「怪我したくないなら、離れなさい!」
「なっ、なにするの? 危ないじゃない!」
「もうやめて下さい。これ以上もめたら、ただじゃおきませんから!」
驚いて叫んだ美咲麗奈に毅然と言い放ったわたしは、腰を落としてからだを半身に構え、大上段に武具を振り上げた。
「怪我したくないなら、離れなさい!」
そう言いながら、わたしは頭の上で思いっきり武具を振り回す。
さいわい、イベント終了間近であたりに人影はいないし、薙刀の扱いならお手のものだ。
ビュンビュンと、切っ先が風を切る音が、気持ちいい。
そのさまを見て、美咲麗奈は怖じ気づくように後ずさりし、恋子さんもその場から飛び退き、からだをのけぞらせた。
右に左に、繰り出し、繰り込み、持ち換えと、わたしは自在に武具を操り、最後に勢いよく石突(*柄の終端に装着する金具部分)を床に打ちつける。
“ドンッ”
コンクリートがぶつかる激しい音があたりに響き、美咲麗奈と恋子さんは身をすくめた。
「美咲さんを合わせに入れるつもりはありません。別にヨシキさんに撮ってもらわなくても構いません。わたしたちはわたしたちで好きにやりますから、放っといて下さい!」
「え、ええ… わかったわ。じ、じゃあね」
美咲麗奈は小声でそう言い残すと、そそくさと引き揚げていく。
仁王立ちになったまま彼女のうしろ姿を見送り、わたしは“ふぅ”と、ため息をついた。
「すごい! すごすぎますぅ、美月姫~ (ж>▽<)y ☆」
桃李さんの歓声で、わたしはハッと我に返る。
気が立っていたとはいえ、もしかして、とんでもないことしちゃった?
「ごっ、ごめんなさい。荒っぽいことしちゃって」
「いえいえ~。素敵なものを見せて頂きました o(^▽^)o
美月姫、まるで戦国時代のお姫様みたいで、カッコよくて勇ましくて最高ですぅ。桃李、戦う美少女萌えです~ (((o≧▽≦)o」
「あ、ありがとう」
「あ~。なんかスカッとしたわ~。美咲麗奈ってコスプレ雑誌に写真が載ったり、『ARCHIVE』でランキング上位に入ったからって、自分が偉いって勘違いしてるのよね。ばっかじゃない?」
「恋子さん。もう人の悪口はやめましょ」
「あはは。悪い悪い。やっぱ美月さんってすごいわ~。毅然としてカッコよすぎ。惚れちゃうな~」
「いえ、そんな… あ、桃李さん。これ、お返しします。ありがとうございました」
「いえいえ。美月姫に使って頂いて、わたしの薙刀ちゃんも幸せですぅ~ (ж>▽<)y ☆」
差し出した武具を、桃李さんは受け取って愛おしそうに撫でる。
その光景を眺めながら、優花さんが茶化した。
「さすが凛子ちゃん。全日本なぎなた選手権大会6位の実力。迫力満点よね~」
「え~! 美月姫はなぎなた道をされてたんですか~ ((◎д◎ ))ゝ」
「しかも、薩摩島津家の末裔。本物の姫君なのよ」
「ゆ… ソリンさん、余計なこと言わないで下さい!」
「ほえ~~~~~ (((o≧▽≦)o
やっぱり美月姫は、正真正銘の素敵お姫さまでしたか~ ・°・(ノД`)・°・。ゥエエェェン
桃李、大感激です~! こうなれば一生侍女としてお仕えさせていただきますっ (☆Д☆)
あ、そうだ!」
そう言って桃李さんは、自分のバッグをゴソゴソと探っていたが、ゲームソフトを取り出して、わたしに差し出した。
パッケージにはリアルタッチの綺麗な女性たちのイラストが描かれている。
それは『
「これはですね~、非業の死を遂げた歴史上の美女が光の使いに召喚されて、世界を暗黒の闇に変えようとしている妖魔と戦うってゲームなんですよ~ (*^▽^*)
それぞれのキャラの非業の死からストーリーがはじまってて、そのエピソードがもう涙の洪水で、歴女でリョナ萌えのわたしは、一発でハマりました (ж>▽<)y ☆
もう全クリしてるので、よかったら美月姫もプレイしてみて下さい~ o(^▽^)o
そしていっしょに、コスプレできればいいかな~とか思ったり (((o≧▽≦)o」
目を輝かせながら、桃李さんはゲームの内容を語り、パッケージを手渡す。
「イベントはまもなく終了で~す。まだ着替えのすんでない方は、早く更衣室に入って下さ~い」
そのとき、スタッフがイベントの終了を告げる声が聞こえてきた。
もうおしまいか。
今日は遅く来たせいで、あまり楽しめなかったな。
「え~っ。桃李、もっと美月姫と語り合いたいです~。よろしければこれからみんなで、アフターしませんか? (*^▽^*)」
「うん、いいね。あたしも行く!」
「アフターか、、、 凛… 美月ちゃんはどうする?」
賛成する恋子さんの言葉を受けながら、優花さんが訊いてくる。
「わたしは…」
ヨシキさんに会えなかったのが心残りだけど、優花さんのコスプレも見れたし、『リア恋』合わせの話もできたし、気に喰わない美咲麗奈にひと泡吹かせることもできた。
それに、前のアフターのときみたいに、感じの悪いレイヤーさんもいないし、このメンバーならいろいろ話せて楽しいかもしれない。
そう考えてOKしようとしたとき、携帯の着信音が鳴った。
それはヨシキさんからのメールだった。
つづく
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