第2話 ネギトロ卵と大根葉のパスタのこと

深めのフライパンに沸き返るお湯を見つめている。

なんのことって夜食を食べる話である。

本日、深夜12時。ちょっと早めではあるがまあなんというか生き物は空腹には抗えない。というか夕食がまだなのだ。というわけで家人に食べつくされた炊飯器を悲しく眺めた後に、乾物戸棚からパスタ……マ・マーの結束のやつ……を取り出すに相成ったわけである。


丁度良く湧いたお湯に適当量の塩をバサバサぶちこむ。だいたい小さじ二杯分も入れたろうか。私はしょっぱめのパスタが好きなのだ。

そこにえいやとばかりに二束パスタを投入、即座にぐるぐるとかき混ぜる。

少しずつしんなりしたパスタが全身お湯に浸かり、くったりしたのを見届けて、くっつかないように適当にがしゃがしゃとバラしたのちに冷蔵庫に向かう。

冷蔵庫に鎮座している地元農場の朝どれ卵……平飼いとやらでなにやらぷりぷりしていて旨いやつだ……を一つ。夕食の残りの(まだ私は食べていない!)ネギトロパックを取り出す。

ここにネギを入れても素直に旨いのだが、私は多少思案してからつっかけを履いて外に向かう。もちろん火はちょっと弱めておく。本当は火をつけたまま火のそばを離れてはならない。ねずみとのお約束だ。

納屋に夕方採った大根葉……まだ根が大根に育ってないやつ……が置いてある。それを4,5本拝借してくる。

育つ前の大根はうまい。うっすら苦く、しゃきしゃきと歯ごたえが強い、春の味だ。

適当にあらみじんに刻み、ミルクパンにちょっとだけ沸かしたお湯に放り込みしばし。二十秒もあれば十分。

小鉢にとって白だし……個人的好みで昆布の白だしがいい……をだばーっとする。

ネギトロパックの残りを適当な量、適当な器に出して、醤油とわさびを混入。ここに白だしは使ってはいけない。味がなんだか似たような感じになっちゃうからね。

スパゲッティが茹で上がる。七分で茹で上がるものだが、二十秒ぐらい多めに茹でてしまおう。こう、深夜のパスタはアルデンテよりぐったりしている方がいい気がするのだ。

非常に適当にお湯を捨てて、麺にガーリックフレーバーのオリーブオイルをだーっとぶっかける。わっしわっしと混ぜて、そこにまず大根葉の刻んだやつをだばっとぶちこむ。適当にかき回し、全体に緑が絡んだと見るや皿に移す。とりあえず一人分。ほら、別のもの混ぜたくなるかもしれないしね。 ……本日の皿はラーメンどんぶりなので風情がないが、まあそういうこともある。おいしければいいのだ、おいしければ。

適当にどさっと置いたパスタの上にネギトロをオン。さらにその上に卵を割って載せてしまう。……卵黄だけ、とかだとオシャレでいいのだが、なにせ夜食だ。おもいきって全卵乗っけてしまう。なあにどうせ食べる時はぐるぐるに混ぜるのだ。

最後にペッパーミル……なんか最初から粒胡椒の入ったやつ……をガシガシと丼の上で挽いて、ネギトロ卵大根葉パスタの完成とする。


居間では家族がまだテレビを見ている。丼を抱えて持ち込み、こたつの一角を占拠。

ずるいだなんだという台詞をBGMに気持ちよく卵を崩して丼のパスタをかき混ぜる。さらに横から伸びてきた箸をディフェンス。勝利。なにがずるいもんか、人の炊いていたご飯を全部食べちゃったくせに。私は夕飯がまだなのだ。

箸でもってパスタを行儀悪くずるずると啜り込む。

大根葉がじゃきじゃきとうまい。パスタに絡んだたまごとネギトロがあまい。ツンとしたわさびの香気が鼻に抜ける。うむ。構成は完全に思いつきだったが悪くない。わさびがいい。わさび最高。頷きながら丼を抱え込み、家人の猛攻を避ける。

ぞるぞるぞる、ええい、そんなに食べたいなら自分で作ってきなさい。まだ材料全部あるし茹でたパスタ一人前残ってるんだから。ぞるぞるぞる。うんしかし大根葉のおひたしに素直にネギトロ卵を載せるのもいいかもしれないな、つまみに良さそうだ、ぞるぞる。

耐えかねたらしい家人が台所に立つ。ふふん。勝利の余韻に浸りつつパスタを味わう。これは大根葉はみじん切りより大きくても美味しいぞ、できるだけたくさん入れるとよさそう。


「冷蔵庫のパンチェッタ使ったー」


ばっばかそれは俺の秘蔵のパンチェッターーー!!!!

「もうないよ」

うっそーん。

「カチョカバッロも使った」

ひどくない!?

「からすみも掛けちゃった」

OK話し合おうか。

「ノビルもうないの」

な!!!い!!!!よ!!!!!


あってめえその上卵も焼いて?載せると? くすん。そんななんでもかんでも全部盛りみたいにしなくっても。

シンプルな材料でも夜食のスパゲッティは美味しいのだ。


「ねえねえデザートに神棚のピンクグレープフルーツ食っていい?」

しゃらーっぷ。

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夜食を食べる話をしよう 渡来みずね @nezumi

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