「やはりこの世界はドロドログダグダです」
「先週の『weekly gallery』見ました~。美月さん相変わらずお美しくて凛々しくて、それでいてセクシィで、ホレボレしましたぁ♪」
「新しいCMもオンエアされはじめましたね~。今度のCMも素敵ですぅ♪ 衣装もかわいくて、画面に美月さまが出てくるたびに、ドキッってしますよぉ~!!」
「夏にコスプレはじめられて、半年も経たないのに、すっかりビッグになっちゃって。プロのモデルとしてもブレイクしてるし、やっぱり美貌と才能のある人は違いますね~。美月さまはわたしのあこがれですぅ♪♪」
ここぞとばかりに語尾をくねらせ、周囲のレイヤーはわたしを持ち上げ、褒め称えてくれる。
こそばゆいくらいに。
こんなにわたしのことを持ち上げて、みんなはいったいなにを期待してるんだろう。
いっしょにロケ撮したり、合わせ撮影したりとか?
カメラマンにヨシキさんを迎えて?
ふふ、、、
まさに、コバンザメね。
「あたし、美月さんのファンだから言うけどさぁ」
密かにほくそ笑んでいたそのとき、隣の魔夢さんが、おもむろに口を開いた。
「美月さんもそろそろ、合わせするレイヤー、選ばなきゃね」
「どういう意味ですか?」
魔夢さんを振り返り、わたしは訊いた。
いったいなにが言いたいの?
「さっきみたいなボカロ合わせ。あんなことやってちゃダメじゃん」
「ダメ?」
「全然釣り合ってないし」
「釣り合ってないって、、、 なにがですか?」
「顔面が残念な子とは、あまり親しくしない方がいいってこと。あなたのステイタスが下がるだけだから」
「…」
「駆け出しのうちはしかたないけど、ビッグになったら、それなりにお似合いのレイヤーやモデルとつきあわなきゃね。いつまでも底辺と絡んでちゃダメ。あなたのことを思っての、コスプレ先輩としてのアドバイスよ」
「…」
周りの人にわざと聞こえるように耳打ちする魔夢さんに、わたしは沈黙した。
なに言ってるの? この人。
それって、桃李さんのこと?
わたしに、人を、容姿で判断しろって言ってるの?
最低。
確かに桃李さんは、そんなに可愛いってわけじゃないけど、素直で明るくて、いっしょにいると癒されるのに。
わたしはチラリと、桃李さんを見た。
いちばん隅の席にポツンと座っている桃李さんに、魔夢さんの言葉が聞こえたのか聞こえてないのかは、わからない。
だけど彼女は、アイスティのグラスを両手で抱えたまま、だれと話すでもなく、黙ってうつむいてる。
きらびやかに纏ったロリータ服とのギャップで、それが余計に寂しげに見える。
そう言えば最近は、桃李さんといることが少なくなった。
他のレイヤーやカメコとの合わせや撮影が増えた分、彼女とは疎遠になっていた。
もしかして。
わたしに対して桃李さんが遠慮がちにしてるのって、魔夢さんの『アドバイス』の件を自分でも感じてるから?
『わたしと自分が釣り合わない』って、思ってるから?
イベントに参加しはじめて、まだだれにも相手にされてなくて、右も左もわからなかった頃、『美月姫~♪』と呼んでくれて、わたしに親しく声をかけてくれて、この世界のことをいろいろ教えてくれたのは、桃李さんだったのに。
彼女がコスプレするのも、『注目されたい』とか、『ちやほやされたい』とかじゃなく、純粋にその作品やキャラが好きだからで、彼女のコスプレからはそんな想いがひしひしと伝わってくる。
そんな桃李さんのことをわたしは好きだし、ある意味尊敬もしてる。
それを、『顔面が残念』とか、くだらない理由で、つきあいをやめるなんて、、、
そんなこと、さすがにわたしにはできない。
そんなアドバイス、されたくもない。
容姿だけで桃李さんのことを貶めて、つきあいを邪魔するなんて、人として最低。
結局、『ファン』だなんて調子のいいこと言いながらわたしに近づいて、上から目線でアドバイスじみたことを言ってマウントとろうとして、桃李さんの代わりに自分がおこぼれに預かりたいだけじゃない。
こいつもコバンザメ。
さもしい女だ!
、、、なんか、ムカつく。
やっぱりこんなアフターになんか、参加するんじゃなかった。
いつかヨシキさんが言ってたように、コスプレの世界なんて、表じゃみんな仲良さげにお互いのコスを褒め合ったり、合わせ撮影したりしてるけど、裏では貶めたり足を引っ張ったり、男を取り合ったりと、ドロドログダグダ。
まるでミニ芸能界。
そんなコスプレ界の醜い部分が吹き出してるのが、例の匿名掲示板。
自称『ファン』の魔夢さんも、裏ではわたしのこと、どう言ってるかわからない。
もしかしたら、掲示板にも思いっきり悪口書いてるのかも。
だれも信用できない。
わたし自身、こんな腐った世界に身を置いてるなんて、なんだかイヤになってくる。
つづく
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