Level 22

「いちゃつくカップルを見るのは辛いです」

     level 22


『大学に進んで教員免状を取ること』


 そういう条件でとりあえずわたしは、モデルを続けることを許された。

みっこさんの家でのレッスンも続けることができ、モデル事務所にも今回の騒動は知られずにすんで、暫定的とはいえ、両親からの許可も得られたおかげで、心にモヤモヤしたものを溜め込む必要もなくなり、わたしは晴れて、仕事とレッスンに集中できるようになった。


とはいうものの、勉強とモデルの両立なんて、かなり大変なこと。

それでも、両親を納得させるには、まずは志望大学に合格しなきゃならない。

志望国立大学の前期試験までは二ヶ月と少し。

センター試験までは一ヶ月切っている。

その間に、すっかり緩みきってダレてしまった受験気分を、引き締め直す必要がある。

今はコスプレや個撮をするどころか、冬コミへの参加も見合わせるしかない。

しばらくの間、趣味は封印だ。


1月2月にも、ノマドさんをはじめ、数人のカメコとすでに個撮の約束をしていたが、受験を言い訳に、わたしはそれらに全部、キャンセルのメールを送った。


わたしたちのつきあいに関しては、後日母から、直接ヨシキさんに電話をして、わたしに対する彼の気持ちを問いただしたと聞いた。

長い話し合いの末、ヨシキさんは母を納得させることができ、母もヨシキさんの人となりを理解したとのことで、無理矢理別れさせられることだけは避けられたものの、しっかり釘は刺されてしまった。


『高校卒業までは門限10時厳守。外泊禁止。この約束を一度でも破れば、即、別れさせる』と。


条件としては緩いものの、『大学合格』という大前提があるから、合格発表を見届けるまでは、ゆっくりとデートするヒマもないだろう。

そのことをヨシキさんにも、ちゃんと断っておかなきゃ。

もう日付も変わっていたけど、わたしはメールを送った。


『ごめんなさい。両親にわたしたちのこと、全部バレました』


返事が返ってくるまでの間、携帯ストラップをプラプラと揺らしながら、これからのわたしたちのことを考える。


二ヶ月、、、


たった二ヶ月の我慢だ。

とにかく今は勉強に集中して、ヨシキさんへの気持ちは抑えておこう。

デートはできるだけ控えて。

エッチも禁止。

いくら門限で帰っても、エッチしたあとじゃ勉強に身が入らないだろうし。

そのくらいの覚悟で臨まなきゃ、恋愛と受験の両立なんて、できるわけがない。


でも…

ヨシキさんはどうだろう?

そんなわたしの勝手な事情に、つきあってくれるだろうか?

今さらエッチなしの短時間のデートなんて、できるんだろうか?


“ピロリロリロ…♪”


あれこれと想いを巡らせてるうちに、ヨシキさんから電話がきた。


『…で。おれはどうすればいい?』


前置きもなく、ヨシキさんは唐突に本題に入った。

とにかく、なるようにしかならならない。

言うべきことは言っておかなきゃ。

ことのあらましをわたしは説明し、ヨシキさんはそれをただ、黙って聞いていた。


『…わかった。オレも我慢すればいいんだな』

「ほんとにいいんですか? ヨシキさんはそれで」

『いいもなにも、今はそうするしかないだろ』

「それはそうですけど… 本当にヨシキさんは、我慢できますか? エッチするの」

『まあ、男は定期的に放出しなきゃいけない生き物なんだけどな』

「えっ。そっ、そうなんですか?」

『はは。大丈夫。オレのことは気にすんなよ。凛子ちゃんは受験勉強頑張りな。応援してるから!』

「…ありがとうございます」

『受験が終わったら、思いっきりデートしような』

「はい」

『会えなかった分、腰が抜けるまでヤリまくろうぜ』

「もうっ。エッチなんだから」

『はは。じゃ、勉強頑張れよ! おやすみ』

「おやすみなさい」


そう言って電話を切り、少し安心する。

やっぱり、ヨシキさんは優しい。

少しくらい会えなくても、これならきっと大丈夫。


一週間後に迎えたクリスマスイブも、ディナーだとどうしてもお酒を飲みたくなるし、そうなると勢いに流されてエッチにまでもつれこみそうだから、ランチだけで済ます。

ジュースで乾杯のあと、プレゼント交換。レストランを出たあとは、近くの公園を軽く散歩した。

他のカップルたちがいちゃいちゃしながら、デートの相談をしているのを見るのは、辛い。

だけど、『わたしは受験生。恋愛禁止』と言い聞かせ、少しだけ公園をぶらついて、日が落ちる前には解散した。

冬休みの間も、勉強とモデルのレッスンと仕事に明け暮れる。

そうやって、ヨシキさんとは会うこともなく半月が過ぎ、新しい年を迎えた。


つづく

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