黄色の階段

夢ムラ

黄色の階段


紀元前から存在したかの大帝国ローマから、人類が地球を捨て去った今日の銀河連邦に至るまで黄金は愛され続けている。

人が広大な銀河を探りつくしたのにも関わらず金塊は貴重だ。

ワームホールを実現させた宇宙ヒモや時間を制した暗黒物質よりも、その光輝く塊にはもはや宗教学的価値しかないにもかかわらず、上流階級では高値で取引されている。

黒く輝く黒曜石も対抗馬として人気だが、黄金の値打ちには程遠い。

「なぜ人は輝きに魅せられるのであろうな。宇宙船にまとわりつく流星バエじゃあるまいし」

博士はだらしなく足を延ばしてイスに座りながら理屈っぽく語った。

「もっと魅せられるものがあるだろう! 数式とか! 法則とか! 歴史はそれを証明してきたであろう!」

「ならば博士、黄金に魅せられてしまうのも歴史が証明しております。人類が文字を作る前から黄色に輝く地球太陽を崇拝したのは、博士も歴史授業でお知りでしょう」

「くだらん!」

博士は椅子を蹴り飛ばし、憤る。

「電気を作り、核弾頭を作り、ロケットを作りワープ装置を作りタイムマシンを作った人類が、まだ黄金など!!」

「もはや科学は過去ものです、博士。進みすぎた人類はすべてを知りました。無限の何乗もの人智を超え、神を超越しました。人類にわからないことは、もはやありません」

「たわけ!そんな弱腰であるから科学者がいなくなるのであろう! もはや今、科学末期の人材不足は解消されん! なぜ科学の魅力がわからぬのか!」

「科学は偉業を成し遂げすぎました。もはや新たな隙間はありませぬ」

「くそが!!」

博士は短気を起こし窓ガラスに超電磁拡散装置を投げつける。窓ガラスはピチャピチャと割れ、すぐさま修復される。その窓ガスラに黒い宇宙に漂う四角い箱だけが漂った。

「もはやこの窓に映る光景と同じよ。科学は宇宙に浮くだけで何も起きぬ」

博士は肩を落とし椅子を立て直しゆっくりと座る。

かと思いきや、何かを思いつきすぐさま飛び上がった。

「そうだ!」

ポンと博士は手をたたく。

「黄金がいかに無意味か、証明すればよいではないか! さすれば賢哲な者達が科学の良さに気づくかもしれぬ!」

博士はちらばって研究室で物を探し続ける。

「拡散装置!!あの箱はどこだ!」

「博士がさっき、窓へと投げました」

「ばかもの!」博士は助手の頭を殴った。「すぐにとって来い!」

助手は頭をさすり、ため息をつきながら宇宙服を着た。


365日ある祝日、そのひとつが今日も始まった。

今日は黄金の日。偉大な貴族たちの功績を称える日。

貴族達は黄金の船、黄金の要塞、黄金の広間で黄金の肌になりながら、楽しく祝う。

その中に博士は薄汚れた白衣を着ながらモニターに映り、発露する。

「このあふれぬばかりの黒い空を黄金に変えて見せましょう!」

博士はそう言って装置を押すと、箱にこもった一かけらの黄金が揺れ動く。

動き続け、周りを光らせる。輝く黄色。黄金色。

そのまま船に広がり、星に広がり、銀河に広がる。世界が黄金の色になる。

銀であるはずの河に、黄金色が流れ注いでいく。

なんと無意味なことであろうか。これほどまでに広がっても、黄金などカスにも満たない値打ちである。

ただの光輝く、一色の色彩に過ぎない。

こんなものが、美しいと思うなど、どうかしているだろう。

さあみなのもの、科学に目覚めたまえ。


人は目覚めた。黄金の美しさに再び酔いしれた。

そして人は思考する。こんなことをどうすればできるのだろうと。

噂をすれば、事情通が話をするだろう。おや、しらないのですか? これがいわゆる、科学というやつですよ。

こんなことができる科学者に、なりたいものですなぁ。あの船に乗れば、世界唯一の科学者にあえるとか、ごうわさですがね。


あとの日、博士には大量の黄金が届いた。

人類の新たなステージを上ったとして、黄金の階段も届いた。

博士はそれらを全部投げ捨て、黄色いペンキを買った。

「なんで黄金を捨てちゃったんですか?」

「うるさい。科学が儲かると知られるのは科学者の恥。ワシが昇るのは黄色の階段でちょうどよい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黄色の階段 夢ムラ @zinkey

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る