「ちょっとした遊びのつもりだったわけですか」

「実は、ヨシキくんとはじめて会ったのは、今から6年くらい前。まだ彼が高2の頃なのよ」

「そんなに前なんですか?!」

「ドラマの役作りのためにコスプレ会場に取材に行ったことがあってね。そこでコスプレイヤーさんを撮影してたヨシキくんを見つけて、いろいろ話を聞いたの。ぶっちゃけ、好みのタイプだったしね。

そうしたら彼が、『撮らせてほしい』って、熱心に誘ってきて」

「みっこさん… ヨシキさんみたいなのが好みなんですか?!」

「まあ、ちょっとした遊びのつもりだったのよ。

ヨシキくんってイケメンで、性格もワイルドだけど素直だったし、写真の腕もよかったし。

なにより、なりふり構わず情熱をぶつけてくる所が、若いっていうか。その頃あたしも特に彼氏とかいなかったし、なりゆきで1年くらい、同棲したかなぁ」

「どっ、同棲っ?!」

「あ。ごめんね。今のカノジョにこんな話ししちゃって」

「あ、、、 あはははははは、、」

「凛子ちゃん?」

「す、すみません。でももう、笑うしかないです。

ヨシキさんとみっこさん、すごすぎ。

逆に尊敬します。

今のふたり見てても、全然そんな関係だったと思えませんから」

「今はもう、完全に終わってるのよ」

「でも、ヨシキさんは何気に引きずってますよ。『オレはだれも信じられない。恋愛なんて儚い夢だ』なんて、恋愛観荒んだままだし」

「あは。嬉しいわね」

「そういえば、山口の角島でCM撮影したって、ヨシキさんは言ってたけど、もしかしてモデルはみっこさんでしたか?」

「ああ。そんなお仕事もしたわ。近くの地中海風のホテルに泊まって、角島の橋の上や海岸で撮影して」

「ヨシキさんと行った夏のバカンスは、そのリゾートホテルだったんです」

「ふぅん… そうだったんだ」

「ヨシキさん、妙にその場所にこだわってるなとは感じてましたけど、みっこさんとの思い出の場所だったなんて」

「あたしとの思い出を、凛子ちゃんで上書きしたかったのかもね。ヨシキくんもあれでいて、引きずるタイプなのね」

「みっこさんとヨシキさんは、どうして別れたんですか?」

「そうね~… 元々、ちょっとした好奇心からだったし、さすがに年齢差考えると、いつまでもいっしょにいるのも、悪いかなと思って」

「でもヨシキさんは、本気だったみたいです。みっこさんに失恋して、すっかり女性不信になっちゃったんですよ」

「そっか。ちょっと悪いことしちゃったかな」

「あ~。小悪魔発言! まあ… そこまでヨシキさんに影響与えられたみっこさんって、やっぱりすごいですけど」

「ごめんね凛子ちゃん」

「もういいんです。それよりもっと聞かせて下さい!」

「聞きたいの?」

「ぜひ聞きたいです。どうせ6年も前のことでしょ? 今はもう関係ないんでしょ?」

「それはそうだけど。下ネタ多めになるわよ」

「大好きです。それ」


茶化すように言うみっこさんに、わたしは応酬した。


「そういえば、ヨシキさんが川島さんの会社に入れたのも、みっこさんのおかげですか?」

「結果的にはそうなるかもね。川島くんに紹介したの、あたしだったし」

「掲示板にありました。『ヨシキさんの枕営業』だって」

「枕営業かぁ。掲示板に書いてあることも、あながちデタラメってわけじゃないのね」

「へぇ。みっこさんの紹介だったんですね。他にもなんか手ほどきしたんですか?」

「そうね…」


考えるように軽く腕を組んだみっこさんは、ニッコリ微笑んで言った。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る