「すみません。ちょっとそれ、貸して下さい」

「『リア恋plus』のもうひとりのキャラ、ゲトできました~ (ж>▽<)y ☆」


落ち込んでいるわたしをよそに、丈の短い振り袖のような衣装に着替えて、短い薙刀状の武具を抱えた桃李さんが、ホクホク顔を満面に浮かべながら、メイド服姿の恋子さんを連れて戻ってきた。

相変わらず気の強そうな微笑みを浮かべて、恋子さんが言う。


「美月さん聞いたわよ。わたし『島戸京子』やるから混ぜてよ」

「え。ええ…」


力なく言葉を返す。


「恋子さんなら元気いっぱい体育会系美少女の『島戸京子』はピッタリです~! これで『リア恋plus』キャラ、フルコンプです~ o(^▽^)o」

「じゃあ。『高瀬みく』もゲットできたのね?」


優花さんの問いに、桃李さんは淋しそうに首を振った。


「玉砕しまつた、、、orz

素敵みくさんはオタクさんと握手会とかやってて、とっても忙しそうで、声かける隙もありませんでした・°・(ノД`)・°・。ゥエエェェン

やっとコスプレゾーンに来たと思ったら、そこでもカメコさんにモテモテで囲み撮影になるし、しかもヨシキさんの相方のミノルさんとカメコさんがもめて、声かけるチャンスをなくしてしまいました。ヘタレな桃李ですみません。でも絶対ゲトしてみせますので、安心して下さい ヾ(*´∀`*)ノ

そして女の子5人揃った『リア恋plus』合わせ撮影、ぜひぜひ実現させましょうvv」

「え~。『リア恋plus』合わせするんだ~?!」


『合わせ撮影』という言葉に反応したのか、美咲麗奈が横から口を挟んできた。

美咲さん、まだいたんだ。


「あたし『茜レイラ』のセクシー衣装持ってるし、参加してもいいわよ?」


鼻にかかった甘い声で、彼女はわたしたちの方にすり寄ってくる。桃李さんは困惑した顔で答えた。


「美咲さんすみません。『茜レイラ』は、キャラがかぶってしまいますぅ。もう、ソリンさんに決まってるんです ((((*´・ω・。)」

「じゃあ、『高瀬みく』は? まだ決まってないんでしょ?」

「今交渉中です~。ヨシキさんのサークルの売り子さんをしてた、素敵レイヤーさんにお願いしてみようと思って」

「ああ、あの子。あれはダメよ」

「え? 美咲さんはあの素敵さん、ご存知なんですか?」

「まあね。でもあの子、『着ただけレイヤー』よ」

「着ただけ?」

「ってか、そもそもレイヤーじゃないし。ミノルがパンピーの女子中学生JCに、無理矢理コスプレさせてるだけだから」

「ふえ~。そうなんですか *:.。.:*゜(n´д`n)゜*:.。.:*」

「コスプレもはじめてだし、『リア恋plus』のこともなんにも知らないし。そんなんでメインキャラの『高瀬みく』なんて無理無理。

それにあの子、家出少女なのよ。売りとかして小遣い稼いでるのよ。そんな子が清純派キャラだなんて、全然似合わないわよ」

「ふえ~。あんなに可愛いのに~… なんだか信じられないですぅ~ ~( ノ´θ`)ノ」

「だから、『高瀬みく』はあたしの方がふさわしいって。それに、あたしならカメコにヨシキ呼べるわよ。ヨシキはあたしの頼みなら、なんだってきいてくれるしね」

「でも『高瀬みく』って、あんたみたいな巨乳ビッチじゃないわよ。キャラ違いすぎじゃん」


恋子さんが、横から強烈なカウンターパンチを入れてきた。

たちまち、美咲さんの表情が険しくなる。


「ふん。『島戸京子』なんて雑魚キャラじゃん。やる意味ないわよ」

「え~? 『リア恋plus』キャラのなかじゃ、すごい人気なの知らないの? サバサバした性格でスポーツ万能でカッコいいし、憧れキャラじゃん。そんなことも知らないでよく『リア恋plus』コスやりたいなんて言うわよね。まさか美咲さんって、『撮られた』ちゃん?」

「失礼ね! だいたいあなたみたいなポッと出の底辺レイヤーが、『リア恋』合わせやるなんて、100万光年早いのよ!」

「あら~。乳揺らしてキモカメに媚びるしか能がない『乳だけレイヤー』が、よく言うわ」

「貧乳のあなたなんか、そのキモカメにさえ振り向かれないじゃない」

「うるさいっ。『撮られた』のくせに、偉そうにしてるんじゃないわよ!」

「個撮にも誘われない女の僻みなんか、醜いわ!」


ふたりとも、今にも取っ組みあいそうな勢いで、睨み合っている。


「ふえ~ん。おふたりとも、もっと仲良くしましょうよぅ~ Y(>_<、)Y

美月姫~。なんとか言って下さい~ (((o≧▽≦)o」


桃李さんはオロオロとうろたえ、今にも泣き出しそう。

まったく…

どうしてこんな騒ぎになったのよ。

それでなくてもわたしは、さっきの件で落ち込んでいるっていうのに、これ以上イラつくような騒音を、みんなでまき散らさないで!


「ちょっとそれ、貸して下さい」


そう言ってわたしは、桃李さんが手にしていた武具を手にとると、美咲麗奈と恋子さんの間を遮るように、キリっと矛先を向けた。


つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る