「『ごきげんよう』というのはおかしいですか?」
「あ。ちょっと待って下さい」
そう言い残してみんなから離れ、わたしはメールを開いた。
『イベントお疲れさま。今から会えない? 話があるから』
メールにはそれだけが書いてあった。
『話』って…
いったいなんだろう?
もしかして、『もう別れよう』とか、言われるのでは…
(というか、わたしたちはそもそも、つきあっているのだろうか?)
とても気になる。
不安になりながらメールを閉じた瞬間、今度は電話が鳴った。
それもヨシキさんからだった。
「メール見た?」
「はい」
「今日はごめん。会いに行けなくて」
「いえ…」
「今から桃李ちゃんたちと、アフターするんだろ?」
「あ。はい」
「解散したあとにでも会えない?」
「それは大丈夫です。でも、何時になるかわからないですけど」
「適当に時間潰して、待ってるから」
「いつまで待っていて下さるんですか?」
「だから。美月ちゃんに会えるまで。オレのことは気にしなくていいから」
「でも…」
「わがままで悪いけど、どうしても今日、話したいことがあって」
「じゃあ… ヨシキさんも、アフターごいっしょしませんか?」
「ごめん、遠慮しとく。今はそんな気分じゃないんだ」
「…」
「オレに構わず、美月ちゃんはアフター楽しんできて。終わったら電話かメールくれれば、迎えに行くから。じゃあ、あとで」
そう言い残して電話は切れた。
いつになく強引なヨシキさんだったが、それだけになにか切羽詰まったものを感じる。
いつでも明るく、余裕ありそうなヨシキさんが、『そんな気分じゃない』なんて、よっぽどのことがあったに違いない。
イベント会場をあとにしたわたしたちは、前回、アフターで利用した近くのファミレスに移動した。
今日も、イベント帰りと思われる女の子が数組、テーブルを囲んで話をしていたが、この前のわたしたちのような、大人数のグループはいなかった。もちろん、ヒエラルキーの頂点に君臨する、魔夢さんや百合花さんの姿もない。
夕食には少し早い中途半端な時間だったけど、みんながパスタやサンドイッチを頼むので、わたしもグラタンを注文。
食事をしながら、今日のイベントのことや、『リア恋plus』合わせの件などを喋ったものの、わたしはヨシキさんのことが気になり、みんなの話は上の空。
2時間くらい話して外に出た頃には、空は茜色の夕闇が少しづつ広がっているところだった。
「あ。わたし少し用事があるので、今日は…」
レジで支払いを済ませてファミレスの外に出たタイミングで、わたしはそう切り出した。
「え〜。美月姫はこのあとご予定があるんですかぁ? 桃李、お別れするのが辛いですぅ〜((((*´・ω・。)」
「すみません。今日はここで。また来週お会いしましょう」
「そっか。じゃあ美月さん、またね」
「ごきげんよう。恋子さん」
「むっきゅう〜〜〜〜((◎д◎ ))ゝ 素敵なお言葉を聞いてしまいました!!
別れ際に『ごきげんよう』と、御所言葉をさりげなくのたまうところに、美月姫の気品と高貴さを感じてしまいますぅ(≧∇≦*)♪
美月姫〜。わたしにもおっしゃってくださいっ!!」
「あ。ご、ごきげんよう、桃李さん」
「ああああ〜〜っ。そのお言葉だけで、桃李、美月姫のいない寂しい一週間を乗り切れる気がします(ж>▽<)y ☆
それではごきげんようでございます。美月姫Y(>_<、)Y」
「り… 美月ちゃんは…」
『ごきげんよう』という言葉に、異様に反応して興奮している桃李さんを横目に、優花さんはなにか言いたそうな顔をしたが、次の瞬間にはいつもの笑顔に戻って、わたしに言った。
「ここでお別れってことね。じゃ、美月ちゃん。またね」
「ごきげんよう。ソニンさん」
「ふふ。ごきげんよう」
含み笑いを残して、優花さんはみんなの背中を押して歩き出す。
それを見送りながら、わたしはみんなと逆の方へ向かった。
ファミレスの角を曲がり、みんなの姿が見えないのを確かめて、わたしはヨシキさんに、今いる場所をメールで知らせる。
『了解。3分で着く』
そう返事が来て2分も経たないうちに、ヨシキさんの黒の『TOYOTA bB』が、わたしが立っていた歩道の横に着けられた。
「乗って」
助手席のドアが開き、ヨシキさんが顔を見せる。
一抹の不安を感じながら、わたしはクルマの助手席にからだを滑り込ませた。
つづく
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