「自分の進む道を見つけることはできました」
境内は参拝客でごった返していた。
長い参道を、人混みに揉まれながら振り袖に下駄で歩いたせいで、お参りをすませた頃にはもうヘトヘト。
初詣の帰り道、わたしたちは神社の近くのカフェに立ち寄った。
交通量の少ないのはうちの近くだけで、神社の周りのメインストリートは、参拝客のクルマで大渋滞。このカフェも、初詣のお客で混み合ってた。
わたしたち三人は、眺めのよい窓際の席に案内された。
隣の席に座っていた華やかな振袖姿の女の子は、慣れない下駄で足にマメができたらしく、彼氏に愚痴をこぼしている。
「じゃあ、駅までぼくがおぶってやるよ」
「もうっ。恥ずかしいからいいわよ、そんなの」
「はは。正月早々、君の可愛い着物姿が見れたし、今年はいい年になるんじゃね?」
なんか、、
いいな〜。
彼氏のために精いっぱい着飾って、いっしょに初詣だなんて。
受験勉強でデート自粛の身としては、羨ましいばかり。
「ヨシキくんも誘えばよかったのに。凛子ちゃんも今日はヨシキくんに、振袖姿見せたかったんじゃない?」
わたしの視線の先を追ったみっこさんが、茶化すように言った。
「…がまんしてます」
「ふぅん」
「初詣は昨日、ヨシキさん
「そうなんだ」
「でも、昨日は初詣だけで、着物を着たわけでもなくて…
一日デートは、センター試験が終わるまでお預けにしました」
「受験生は辛いわね。それで、ヨシキくんは納得してるの?」
「してもらうしかないです。今のわたしは、まず志望校に受かることが、いちばん優先ですから」
「凛子ちゃんも、いろいろ吹っ切れたみたいね」
「はい。コスプレもしばらくは控えようと思ってます」
「そう…」
曖昧に返事をして、みっこさんは次の言葉を考えているようだったが、彼女の気持ちを代弁するように、川島さんが言った。
「凛子ちゃんもこの機会に、コスプレ卒業した方がいいんじゃないかな」
「え? 卒業、、、ですか? コスプレを?」
「凛子ちゃんの趣味に口出しする気はないけど…」
意を決したように、みっこさんも切り出す。
「凛子ちゃんはもうプロのモデルよ。これからはもっと、プロの自覚を持ってもらわなくちゃね」
「プロの自覚…」
「写真、見せてもらったわ」
「どの写真ですか?」
「コスプレ撮ってるカメラマンさんのブログやホームページにアップしてる、あなたの写真」
「あ、、」
「ひどいものだったわ。あの程度の腕で凛子ちゃんを撮るなんて。おこがましすぎる」
「はい…」
「うちの事務所はそういうの、モデルの自覚に任せてるとこがあるから、趣味のブログに上げる写真には、あまり干渉しない方針なんだけど、あれは論外。下手な自撮りよりタチが悪い」
「…」
「ヨシキくんくらい上手いカメラマンが撮るのならともかく、あれは凛子ちゃんのためにならないわ」
「はぁ、、、」
「そりゃ、趣味としてのコスプレ撮影は否定しないわ。
『自分を変えたい』って、凛子ちゃんの気持ちもわかる。
わたしだってコスプレのことは少しは知ってるし、イベント会場にだって行ったことある。
あんな派手できらびやかな衣装を着て、ふだんの自分とは違うゲームやアニメのキャラに変身して、写真撮られたいって気持ちも、わかるつもりよ。
だけど、プロのモデルとして見て?
あんな
「そっ、そうなんですか?」
「そうよ。よく考えなさいよ。
あなたはこれから、その容姿と才能を売り物にして、世の中に出ていくのよ。
つまらないアマチュアカメラマンにタダで撮らせて、出来の悪い画像をネットに掲載されて、自分の価値が上がると思う?」
「…いいえ」
「もっとプライドを高く持ちなさい。
凛子ちゃん。あなたは素質も才能も兼ね備えた、このあたしが惚れ込んだ逸材なのよ。
これからあなたは一流のプロモデルになっていくんだから、写真を撮られるのも、自分にふさわしい相手にしなさい。それを選び出す眼を養いなさい」
「…」
それは…
自分でも薄々感じていたことだった。
ヨシキさんへの当てつけもあって、ムキになって見境なく、いろんなカメコと個撮もしてきたけど、今になって後悔してる。
やればやるほど虚しさが溜まっていくっていうか、自分がつまらない存在に落ちていくような気がしていた。
だからこうして、『コスプレを卒業しろ』と言われても、全然抵抗も未練もない。
むしろ、いいきっかけかもしれない。
「わかりました。コスプレはもう、卒業します。
わたしがイベントに参加しはじめたのは、コスプレで有名になるとか、周りからチヤホヤされるとかじゃなくて、自分の進む道を見つけることだったと思いますから」
「それはもう、達成できたってわけね」
「はい」
「よかった」
みっこさんは安堵するように、ニッコリ微笑んだ。
つづく
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