猫にマタタビ、かっぱに……。

 日曜の午後というのは、どうしてこんなにどこもかしこも混み合うのだろうか。店も駐車場も道路も人・車・人・車・人・人・車車人車人人。うんざりする。

 もちろん都会の人口に比べれば大したことないのだろうが。田舎には田舎の煩わしさがある。なにぶん娯楽になるようなところが限られるので、人が一極集中。密度は否応なく高い。

 いつもの週末なら買い出しになど出ないか、出るにしたって早めに出て混雑回避を計る。でも今日は、おっさんみたいなかっぱとゆるゆるしてしまったのがいけなかった。彼方かなたと見るヒーロータイム面白すぎた。

「しかもなんで俺、イオンとか来てんだ」

 日曜午後のイオン。メチャ混みである。駐車場の空きを探してうろうろする。警備員さんの、ここはいっぱいだからあっち行ってという棒振りに独り言とため息が出る。

 ただの買い出しだったらもう少し混んでない普通のスーパーに行けば事足りたのだ。それをよりにもよってイオン! あっちのマムスーパーとかで良かったのに。いや、あそこのマムは駐車場が狭いくせにやたら客が多くて、しかも向かいが杏林堂ドラッグストアだから交差点も混むし、結局いつも行かないんだよな。いつもの遠鉄スーパーは駐車場が広くていいのだが、イオンの近くで道は混むし隣がやっぱり杏林堂だから混む。ちょっと足を伸ばしてマックスバリュスーパーか。あそこも駐車場は広かった。あ、でも斜向かいが杏林堂。てか多いな、杏林堂。

 とかなんとか考えているうちに面倒になって来ちゃったんだから仕方ない。あきらめて一番隅の駐車場へ停車する。イオンのスーパー部分は遥か遠くだ。なんでこんなバカみたいに広いのか。

 買い物袋を引っ提げてとぼとぼ歩く。さて、今日も出来合いの惣菜でいいだろうか。それともたまの休みぐらいなにか作ろうか。料理は得意でも好きでもないが、一人暮らしが10年に近くなれば、さすがに切ったり焼いたりぐらいはできる。

 どうするか決まらないまま人の混み合うスーパー内をぐるぐる回る。なぜだろう、大抵のスーパーが入り口に野菜と果物売り場が配置されている。しかし肉・魚メインが先に決まらないと、野菜見たってしょうがない。なんで肉とか魚の売り場を先にしてくれないのだろう。

 うろつくこと三周。なんとか献立つまみを決めて訪れた野菜売り場で、ふと緑のアレが目に入る。……そういえば、留守番してくれている勇者は見た目がかっぱなわけだけど、好物はどうなんだろうか。やっぱりきゅうりコレを喜ぶんだろうか。

 嬉しそうにきゅうりにかぶりつく彼方かなたを想像し、買い物かごに1袋入れた。


「よし。できたぞ」

 ご飯、麻婆春雨まーぼーはるさめ(フライパン一つ、お手軽レトルト)、日本酒をテーブルに用意する。彼方かなたは、取り分けてやった麻婆の匂いをふんふんと嗅いだ。

「なんか辛ウマそうな匂いだな。ふむ、こっちのこの酒には辛いのが合うからな」

 すでにずいぶん嬉しそうだ。しかし、今日の目玉はこっちである。

「それから。じゃじゃーん」

 小さめに切ったきゅうりスティックの山を彼方かなたの横に置く。予想通り、彼方かなたが目を輝かせた。

「おおおおおおっ! なんだなんだ、きゅうりじゃねーか。こっちの世界にもあるのか!?」

「うん? そっちの世界でもきゅうりっていうのか。そしてやっぱり好きなのか」

 さらに深まるかっぱ疑惑。というか、こいつはかっぱだな、もう。

「おう、きゅうりだからな。最高だろ」

 うきうきと手を伸ばす。期待に満ちた目でうっとり一眺めし、おもむろにしゃくりと囓った。

「………………………………………………………………………、うまい。」

 あれ。急にテンションが下がった。微妙に困ったような顔でしゃくしゃくと咀嚼している。

「ええと、きゅうり、違った?」

 無言でしゃくしゃくやっている彼方かなたにそっと声をかける。

「ん? ああ、いや。俺の知ってるきゅうりとだいたい同じだ」

「そっか。……美味しくなかった?」

 ほぼ真顔でしゃくしゃく食べ続ける。

「いや、うまいよ。ただ、」

 言いづらいのか表現しがたいのか、彼方かなたはぼそぼそ続ける。

「なんつぅかな。味がどこか寂しい。物足りない、ってか、すっきりしすぎってのか」

 その間もぽりぽりもくもくと食べてくれている。

「俺の世界のきゅうりは、もうちっと苦みとか青臭さがあって。いや、ほんと、これはこれで食べやすいしうまいと思うが」

「そっか-」

 品種改良の結果だろうか。食べやすさ旨さを追求して、青臭さとか泥臭さとか苦みとかは抑えられているのかもしれない。野菜ですら“甘い”ことがステータスの時代だ。

 ともかく「これはこれでうまい」というのも嘘ではないらしく、彼方かなたは笑顔に戻ってきゅうりを食べていた。


 ……かっぱが驚くほど美味しいきゅうり、どっかで売ってないかな。


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