Buch der Lieder



結崎が死んでから、多分丸二年経った。俺が入学したての梅雨だったからきっとそうだ。今、俺は中学最後の梅雨を迎えていた。毎月、じめじめとした雨が降り続いてその中を俺は懲りずに病院へ通っていた。いつも通りの席に座って、白い白い、病院を眺める。


ただ、俺はもう白くなかった。


あの13歳のよく言えば染まりやすく純粋だった俺は結崎が死んでから暫くして消えてしまった。手には、ヒヤシンスブルーの洋書を手に持っていた。本には白いしおりが挟んである。あれから二年かけてドイツ語を勉強した。この本は、ドイツのハインリヒ・ハイネという詩人の詩集だった。題名は「Buch der Lieder《詩の本》」。結崎が一体なぜこの本を買ったのかはわからない。


六月下旬、庭を見ると紫陽花が今年も咲いていて、俺は至って健康だった。




まだ、白くはならない。

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僕は白、君はヒヤシンスブルー せの @seno_

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