当世界の人間のMPはだいたい3ぐらい

「しかし、あれだな。これってのは、どっかの景色を映してるんだろ? こんな常時発動状態で大丈夫なもんなのか、コストとか」

 テーブルの上でテレビの方を見ながら寝そべった彼方かなたが言う。これが彼方かなたのテレビに対する初感想だった。

「あー、うん。まぁ、電気代はかかるけど。特に問題はない」

 テレビを1時間視聴した場合の電気代とか考えたことはないけれど、そんな大したお値段にはならないのではなかろうか。たぶん。

「ふうん。電気代。電気ってのはなんだ?」

「……あー。電子って分かりますかね?」

 一応理系の端くれ。学生時分に叩き込んだ電子やら電荷やら電流やらは記憶の片隅に残っている。しかし彼方かなたはにべなく首を振った。

「分からん」

「……んー。つまり。なんかビリビリする、雷的なアレなんですけど。……うん。魔力。こっちの世界の魔力」

 たぶん、間違ってない。

「へぇ。でも、代価がかかるってことはあれか、自前の魔力じゃないのか」

「まーそう。うーんと。電気は大量に生成する技術があるんで、それを各家に送って、生活の道具の動力にしてる、感じ? で、使った分だけお金を払う」

「ほう。供給システムが確立してるってのはすごいな。それなら個人の魔力差に生活レベルが左右されないってことだろ」

 彼方かなたがえらく感心した風に言う。なんだろう、彼方かなたの世界では生まれ持った魔力で生活レベルが決まってしまうんだろうか。それはキツいと思ったが、……この世界でだって生まれ持った人間のデキみたいなものはあるわけで、実はあんまり変わらないのかもしれない。

「ところで、日常生活は送られてくる魔力で賄えるとして。お前自身の魔力は使わないのか?」

 寝そべって腕枕で見上げてくる彼方かなたは、休日のおじさん像そのものだ。

「いや。この世界の人間には魔力ないから」

「はっ!?」

 彼方かなたが声を上げて目を丸くした。そんなに驚くようなことだろうか。

「全然ないのか!?」

「うん。あ、いやちょっと待って」

 魔力イコール電気という話なら。

「一応あるわ。魔力」

 心臓も脳も、要は筋肉も神経も電気の働きで動いている。つまり生体電気イコール自前魔力。

「だろだろ。そりゃ魔力がないなんてそんな馬鹿な」

「つっても微々たるもんだけど。体内でしか働かないし」

「ふうん、そうなのか。ってことは、この世界の人間は魔法は使えないってことか? 意味ないな」

「まーそうだね。ただ生命維持に欠かせないから、魔力ゼロになったら即死ぬけど」

「しッ。……難儀だな、そりゃ。魔法とかに使ってる場合じゃないぞ。というか、その送られてくる方の魔力で少し補給したらいいんじゃないか?」

 さもいいことを思いついたと言わんばかりに彼方かなたが言ってくる。それはつまり電気ショック?

「まー確かにそういう緊急治療法もないことはないけど。基本人間に必要な魔力は僅かだから。あのテレビ動かす量の電気が俺に流れたら……」

「……たら?」

 彼方かなたがごくりとつばを飲む。

「死ぬ」

 かっぱがさーっと青くなった。おもむろに起き上がり、正座をする。

「……この世界、なかなかヤバいな……」


 それから。彼方かなた情報収集魔王捜しにテレビがいたく便利だったらしい。昼間一人でいろいろな番組を見漁ったようだ。その結果、半月後に来た電気の検針票で請求金額が跳ね上がっていて、それはもう肝を潰すことになった。

 案外テレビの電気代ってかかってるんだなー……。

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