「そそり立った鼻をへし折ってやりたいです」

 それでも、イベント内で豊富な人脈を持ち、ブログやサイトのアクセスも多い『超有名カメコ』のノマドさんと撮影したのは、よくも悪くもわたしの評価を変えた。


『四駆デブ(ノマドさんのこと?)なんかと個撮するなんて、狂夜も堕ちたな』

『あの高嶺の花感がよかったのに、、、 だれにでもヤラせるレイヤーになった。狂夜オワタ』


と、掲示板では悪口を書かれる一方で、カメコからの個撮オファーは一気に増えた。


『美月さんは綺麗すぎて、とてもぼくなんかが個撮させてもらえるわけないと思ってましたが、ノマドさんが撮ってるのを見て、勇気を出してお誘いしてみました』

『美月様のことはずっと憧れていましたが、ヨシキさんとしか個撮しないと思って諦めていました。

そうじゃないなら、ぼくとも個撮してほしいです。腕も機材もノマドさんに引けをとりません!』

『ノマドさんの使っているカメラは国産だけど、わたしは全部ライカです。描写のよさなら勝ってます。わたしに美月さんの素敵な写真を撮らせて下さい!』


どの依頼メールもこんな調子で、大口叩いてる割に腕の方もノマドさんに勝てず優れず、冴えないカメコばかり。

だけど、ヨシキさんへの意地も当てつけもあって、個撮を申し込んでくるいろんなカメコと、わたしは片っ端から撮影に出かけていった。


「あんまりくずカメコとばかり撮影してると、凛子ちゃんまで安っぽいレイヤーに見られるぞ」

「それって、焼きもちですか?」

「まさか。オレがそこらのカメコに焼きもちなんか妬くはずないだろ」

「じゃあヨシキさんは口出さないで下さい。わたしは自分のやりたいようにしますから」


何度ヨシキさんと、そんな問答しただろう。


『焼きもちだよ。他のカメコなんかに撮られるなよ。凛子はオレのものだ』


そう言ってくれれば、きっとわたしはヨシキさん以外との個撮を、やめただろう。

やっぱりわたしは、ヨシキさんの撮る写真がいちばん好きだからだ。

だけどアイツは、いつでも余裕たっぷりな表情を浮かべて、他のカメコのサイトにアップされたわたしの画像を冷ややかに眺めて、上から目線で批評するだけだった。


なんか悔しい。

ヨシキさん以上の写真を撮られて、自信たっぷりにそそり立ったアイツの鼻を、へし折ってやりたい。


そう思い、『COSMODEL』や『レイヤーズ』といったコスプレ雑誌にも、わたしは積極的に自分の画像を投稿してみた。

レイヤーやカメコに人気のある専門誌に掲載されれば、もっとたくさんの人から見てもらえるし、もっと腕のいいカメラマンと出会えて、撮影することもできるはず。

実際、わたしの写真が雑誌に掲載されると、一気にカメコからのオファーが増え、そのレベルも上がった。

そのなかから、わたしは自分好みの写真を撮るカメコと連絡をとっては、撮影に出かけていった。

そうやって、ムキになってたくさんの個撮をこなし、次々と衣装を新調してイベントにも参加してるうちに、いつの間にかわたしは、『大物レイヤー』と呼ばれるようになっていた。


 それにつれて、わたしに関する話題も、ネットや掲示板の上で増えていく。

当然悪口もたくさん書かれるようになったが、もう、耐性もついてきた。

そんなもの、いちいち気にしてちゃ、キリがない。

『出る杭は打たれる』っていうけど、出過ぎてしまえばこっちのもの。

そもそも、コスプレをはじめた頃こそ、『ヘタレイヤー』だの『着ただけレイヤー』だのと、実力のなさを貶めるカキコはあったが、今やコスプレの完成度も高く、メイクもファッションセンスもモデル事務所で鍛えられて、ポージングもできて表現力の増した『超絶美少女』のわたしを、容姿をネタに叩けるわけがない。

たいていの悪口は、雑誌に掲載されて、カメコからもたくさんの撮影依頼がきて、イベント会場では毎回のように囲み撮影されてるわたしに対する、嫉妬や羨望の裏返し。


くだらない。


人の足を引っ張るカキコでしか、自己を肯定できない奴らなんて、わたしにとってなんの存在意義もない。


つづく

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