「レベルが違いすぎる合わせはイヤですから」
「ん~… だけど残念」
隣に座っていた川島さんが、オーバーなゼスチャーで口を挟む。
「ぼくも凛子ちゃんのコスプレ撮ってみたかったな。話を聞いてぼくもコスプレの画像とかいろいろ見てみたけど、意外と萌えるじゃないか。ぼくならもっと可愛く撮ってあげられたのに」
「川島くんっ!?」
「まあまあ。それにあのボーカロイドっていうやつ? セクシーでキュートでよかったよ。プリーツのミニスカートが凛子ちゃんの美脚にぴったりでさ。
あと、甲冑にミニの振り袖を纏った、えっと…」
「『散華転生』のお市の方ですか?」
「そう、それ! あの衣装はデザインも秀逸だし、手間がかかっててすごいよ」
「わかっていただけますか、川島さん。
わたしは衣装の手作りはできませんけど、すごい人になると、甲冑なんかをモールドで樹脂成形したりして、手作りしてるんですよ」
「そりゃすごいな。コスプレなんてしょせん素人の撮影ごっこだって、今まで漠然と思ってたけど、衣装も撮影も極めれば、ちゃんとした芸術にまで昇華できる可能性を秘めてそうだな。
古い武家屋敷とかお城とか、断崖絶壁とか廃墟とか、そういう雰囲気に合ったロケで撮って世界観を表現していけば、展示会にも並べられる作品になると思うよ。ぼくもそういうの、チャレンジしてみたいかも」
「えっ、ほんとですか? じゃ今度、コスプレ卒業記念に撮って下さい!」
「ああ。任せといてよ」
「確かに… あのコスプレは可愛いわよね」
わたしたちの会話を聞いていたみっこさんも、身を乗り出して話しはじめる。
「あたし、コミックやゲームのことはよくわかんないけど、長いツインテールをなびかせて、ミニのプリーツスカートがひらひらした衣装って、すっごいキュートだと思うし、メイドさんのエプロンドレスとかも洒落てて、ニーハイソックスも可愛いし、思わず着てみたくなるわよね♪」
「そうなんです!
コスプレって一度はじめると病みつきになるっていうか、なかなか抜け出せないんです!」
「なんかそれ、わかる気がするわ」
「みっこもやってみるかい? コスプレ」
茶化すように、川島さんが言う。
「まさかぁ。今さらわたしがあんな可愛い服着ても、痛いだけよ」
「そんなことないですよ。みっこさんだったらきっと似合うと思います。今度衣装持っていきますから、ぜひ着てみて下さい! わたしも見てみたいです!」
「じゃあ、ぼくに写真撮らせてよ」
「ええ~っ?! 川島くんもコスプレにはまって、カメコっていうのになるの?
そのうちイベントに行きはじめて、『萌え~』とか言いながらレイヤーさんを撮って、ブログとかに写真アップはじめるんじゃない?」
「ははは。それもいいかも。そのときはコスプレ用のカメラマンネーム作って、こっそり活動するかな」
「もうっ。川島くんったら」
真剣か冗談かわからない川島さんの言葉に、みっこさんは呆れていたけど、ぱっと花が咲いたような笑顔を見せて、提案してきた。
「じゃ、こうしましょ。
だれに撮られるかもわかんないようなイベントでのコスプレ活動はNGだけど、あたしたちの間でするのはOKって。
もちろん、川島くんのスタジオでみんなで撮影したり、泊まりがけでロケ撮とか行ったり。いろいろしたいわね。さすがにあたしはブログとかできないけど、オフで楽しむ分はいいんじゃない?」
「それ、いいかもしれません!」
「じゃあ、ヨシキも誘ってやろうな。あいつは撮影もレタッチもうまいし、CGのセンスも技術もなかなかだから」
「凛子ちゃん、今度コスプレのこといろいろ教えてね。あたしはまだ未経験だけど、ポージングなら負けないわよ!」
「コスプレには独特のポージングや、メイクとかカメラワークがあるんですよ。おふたりとも早く、わたしやヨシキさんに追いついて下さい。レベルが違いすぎる合わせとか、わたしイヤですから」
「んむむ。言うわね凛子ちゃん」
「はは。ぼくもカメラワーク頑張らないといけないってこと? 今度ヨシキの撮影スタイルを盗んでやるか」
「あ~っ、今から楽しみ。あたしどんなコスプレしよっかな。すっごいエロい衣装も着てみたいし。今からいろいろリサーチしておかなくっちゃね」
「エロコス、いいね~。ぼくも張り切るよ」
「せっかくだから、それはヨシキくんに撮ってもらおうかな。彼の方がコスプレ撮影スキル、高そうだし」
「ええっ。そりゃないよ。ぼくにも撮らせてくれよ」
「ったく、いきなりカメコみたいになるんだから、川島くん」
「あ、はははは」
思わず失笑する。
想像するだけでおかしい。
トップモデルのみっこさんがコスプレして、ゲームやアニメのキャラのポーズとって、それをヨシキさんや川島さんが撮ってる姿なんて。今は芸能人でもオタクな人は多いから、それもありよね。
だけどふたりともノリがいい。
純粋っていうか、若いっていうか。
みっこさんなんか、こんなに瞳をキラキラ輝かせて。
まったく、現役高校生のわたしが追いつけないくらい。
そんなことを考えて微笑みながら、なに気なく大通りに目線を移したわたしは、渋滞に巻き込まれてノロノロと動いている黒いクルマを見て、ハッと眼を見開いた。
あのクルマは、、、
ヨシキさんの『TOYOTA bB』。
しかも助手席には、、、
つづく
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