思いつくまま徒然に

がとーしょこら

桜花叙情

さやか 主人公

楓 後輩

真 楓の幼馴染


一方通行であるかのような通学路

私は御多分に漏れずその一部として人波に沿って歩いていた

右手には川が広がり、土手には綺麗に整備された桜並木が続いている


さやか「もうこんな季節なんだ。一年ってあっという間」


今日が入学式ということもあり、周りの初々しい喧騒を横目にいると、不意に私の肩を叩く感触が伝わる。


楓「もし・・かし・・て、真ちゃん?私、幼馴染の楓、おぼえて・・ない?」


視線を送ると肌は色白で目は切れ長だが、奥にたたえているのは栗色の綺麗な瞳

一瞥しただけで美人とわかる、長く艶のある黒髪で長身な少女がそこにいた


さやか「えーっと、どなたでしたっけ?私、2-D組のさやかなんだけど?」


私には幼馴染などいないし、彼女のことはまったく見覚えがない

誰かと勘違いでもしてるのだろう


さやか「はー(ため息をついて)」


折角の桜並木の風情をくだらない勘違いで邪魔されたことに、少しムっときたがすぐに引っ込めた


その返答を聞いた彼女は、耳まで赤らめ口の前で手をあわあわさせた


楓「あっ、人違いどころか先輩だったんですね!本当にごめんなさい!優しそうな横顔と   背格好の雰囲気があまりにも似てたもので・・」


私は昔から周りと比較して背が小さい方で、

年相応に見られないことには慣れていたが、それでもあまりいい気分ではない

背格好が似ているというその幼馴染の子も、きっと私と同じ悩みがあったに違いない


生まれ変われるなら目の前にいる少女のような体型がいい


さやか「いいって、いいって。似てる人間なんていっぱいいるんだし、よくあることだって       それと私が先輩ってことはあなたは新入生?」


楓「あっはい、私は楓って言うんです。仲が良かった子達はみな別々になって心細くてつ   い声をかけてしまいました、それに・・・」


さやか「そうなんだ。とりあえず、最初は緊張するかもしれないけどすぐ友達なんてできる     よ!美人だし尚更!」


何かを言い淀んだ彼女には気付かない振りをした

学年も違う、どうせ今日限りの相手のことにまるで興味はなかった

会話に付き合うことで緊張が和らげば私の役目など終わり


それからは他愛もない話をしながら学校の玄関前まで辿り着く


さやか「じゃあ・・ここでお別れだね。

     これも何かの縁だし、困ったことがあったら見かけた時でも遠慮なく言ってね

     先輩として聞いてあげる!」


お互い会釈をし、そしてそれぞれの目的地に向かった


初対面だとしても、私にとってはこの程度の愛想は朝飯前だった

教室のドアの前に着いたころには話の内容なんて大半忘れていた



私は教室のドアを開ける


理路整然と並ぶ机と椅子、それとは対照的にまばらに群れを成す人間

その多くはくだらない話に躍起になっている

すれ違う者に軽い挨拶を済ませ自分の席に座る

私を見つけ話しかけてくる者もいるが、

会話や愛想は欠かさないまでもその中に興味のある人間はいない

周りにそう考えていることが伝わらないよう、できるだけ必要最低限の交わりでよかった


授業が始まると、ようやくその面倒から解放される

退屈な授業の合間、私は自分自身についてふと考えることがある


私はどこに属するでもなく分け隔てしない

これといった特長もないが、誰に嫌われるでもなく万人に優しい朗らかな人間

周りの評価はそんなところだろう



でも実際は違う


ひとたび相手の状況が悪くなれば、人はすぐにでも手の平を返す

そんな相手との中身のない世間話、吹けば飛ぶような友情ごっこなどまるで興味がない

興味がないから不平、不満がでない分衝突が起こらないだけ

ある程度会話ができて、愛想があれば何事もなく過ぎていく

相手もそれで満足している


人に囲まれているように見えて、それでも私が心を許している人間など居はしない


ここまで考えが至ると、

なにをしたわけでもないのに決まって世界全てが敵になったような感覚になり

それを打ち消すかのように浅い眠りにつく

それが度々あった


季節が過ぎ暑い夏のある日

熱気漂う教室でいつもと変わらない日々を過ごしていた私の耳に、

目の前の机の上に腰掛けたクラスメートからある噂話が聞こえてきた


女学生A「一年生に、美人ってことで有名な楓って子がいるけど、友達の彼氏を誘惑した      とかで友達からもイジメられているらしいよ。」

女学生B「へー、いつも一緒にいて仲よさそうだったのに。かわいそう」


その聞き覚えのある名前を必死に思い返す

以前話したことのあった少女のことだと直感した

確かに彼女くらいの容姿であれば有名でもおかしくはない


あの会話以降、一度だけ廊下ですれ違ったことがある

お互いに視線は合ったが結局話すことはなかった

人に囲まれていて幸せそうだったのに、ちょっとでも歯車が狂えばこんなもの

妙に達観したような感情が湧き上がった


その噂を聞いてしばらく経った後、

一人でうつむきながら下校している彼女を偶然見つけた

ためらって一度は通り過ぎたが、なんとなく気になってしまい振り向きざま声をかける


さやか「やぁ、おぼえてる?」


楓「あっ、まこっ・・・さやか先輩・・・ですよね?」


さやか「そうそう、久しぶり!元気なさそうだけど大丈夫?何かあったなら聞くよー?」


彼女の表情から落胆と困惑の色が窺えた

ただ噂の真相が少しだけ気になったし、見てみぬ振りというのも気持ち悪い

私にとってこういうことも円滑に生きていくための経験になる

誰が見ても優しそうな笑顔で応えた


彼女ははかなり迷っているようだった

私の目をまじまじと見つめ深く考えている

やがて決心が固まったのか彼女は頷く


さやか「じゃあ、お茶でもしながらでどうかな?

    いい店知ってるからさ!」


どこか落ち着いて話せる場所として、近くの喫茶店を選んだ

ちょうど囲いがなされている隅の席があり、そこでなら人目も気にせず話せる


入り口のドアを開けるとすぐさま来訪者を知らせるベルの音

(チリンチリン)と私達をお出迎えをしてくれる

目を覚ましたかのように店主も姿勢を正す

店内に漂うコーヒー豆の香ばしいにおいが鼻をくすぐる

そこかしこに設置されたお洒落であたたかみのある小物

全てが落ち着いた店の雰囲気によく合っていた


幸いにも客は私達二人だけだった

何を頼んでも味はいいけど、見つけにくい店構えだからなのかいつ来てもこんな調子だ

まさにうってつけ、貸切の店内を見渡すとそう感じられた

お目当ての席に座り手早く注文する

私達が注文した熱々のコーヒーを啜るころになると、彼女はようやく重い口を開いた


楓「私は友達の彼氏に告白されるがまま付き合ってしまいました

  ただそれは知らなかったからで、知った後きっぱり別れました

  でも、それが原因で仲の良かった友達や噂を鵜呑みにした人からイジメられているの

  結果として奪ったことに変わりないから強くは言えないけど、今までの付き合いはなん  だったんだろう

  私は心を許せる友達の方がずっと大事だったのに、なんで・・・なんで・・・。」



こう語る彼女の震える手を見つめた


彼女は悪くなかった

むしろ弁解を聞き入れてくれない周りに対して、どこかで憎い気持ちもあるに違いない

簡単に手の平を返す人間しか存在しない感覚に押しつぶされそうになっているのが見てとれる


理解した。これはかつての私かもしれない


さやか「実は私も・・・」


答えになってはいなかったが机に置かれた彼女の手に向かってそう切り出す

自分には過去に周りを信用できない経験があったこと

そして裏切らない友達がほしかったこと

今まで押さえつけていた小さな不平不満までも洗いざらい漏らしていた


隙をみせないことで立場を守ってきた私にとってこれは勇気がいることだ

でも今の彼女ならもしかして・・

それに受け入れてもらえなかったとしてもどうせ大した接点などない


ダメなら元の日常に戻るだけ

そういった安心感も後押しした

相談にのると言っておきながら、

誰かに悩みを聞いてもらいたかったのは私の方だったんだ。そう思った


ゆっくりと視線をあげ、彼女の顔をちらりと見やる


何故か彼女は泣いていた 

正確には微笑みながら泣いているようにも見えた


楓「もしかしたら私達、求めてるものは同じなのかもしれないね」


私は思わず口に手をあて、目を見開いてしまった

同じ感覚を共有していることに私はとても高揚した

臆病になっていた本来の自分が認められた気がして嬉しかった 


同じように考えている彼女なら・・・


もしかしたら私の全てを受け入れてくれる

そして私もきっと彼女を受け入れる


そこからはまるで元々幼馴染であったかのように意気投合し、

これからは何でも話せる相手としてずっと変わらない友達になろう

そう約束して途中まで二人一緒に帰った


信頼できる人間が存在する、それだけで見慣れた通学路ですら景色が輝いて見えた

周りから見た私達は特別変わった素振りもないが、二人は確実にいい方向に進んでいると確信していた

学年が違う私達にとって常時親密でいることは難しいし、そんなことは大事ではなかった

何かあれば話せる、それで十分だ


放課後を告げるチャイムの音とともに、荷物をまとめ駆け足で下駄箱向かうのが日課になっていた

ギィィィィッという音とともに開けたロッカーの中を確認する


あった


何か話したいときにはここに手紙を忍ばせておく、それが喫茶店集合の合図だ

少々古風なやりかただが、その方が却って特別感が増す


もはや行きつけとなった喫茶店につくと、彼女は既に座って待っていた


さやか「ごめーん、待った?今日はどうしたの?」


彼女はふるふると首を振る

愚痴や悪い話題の時でもいつもここでは楽しそうな顔をしているのに・・・

今日はなんだか表情が曇っている


楓「実はイジメが続いてて今まではずっと耐えてた

  けど先輩と出会ってから、なんでこの人たちは私のことを理解してくれないのだろう

  そういう気持ちが押さえきれなくて、反抗してしまったんですよね。 

  そしたら、これ・・・。きっと私が悪いんですよね。」


ビリビリに破かれた教科書を差し出す 

中には落書き

とても陰湿で吐き気がした。

嫌いな相手にしつこく構う感覚がよくわからない 

気に入らないならいっそ無視すればいいのに

私は心の中で舌打ちした

結局は目的なんてどうでも良くて、いつも無抵抗だったから調子にのってるんだろう


さやか「楓ちゃんは悪くないよ、やられたままじゃつけあがるし我慢しなくていいんじゃな      いかな。

     大丈夫、私だけはずっと味方でいるしさ」


少々抵抗する素振りをみせたらいずれ飽きてやめるだろう

そんな軽い気持ちでいった言葉だった

否定をされなかったことに彼女は喜び、すぐにいつもの笑顔になっていた

何かの力になれた気がして私も自然と笑みがこぼれた


その次の日から頻繁に手紙が入るようになった

彼女からの話題は決まってて


楓「今日はね、バカにされたから舌打ちしてやった」


最初はささやかなものだった。


楓「今日はね・・?ビンタされたから小突き返した」


楓「今日はね・・?水かけられたからそいつの弁当箱捨ててやった」


楓「今日はね・・?髪を切られたから噛み付いてやった!」


日に日に迫力を増していく彼女の語気

いささか良くない方向に向かってるように感じてくるが、

彼女が言うにはこれに懲りて手を出さなくなった人もいるようだった


不揃いに切られた黒い髪を撫でながら、

徐々にエスカレートしていくイジメと反撃を嬉しそうに語る彼女


楓「先輩の言うとおり我慢しなくてよかったー 

  先輩と仲良くなってから今までずっといい方向に向かっている気がするもん 

  それに何があったって先輩と話せたらすっきりするし」


そう微笑みながら、一切の疑いなく安らぎを享受している彼女をみるのは嬉しかった

私が存在することで彼女は以前より満たされている

だったら私にできることは彼女を肯定することだけだった

世界中の誰よりも味方でいると示す

それはお互いにとって心地よかった


いつも別れ際の表情を見ればこれが正しいのだと物語っている

そう思っていた


月日がたっても彼女と私は相変わらずの仲だった

ある時期を境に、彼女のイジメに関する噂はとんと聞こえなくなり、かわりに


一年に危ない女がいる


そういう話が少しずつ広まっていた

手を出されない限り彼女から何かをすることはなかったが、

ひとたび手を出されると彼女なりに応戦する


私がかけた言葉が力になったのかもしれない

噂が噂を呼び彼女は完全に孤立していた 

ほとんどの人間がもう関わろうとはしなかった

厳密に言えば悪意を持って関わろうとするものはまだ少なからずいる

規模は減ってもイジメは続いているとは聞いていた


私は噂のことを伝え、彼女に大丈夫なのかといつもの喫茶店で聞いてみた


楓「んー、私も我慢していた分は発散したから今はそんなに無茶はしてないよ

  私に関わろうとしつこい人はまだ居るけど、

  最近では何をされても大して気にならなくなっちゃった。

  先輩がいてくれるなら他には興味ないし、どうでもいいの」


にこやかな彼女の表情を見て、

想像したほど本人にとっては悪い状況ではないようで、私は胸を撫で下ろした

もちろん私以外味方がいないのは本当らしいのだが


もっと・・・もっと、私が傍で支えてあげないと

そんな使命感を胸に抱いていた


紅葉が深まり、文化祭シーズンが近づいていた

それに際し私はクラス内でのじゃんけんに負け、

連日居残らなくてはならない忙しい役回りを押し付けられていた

そしてそんな私の忙しさを察した彼女からの手紙はしばらく来なくなっていた


さやか「気を遣わなくたっていいのに・・・」


まあ文化祭が終わるまでのもう少しの辛抱、私は自身に言い聞かせた

どうせなら文化祭当日、一緒にみてまわってみるのも楽しそうだ

私が担当した出し物に、どれだけの時間をかけたか熱弁してやる

そんなことを考えていると不思議と気分が楽になった


もはや日課となっていた居残りを済ませ、下駄箱を開けると久しぶりに手紙があった


なんだか懐かしいような気持ちになり、急ぎ足でいつもの場所へ向かう


さやか「はぁ・・・はぁ・・・、待った?」


息を整える暇もないほどの勢いで、彼女を見つけ声をかける


彼女はふるふると首を振る

会うのは実に一ヶ月ぶりだ

いつものように出されたコーヒーに口をつけ、そして彼女をまじまじと見る


最後に会った時とは少し様子が変わっていた

不揃いの髪、淀んだ瞳、伸びた爪、化粧気のない顔 汚れた制服

美人だと噂されていたころの面影は鳴りを潜めていた

誰の評価も気にしなくなっていた彼女は身だしなみにも無頓着になっていた


でも、私にだけ見せる最高の笑顔 

久しぶりに会えた喜びも相まって私には今の方が「ずっと」美しく感じる


楓「今日はね?」


私は聞き覚えのあるフレーズに、息を飲み込んだ


楓はシャツのボタンを上から、ひとつ、ひとつ外していく

キラリと光るネックレス

あれは友達になった日の帰り道にお揃いで買ったものだ

私も同じものを肌身離さず身につけている。

彼女の白い肌が更にあらわになったところで、ピタリと動きが止まる

白いシャツに隠れていた部分からいくつか殴られたようなアザを見つける


楓「大したことないんだけどね、ただその子達しつこくて。

  本当言うと特に怒りも何も感じないの、もう周りに興味なんてないし。

  ただ、口実に先輩と会いたかっただけかもしれない」


なんてこともない調子で話す彼女

むしろ照れた様子で会いたかったとさえ話す彼女がいとおしい


最近距離があいてしまっていたことは気がかりだったが、

彼女は何も変わらない


そして、それは私も一緒だった


二人でいればもう他にはなにもいらない

周りが彼女を拒絶すればするほど私達の世界はずっと深くなる

そういう意味ではこの痣だって一役買っているんだ


さやか「大丈夫、誰に何されようが私はずっと友達だから。

     話したくなったらまたいつでも、ね?」


私達は示し合わせたかのように頷く

二人にとってこの空間だけが真実だった

  


文化祭を目前に控えたある昼休み、楓は普段からの嫌がらせに辟易していた


モブ「よぉ、ブス」


三人組から声をかけられた


楓「またか・・・。」


大抵の人間は相応に抵抗すれば関わってこなくなったが、こいつらはしつこい

この頃にはもう抵抗する気も失せていた

言っても無駄な人間もいる

飽きるまで待つしかないのだと半ば諦めていた

何をされても怒りの感情もわかないし反応するだけ損


多少傷つけられたとて、それを口実に先輩に会えばもっと仲良くなれる気さえしていた

手を引かれるまま二つ折りの階段を上ったちょうど折り返し地点

その死角になっているスペースまで引きずりこまれる

いつものことだ


まず始まるのは罵倒。 何も感じない

そして髪を引っ張られる。何も感じない


服に隠れて目立たない部分を殴られる  

また先輩に心配してもらえる口実ができるかな


無表情でいればすぐに飽きてどこかにいく

そうかんがえていた

反応をするつもりもない私だったが、

先輩となかなか会えていなかったことがストレスになっていたのかもしれない

普段と違い、私は反抗的な視線を送ってしまった

それに気付き、相手も掴み掛かってくる

汚らしい手がネックレスに触れた


楓「や、やめっ・・・」


こいつらなんかが触れていいものじゃない

私はつい弱点を晒してしまった


反応の薄かった時とはうってかわったこの過敏な態度に味を占めたのか、

ニヤニヤとした気持ちの悪い笑みを浮かべ、私達の大事な世界に手をかけてくる


そして思い切り引きちぎった。

私の身体から引き剥がされるネックレス

パラパラと落ちていく装飾

この瞬間、先輩と私二人きりしかいなかった世界が崩れていく感覚

言いようの無い感情に襲われ、頭が真っ白になった


楓「お前らが、あとはお前らさえいなければ!!」


気付いた時には一人また一人と突き飛ばしていた


ゴロゴロとそれは転がり落ち、

もうピクピクと痙攣するばかりになっている3つの物体を見下ろす

これでやっと・・・やっと・・・!


楓「フ・・・ふ・・・あは、アハハハハ!」


もう邪魔者はいない

これで完全に二人になれた

その開放感から高笑いが止まらなかった


楓「これでいい・・・」


周りの空間から悲鳴のようなノイズが聴こえる

何を言っているのかもう理解できなかった


3つの物体を取り囲むように人だかりができているようだった

でも、私にはもう何も見つけることができなかった


騒ぎを聞き、慌てて駆けつけてきた先輩の姿を除いては。

先輩は人だかりをかきわけその異常な状況を見渡す

一瞬だけ先輩の表情が引きつったように見えた

私は急に怖くなりサッと視線を外す


一方で、さやかは転がっている中の一人が握り締めたままのネックレスを見つける

すべてを理解した


そして、顔をあげたさやかの表情は肯定を示すように微笑んでいた

私も同じ表情で応えた


私達二人だけは笑っていた



事件をうけて文化祭は中止になった

私が居残りをしていた時間は、文字通り完全に無駄となる

あれ以来、彼女は長期の停学処分になっていた


それでも変わらず、私は日課の下駄箱を確認する


ない


新しい習慣としていきつけの喫茶店も覗くようになる


いない


私と彼女の接点は完全になくなってしまった

彼女が音沙汰もなく引っ越したことを知ったのは随分たってからだ

彼女の両親に私とのことをいつも自慢してたのは知っている

両親からはきっと私のせいだと思われたのかもしれない

急に無味乾燥な現実に引き戻された気がした


日課もほどなくしてやめた

すべてが閉ざされた私は、ふと彼女の存在は夢だったのではないか

そう考えるしかなかった

どんなに思い返してももう戻ることはない



学年もいよいよ終わりに近づくと、私の評判はかなりよくなってきていた

誰からの些細な相談も親身になって付き合うようになったことが主な要因だろう

私はそこに何か期待めいたものを感じていたのかもしれない

周囲の評価とは裏腹に、私の本質は何も変わっていない

多くの人に囲まれてはいるが、私に友達はいなかった


彼女との出会いからちょうど一年

いつも通り私は人波に沿って歩いている

いつか見たような光景、土手に並んだ桜並木がタイムスリップでもしたかのように咲き誇っていた

彼女もどこかで桜を見ているんだろうか、ふとそんなことを考えていた


一人の少女が目の前を横切る


肌は色白で目は切れ長だが、奥にたたえているのは栗色の綺麗な瞳

長く艶のある黒髪で長身の美しい少女


一瞬息がとまりかけた


すぐさま私は深呼吸を挟み、その少女の肩を叩いた


さやか「もしかして、楓ちゃん?久しぶり!」


その答えなんてどっちだってよかった

今度はうまくやる


少女はふるふると首を振った

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思いつくまま徒然に がとーしょこら @chocostory

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