第32話:友との永久の別れ

 2023年があけて、1月3日、入院中の山下さんが、危機を脱して回復したと病院から連絡があり、みんな、ひと安心した。そこで石島さんが1月26日、再び、山下さんの、お見舞いに大学病院へ出かけた。病室に行くと山下さんがいない。ナースステーションでは看護婦さんが慌ただしく動き回っている姿に何か、ただならぬ気配を感じた。山下さんが急変して喀血し集中治療室に運ばれ再び、絶対安静となった。


 急いで、シェアハウスの加藤さんに電話を入れた。すこしして、加藤、北山、佐藤和美、佐島がやってきた。山下さんは、集中治療室に移され、会えない。一時間後、医師が来て、病状を説明してくれた。それによると転移した肺がんが肥大し、悪化して、今朝、喀血したと言うのだ。現在、呼吸、血圧、脈拍は、正常に戻ったが、意識はまだ朦朧としていて、不安定、持ち直して、意識が戻れば良いが、現状では、どうなるか、なんともいえない状況だと言った。変化があったら、すぐ連絡しますと言ってくれた。とりあえず、見舞いに来てくれた石島さんにお礼を言いシェアハウスに戻る事にした。


 その後も、悶々とした日々が続いた。そんな中でも庭の満開の山茶花の花が一枚、又一枚と散っていった。4日後の1月30日、庭の山茶花の花びらの最後の1枚がおち、その日の昼、山下が息を引き取った。シェアハウスの庭には、落ちた山茶花の花が、まるでピンクの絨毯の様に、綺麗に敷き詰められていた。佐島米子は、それを見ていると、山下との思い出の一つ一つが花びらの1つずつと重なって思い出された。


 2019年2月の2025年問題の老人部会で山下さんが、どの様な施設を望まれますかと聞かれた。末期老人施設の収容人数の問題もあると思いますが、暗い雰囲気ではなく、花壇に花が、壁に絵がかけてあり音楽が流れている、ホスピスの様な方が良いと思いますと答えた事を思い出した。木島も同じ質問を聞かれ女性として綺麗な施設で愛情をもって看取ってもらいたいと言った。いろいろ政治的に厳しい条件がある事は、わかりますが、それは、私たちのせいではなく、私たちが生まれた戦争中の軍部と政府の「産めよ殖やせよ」の政策の結果、団塊の世代と呼ばれる突出して人口の多い世代が生まれたわけです。我々は、むしろ、被害者なんですと、毅然と言い切った事をなつかしく思い出された。


 思い返せば、山下さんは我々四人のリーダー的、存在で、正しいと思った意見を通してくれた。また賢い腕白坊主の様に正しいと思った事を決してひるまず、発言して実行してくれた。そんな強いところと苦労した人間特有の弱者への海のように大きくやさしい心で恵まれない人へ人知れず募金を続けていた素晴らしい人だった。

 佐島米子は、こんな素敵な人に、巡り会えて、うれしかったし、山下には、多くの楽しい思い出をありがとうと、静かに黙祷するのであった。終了!

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老人シェアハウス ハリマオ65 @ks3018yk

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