「ここが今のわたしのポジションですね」

 イベント会場近くのいつものファミレスに移動したのは、わたしとヨシキさんを含めて17人。

かなりの大人数になった。

ヨシキさんの相方のミノルさんも参加しているが、男性陣はそのふたりだけで、残りはみんな女性レイヤー。いつかの『ヨシキさんアフター伝説』の再現といった感じだ。

魔夢さんや百合花さんをはじめ、ヨシキさんの取り巻きレイヤーはほとんど参加していた。恋子さんの姿もあったし、遠慮がちにしていた桃李さんも、無理矢理引っ張ってきた。


「お客様17人で~す!」


応対に出たウエイトレスが、人数の多さにびっくりしながらそう告げると、店内のホールスタッフが集まってきて、奥のロングソファのテーブルをテキパキと並べ替える。ファミレスのスタッフも、この時間になるとイベント帰りのレイヤーが大勢アフターしに来るということを、ようやく学習したみたい。


「ちょっとすみません。お化粧直ししてきますので」


席に案内される前に、わたしはそう言って化粧室に入り、鏡に映る自分の姿をチェックし、わざとみんなから少し遅れて席に赴いた。

他の人たちはもう、それぞれの席についている。

わたしはどこに座ればいいんだろうか?


「美月ちゃん、こっちこっち」


そう言って手招きしてるのは、ヨシキさんだった。

ソファの真ん中に陣取ったヨシキさんは、やっぱりみんなの中心にいる。

そして、ヨシキさんの隣のスペースが、わたしのために空けられていた。


「すみません。ちょっと通して下さい」


そう断りながら、わたしはロングソファの端に座っていたレイヤーの前を横切り、百合花さんと魔夢さんをも通り越して、ヨシキさんの隣に腰を下ろした。

百合花さんはなんの文句も言わない。

一瞬、魔夢さんは嫌そうな顔をしたが、それでも彼女の目の前を横切っていくわたしのお尻を、黙って見てるだけだった。

もちろん他のだれも、当たり前のようにその光景を見ていた。


『ふふ… ここが、今のわたしのポジションか』


思い思いにメニューを見たり、雑談してる女レイヤーたちをゆっくりと見渡し、わたしはある種の満足感に浸っていた。

みんな、好き勝手に座ってるようで、この席順には暗黙の法則… ヒエラルキーがある。

それをわたしは、以前のアフターのときに察知していた。


レイヤーとしての実力や人気が高いほど。

ヨシキさんと親しいほど。

より真ん中の、ヨシキさんに近い席に座ることを認められるのだ。


コスプレをはじめたばかりで、まだ底辺レイヤーの頃に参加したアフターでは、わたしと桃李さんは肩身の狭い思いをしながら、隅っこの席に座っていた。


だけど今は違う。


わたしは、『ヨシキさんの一番お気に入りのモデル』であり、『森田美湖の秘蔵っ子』と呼ばれ、『プロのモデル』としてテレビや雑誌などで活躍している。

こんなに肩書きが揃ったわたしに、みんなが上位の席を譲るのは、理不尽でもなんでもない。


もちろん、わたしとヨシキさんの関係を知ってる人は、この中にはいないだろうけど、ふたりの仲はネットで散々邪推されてて、『枕営業で狂夜はモデルになった』とか、『カレカノ』とかの噂も流れてる。(相変わらず酷い中傷言葉でではあるが)

ヨシキさんのサイトの『weekly gallery』でも、今はわたしがいちばん登場頻度が高く、力も入っていて、作品としての完成度も高いので、今さらわたしとヨシキさんのなかに割って入ろうという猛者は、ここにはいない。

そんなわたしが、ヨシキさんの隣のポジションにいるのは、いたって自然なこと。

わたしはそれを『カタチ』として、確認しておきたかったのだ。

『レイヤー』として、『モデル』として、みんなに認められてるということを。


ふん。

ようやくリベンジを果たしてやったわ。

気持ちいい!


つづく

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