっと急に気になって。いいだろ、別に。なんだっけ?」
「うーん、きゅうりねぇ。えーっと。ああ、あれのこと? 大橋さんの
「すーよーきゅうり?」
「そうそう。見た目はあれだけど、味がよくて、歯ごたえもよくて、あれが一番」
「どこで買ってる?」
「え?
そうか、生協か。組合員になってないので、残念ながら買いに行くのは難しい。実家を出てからはとんとお世話になっていない。
「ありがと。ちょっと探してみる」
「なんでそんなにきゅうり? まぁいいけど。また見かけたら教えてあげようか?」
「うん、よろしく」
電話を切って、すーよーきゅうりすーよーきゅうりと何度かつぶやく。聞いたことのない名前だ。なにか特別なきゅうりなんだろうか。
まだ時間があったので、ググってみる。簡単にきゅうりの一品種として出てきた。特殊な品種とかではないらしい。やはり味の評判はいい、が。あまりスーパーには出回らないという。うーむ、残念。
家庭菜園ではお勧めの品種らしい。え、いっそ育てる?
苦瓜と一緒に植えてみようか。
きゅうり栽培、そんな甘くなかった。枯れた。ごめん。
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