「ざわめく気持ちを抑えることができません」
あのクルマは、、、
ヨシキさんの『TOYOTA bB』。
しかも助手席には、、、
「どうしたの? 凛子ちゃん」
表情を
「い、いえ。なんでも、、、」
慌てたわたしは、視線をみっこさんの方に戻し、取り繕うようにキャラメルマキアートのグラスに口をつけた。
だけど、、、
気になる。
落ち着かないままもう一度大通りに目をやったときには、『TOYOTA bB』の姿は見えなくなっていた。
さっきの光景は、目の錯覚だったんだろうか?
一瞬だったから自信はないんだけど、ヨシキさんの隣に座ってたのは、、、
着物姿の桃李さんだった。
昼間見た光景が気になって、脳裏から離れない。
カフェを出て家まで送ってもらったわたしは、着物を脱ぐのももどかしくパソコンを立ち上げ、桃李さんのSNSをチェックした。
『初詣なう。明治神宮人多すぎ~(((o≧▽≦)o』
(2時間前)@momori
、、、やっぱり。
2時間前というと、ちょうどわたしたちがカフェで休憩していた頃。
この書き方は、明らかに個撮とかじゃない。
それなら桃李さんは『撮影してきた』とか書く筈だし、画像も載せるはず。
続いてわたしは、ヨシキさんのブログにもアクセスする。
画面が出るまで、まるで審判を待つような心地。
『三日続けての初詣で。これで三社参り完了』
(30分前)@yoshiki
、、、これ、事実よね。
本人たちがつぶやいてるんだから、疑いようがない。
だけど、例えふたりがいっしょに初詣に行ったとしても、それで即、浮気ってわけじゃない。
ヨシキさんはだれに気兼ねすることもなく、気軽にわたし以外の女の子を誘って出かけるようなヤツだし、昨日もわたしの他にも、お参りに行ってるみたいだし、あのヨシキさんがひとりで初詣なんかに行くなんて、考えられない。桃李さんにしても、ヨシキさんの誘いを断る理由はない。
だけど、、、
よりによって、桃李さん?!
わたしとは正反対で、地味で冴えない顔立ちの彼女を、ヨシキさんが好きなわけがない。
じゃあ、初詣は桃李さんの方から誘ったの?
内気でおとなしい桃李さんが、自分からヨシキさんを誘えるとは思えないけど、、、
どちらにしても、ふたりともSNSに書いてるくらいなら、なにも問題ないのかもしれない。
心にやましいことがあれば、こうして全世界に公表するようなマネはしないはず。
イベント会場でも、ヨシキさんと桃李さんはよく親しそうにしてるし、ふたりはただの友達。
いっしょに初詣に出かけたって、おかしくはない。
、、、とは思ってみても、さざ波のようにざわめく気持ちを、わたしは抑えることができない。
なにか気になる。
このままじゃ、勉強も手につかない。
わたしは思い切って、ヨシキさんのスマホの番号をプッシュした。
“RRRRR… RRRRR… RRRRR… RRRRR… RRRRR… RRRRR…”
10回以上コールしても、ヨシキさんは電話に出なかった。
まさか、ヨシキさんは今この瞬間も桃李さんと会っていて、わたしの電話をスルーしてるとか?
桃李さんの前じゃ、わたしからの電話に出れないってわけ?
いったいふたりで、なにをしてるの?!
モヤモヤした気分のまま、わたしは夜中まで過ごさなければならなかった。
「凛子ちゃん。電話くれた?」
ヨシキさんからコールバックがあったのは、日付が変わってからだった。
「ええ、、、 でももう、いいんです」
「え? なんなの? 言ってよ」
「…」
しばしの沈黙のあと、わたしは切り出した。
「ブログで見ました。ヨシキさん。今日、初詣に行ったんですね」
「ああ。桃李ちゃんがヒマだっていうから、誘って明治神宮に行ったんだよ。
すっげー人が多くてさ、もうヘトヘトになっちゃって。
あんなにたくさんの参拝客がいると、神様もいちいち願い事聞いてられないよな」
「はは、、 そうですね」
ヨシキさんはあっさり、桃李さんと行ったことを白状した。
まったく悪びれもしていないところをみると、やっぱりやましいことはないのかもしれない。
わたしの考え過ぎだったかな。
だけど、、、
「桃李さんとは、初詣だけですか?」
「いや。せっかく着物着てきてくれたからさ、ちょっと写真も撮ったよ。そのあと軽く食事して…」
そこまで言って、ヨシキさんは口を噤んだ。
「オレっていまだに、凛子ちゃんに疑われてるんだな」
つづく
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