「一度くらいギャフンと言わせてやりたいです」

みっこさんは少し考えて言う。


「もちろん来るでしょうね」

「…」

「会いたくない?」

「まあ、そうですけど、、、 仕事だから、気にしないようにします」

「ふふ… ヨシキくんなんか目じゃないって」

「え?」

「巨匠カメラマンの川島くんが撮るのよ。あいつの目の前で凛子ちゃんの最高に綺麗な姿、見せつけてやりなさいよ」

「それ、いいですね」

「『どんどん人気出てトップモデルになって、みんなが凛子ちゃんを望んでも、抱けるのはオレだけ』なんて言ってたんでしょ? ヨシキくん」

「え? よく知ってますね」

「川島くんから聞いたわ。ちょっと凛子ちゃんとつきあってると思って、ヨシキくんも調子に乗ってるわよね」

「そうなんです。ヨシキさんのあの自信は、どこから来るんでしょうか?」

「ま、どんな巨匠よりも、彼氏が撮った方がいい表情が写せるってのは、よく言われる話だけどね」

「そうなんですか?」

「モデルとカメラマンの信頼関係って、とても大事でしょ。ちょっと会って話したくらいじゃ打ち解けられないし、信頼関係もまだ築けてないから、緊張して表情も硬くなるわ。

でも、長い時間をいっしょに過ごして、信頼してる彼氏からカメラ向けられるのなら、モデルもリラックスして、いい表情が出せるってわけ」

「そうですね。確かに」


わたしを見ながら思いついたように、みっこさんは瞳を輝かせて言った。


「いっそのこと、凛子ちゃん、川島くんとつきあったら? 川島くんが彼氏だったら最強じゃない。ヨシキくん以上の写真だって撮れるわよ」

「ええっ?!」

「あ。ふた回りも年上じゃ、完全圏外か。凛子ちゃんから見ればただのおじさんだしね」

「いえ。川島さんは素敵だと思います。包容力あってやさしいし。いっしょにいて安心できる感じで、ヨシキさんにはない、おとなの魅力があります」

「そうよね。ヨシキくんって、よくも悪くも、子供だもんね」

「ですよね!

だいたい自信過剰だと思いませんか?

その高く反りかえった鼻を、へし折ってやりたくなります」

「凛子ちゃんも負けん気強いから、ふたりぶつかるわよね。

『オレはもてるんだ』って自信満々なヨシキくんの態度は、あたしでもつい、からかってやりたくなっちゃうけど」

「そうなんですよ。わたしも一度くらい、ギャフンと言わせてやりたいです」

「あは。だけど、あのヨシキくんを凹ますなんて、そう簡単じゃないかもね」

「ええ。でも、、、」


わたしはふと思い出した。


「そういえば、掲示板に書かれてたんですよ」

「なにを?」

「『某素敵レイヤーからこっぴどくフラれ連勝ストップ』って。

どうやらヨシキさん、高校の頃、だれかに大失恋したみたいなんですよね。

あのヨシキさんが本気で恋して、女性不信になるくらいの失恋するって、なんか信じられないけど。それが本当だとしたら、相手のひとがすごいってことですよね。いったいどんな人なんでしょうね」


掲示板の話を持ち出すと、みっこさんは困った顔をして、頬を赤らめた。


「ごめん… それ。あたしかも」

「ぇ、、、 ええ~~~っっ!!!」


あまりの驚きに、手にしていたグラスを落としそうになる。

慌ててグラスをテーブルに置くと、わたしはみっこさんに膝を詰め寄って訊いた。


「ほっ、ほんとですか?! みっこさんって、ヨシキさんとつきあってたんですか??」

「今まで黙ってて、ごめん」

「それがさっき言ってた、『謝らなきゃいけないこと』ですか?」

「ん~。そう」

「どっ、どうしてみっこさんがヨシキさんと、、、」

「話せば長くなるんだけど…」

「話してくださいっ!」

「そうね… そこまで言ったんだから、仕方ないわね」


ワイングラスを思い切りよく煽ると、みっこさんは話しはじめた。


つづく

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