宿題の偽装工作のススメ
ちびまるフォイ
オトナの宿題はこれからだ
「金がほしいなぁ」
「金がほしいなぁ」
「なんで給料こんな低いんだろうな」
「テスト中です」
生徒に注意されて担任の先生は愚痴を止めた。
テスト終了後に担任がやってきて、俺の肩に手を置いた。
「神崎、聞いたぞ。お前の母親が教師に転職するんだって?」
「はい、まぁ前から教師にはなりたかったみたいでして。
デスゲームの運営から足を洗ってからは夢を追いかけて、
今年の春からこの学校の教員になります」
「悪いことは言わない。やめておけ」
「ええ……」
「給料は安いし、仕事は多いし、給料は安いし。
理不尽なことは言われるし、給料安いし、ギャランティ低いし」
「先生、金ばっかですね」
「人の心は金でできてるんだよ」
「それじゃ失礼します。これ以上大人の汚さを見たくないんで」
「はい、では宿題を配布しまーーす」
教室中から悲鳴が上がった。
「先生、学年主任の竹林先生から受けるストレスを
こうしてみんなに宿題を課すことで発散してるんDA☆」
教師と書いてクズと読むことを、今日は教わった。
家に帰っても大量の宿題を見て嫌気しかささない。
大人になれば宿題なんてないのに、子供の方が大変だ。
「なんとかならないかなぁ……」
困ったときのインターネットには宿題代行の仕事があった。
自分の学校を選択し、課されている宿題を選択し、コースを選ぶ。
「松・竹・梅……どれにしようかなぁ」
最初は無難に一番普通そうな「竹」コースを選んだ。
宿題を郵送し、書き終わった宿題が送られてくる。
「おおすごい! これは楽だ!」
わざとらしくないように悩んだ痕跡や多少間違った部分もある。
誰が見ても自分で説いたように見える。
翌日、やや緊張しながら担任の先生に宿題を出した。
「…………おい」
担任が静かに口を開いた。
背筋に冷たい緊張が走る。
「どっちの車がいいと思う?」
「え?」
担任は車の雑誌を見せて悩んでいた。どっちも同じに見える。
「赤いのでいいんじゃないですか?」
「え~~でもなぁ~~目立ちすぎるかなぁ~~?
教頭の沢松先生にイヤミ言われるかなぁ~~。
でも赤いいよなぁ~~」
「あの宿題……」
「おっけーおっけー。良くできてるじゃないか」
「じゃあこれで」
職員室を出てからガッツポーズをとった。ばれなかった。
先生が車で頭いっぱいであることを差し置いても、
さんざん宿題を見てきた先生が見てバレないなら安心だ。
数日後にまた宿題が出されると、今度も迷わず代行屋に頼んだ。
「今度は、梅にしてみようかな」
前は竹コースだったので、今度は梅コースを選んだ。
梅になると宿題の50%しか終わらせなかったりするのだろうか。
なんにせよ、今は時間もあるので大丈夫。
戻ってきた宿題はすべて終わらせられていた。
「なんだ、梅でもちゃんと全部終わってるじゃん!」
梅コースを選んでもすべて宿題は終わっていた。
気になるところと言えば……再現度の低さだった。
「……なんかちょっとわざとらしいぞ、これ」
前は消した跡や間違った跡があったのに、今度はほぼパーフェクト。
日頃の自分の成績から見てもあきらかにわざとらしい。
でも、ボールペンで書かれているから消すこともできない。
急きょ、なんかの宗教に入信して一気に神に祈った。
どうか宿題がばれませんように、と。
警察に職務質問される泥棒のような挙動不審さで担任に宿題を出した。
「うん、オーケーだ」
「えっ」
まさかの一発オッケー。
ばれるかと思っていたのは心配し過ぎだったらしい。
自分の担任はきっとポンコツなのだろう。
「なぁ、神崎……。先生、プチ整形したんだけど、どうかな?」
「どうでもいいよ!!」
「お前のお母さん、めっちゃ美人じゃん。
職員室で会ううちに二人は愛というカリキュラムをこなして……」
「先生、どういう気持ちでそれしゃべってるんですか」
「うるせぇ、男はみんなセクシーな女に弱いんだよ」
「うちの母はお金のない男には興味ないのであしからず」
「なら、俺にもチャンスあるぞ!! うおおおお!!」
「お金ないんじゃなかったんですか!?」
「金なんてのは求めるものじゃねぇ! 作るもんだ!!」
「この人からは何も学べないな……」
担任は羽振りがいいのかご機嫌だった。
副業がどうとか言っていたけど、とにかく気付かれないでよかった。
平和な学校生活をぶち壊すように、担任の先生はまた宿題を出した。
「それじゃ、みんなお待ちかねの宿題だよ~~。
もう毎週末には宿題出しちゃおっかな」
「「「 ええ~~ 」」」
「なお、回答欄の最後には先生のプチ整形についてのポジティブな意見を書くこと」
その日、俺は職権乱用という難しい言葉を覚えた。
日に日にスパンの短くなる宿題地獄に代行屋の出番は増える。
「今度は松を選んでみようかな」
松コースを選んで宿題を配送。
どんな結果が待っているのか楽しみだ。
戻ってきた宿題はやはり最後まで解かれているものの、
むしろわざとらしさは竹コースよりも増えていた。
「なんじゃこりゃ!? 詐欺じゃないか!!」
全問正解なんてさすがに疑われる。
しょうがないので答えの周りにちゃんと考えたような痕跡を書き加えた。
結局、普通に片付けるよりも倍の時間がかかった。
「なんなんだよ……クォリティあがるかと思ったのに……」
なんにせよ、これでバレることはない。
翌日は朝から全校朝会ということで体育館に集められた。
『みなさん、今日から新しく神崎先生が学校に赴任されます。
シングルマザーで経済的にも大変ですが、
夢を追って教員になった素晴らしい方です!』
教師の紹介が終わって教室に戻った。
みんなが神崎先生のことで話題はもちきりだった。
「みんな、楽しそうにしているところ悪いけど
今日も宿題を出すぞ~~♪」
担任の先生は嬉しそうにまた宿題を用意してきた。
もう毎日宿題させている。
「ただいま」
「あらおかえり」
家には母こと神崎先生がすでに帰っていた。
教師は持ち帰り仕事が多いのか宿題を進めていた。
「ねぇ、何か欲しいものある?」
「どうしたの急に。そんなお金あるの?」
「お母さんの夢がかなった記念よ、まかせて」
欲しいものを答えた後、自分の部屋でおびただしい量の宿題を広げる。
こんなの自力で片付ける気にはとうていなれない。
いつも通り宿題の代行屋を開くと新しいコースが追加されていた。
松 竹 梅 神
「神!?」
これ選んだらどうなるのだろう。
さすがにものすごいクォリティになる気がする。
お金を払って神コースを選択し宿題を郵送した。
郵送した宿題はすぐに家に戻ってきた。
「か、母さん……」
俺から送られた宿題とお金を受け取り、
答案に偽装工作する母を見て
自分の担任の先生の苗字が「梅田」だったのを思い出した。
宿題の偽装工作のススメ ちびまるフォイ @firestorage
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