猫にマタタビ、かっぱに……。
日曜の午後というのは、どうしてこんなにどこもかしこも混み合うのだろうか。店も駐車場も道路も人・車・人・車・人・人・車車人車人人。うんざりする。
もちろん都会の人口に比べれば大したことないのだろうが。田舎には田舎の煩わしさがある。なにぶん娯楽になるようなところが限られるので、人が一極集中。密度は否応なく高い。
いつもの週末なら買い出しになど出ないか、出るにしたって早めに出て混雑回避を計る。でも今日は、おっさんみたいなかっぱとゆるゆるしてしまったのがいけなかった。
「しかもなんで俺、イオンとか来てんだ」
日曜午後のイオン。メチャ混みである。駐車場の空きを探してうろうろする。警備員さんの、ここはいっぱいだからあっち行ってという棒振りに独り言とため息が出る。
ただの買い出しだったらもう少し混んでない普通のスーパーに行けば事足りたのだ。それをよりにもよってイオン! あっちの
とかなんとか考えているうちに面倒になって来ちゃったんだから仕方ない。あきらめて一番隅の駐車場へ停車する。イオンのスーパー部分は遥か遠くだ。なんでこんなバカみたいに広いのか。
買い物袋を引っ提げてとぼとぼ歩く。さて、今日も出来合いの惣菜でいいだろうか。それともたまの休みぐらいなにか作ろうか。料理は得意でも好きでもないが、一人暮らしが10年に近くなれば、さすがに切ったり焼いたりぐらいはできる。
どうするか決まらないまま人の混み合うスーパー内をぐるぐる回る。なぜだろう、大抵のスーパーが入り口に野菜と果物売り場が配置されている。しかし
うろつくこと三周。なんとか
嬉しそうにきゅうりにかぶりつく
「よし。できたぞ」
ご飯、
「なんか辛ウマそうな匂いだな。ふむ、こっちのこの酒には辛いのが合うからな」
すでにずいぶん嬉しそうだ。しかし、今日の目玉はこっちである。
「それから。じゃじゃーん」
小さめに切ったきゅうりスティックの山を
「おおおおおおっ! なんだなんだ、きゅうりじゃねーか。こっちの世界にもあるのか!?」
「うん? そっちの世界でもきゅうりっていうのか。そしてやっぱり好きなのか」
さらに深まるかっぱ疑惑。というか、こいつはかっぱだな、もう。
「おう、きゅうりだからな。最高だろ」
うきうきと手を伸ばす。期待に満ちた目でうっとり一眺めし、おもむろにしゃくりと囓った。
「………………………………………………………………………、うまい。」
あれ。急にテンションが下がった。微妙に困ったような顔でしゃくしゃくと咀嚼している。
「ええと、きゅうり、違った?」
無言でしゃくしゃくやっている
「ん? ああ、いや。俺の知ってるきゅうりとだいたい同じだ」
「そっか。……美味しくなかった?」
ほぼ真顔でしゃくしゃく食べ続ける。
「いや、うまいよ。ただ、」
言いづらいのか表現しがたいのか、
「なんつぅかな。味がどこか寂しい。物足りない、ってか、すっきりしすぎってのか」
その間もぽりぽりもくもくと食べてくれている。
「俺の世界のきゅうりは、もうちっと苦みとか青臭さがあって。いや、ほんと、これはこれで食べやすいしうまいと思うが」
「そっか-」
品種改良の結果だろうか。食べやすさ旨さを追求して、青臭さとか泥臭さとか苦みとかは抑えられているのかもしれない。野菜ですら“甘い”ことがステータスの時代だ。
ともかく「これはこれでうまい」というのも嘘ではないらしく、
……かっぱが驚くほど美味しいきゅうり、どっかで売ってないかな。
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