第一章 書けない原稿(6)
わかっている。美羽さんはもう
(どうすればいいんだよ……)
もう少し調子に乗せれば男が刃物を美羽さんから離す。しかしこのままそれを待ってるというわけにもいかなくなってきた。
「光、落雷を使おう」
早急に手を打つ必要を感じていたのは土地神のヤツも同じだったらしい。しかしこの情況で作戦会議をするわけにもいかない。
「…………」
「視線に思いを込めてくれればいい。もっと言えば思考をハッキリさせてくれれば伝わるよ。僕は元々、君と言葉で会話してるわけじゃないからな」
(マジか!?)
「マジだよ」
(でも落雷ってあれだろ。少し痛いだけのヤツだろ?)
「まあ、そうだけど、ピンチを切り抜けられそうな僕の能力なんだからもう少しありがたがってくれないかなあ……」
(あれも……そうだな使い方だな……)
俺は作戦を思いついて、視線に込める。
「そこに落とせばいいのかい?」
(タイミングは俺が指示を出す)
「それになんの意味があるかわからないが……許可しよう、光!」
(頼むぜ……)
俺はそこまで視線で伝えると目を
「なんだい、兄ちゃん、見たいのかい?」
帰ろうとしない俺を見て男はそう思ったらしい。目を瞑ってる意味など少しも想像出来そうにない頭の悪さだ。
「こちらの準備はOKだよ、光」
それを聞いて俺は大声を上げる。
「今だ!」
それが聞こえただろう土地神の声が響く。
「落ちろ雷!」
バチッという音と共に家中の電気を管理するボックスの中のヒューズが吹き飛んだ。そして居間の電灯が消える。
「な、なんだ!?」
男が戸惑う声が聞こえたと同時に俺は飛び出した。
こっちは瞑っていた分、暗さに目が慣れていた。しかし急に暗くなった男には何も見えない。見えるまでに十秒くらいはかかるだろう。
「ハッ!」
そして俺には五秒もいらなかった。刃物を持つ男の手首をひねり上げ、そのまま体を押し込んでひっくり返して床に転がす。そして襟を
「ぐっ」
男は抵抗する間もなく、四秒で落ちて動かなくなった。
***
男が意識を失ってる間に警察に突きだしてやった。凶器を持ち歩いてたし、余罪もあったとかで引き取ってもらえた。
そこで聞いたのは男は何か問題を起こして仲間に追われてるという話だった。美羽さんを捕まえに来たのはその
「すみません、俺の詰めが甘かったせいで美羽さんを危ない目にあわせてしまって」
警察からの帰り道、無言の圧に耐えきれず、俺は謝罪の言葉を口にした。
「え? そんなこと気にしてたの?」
でもそれは美羽さんには意外なものだったようだ。
「実際、そうだったじゃないですか」
「明らかに巻き込んだのは私の方でしょ」
美羽さんからすればそういうことらしい。
「ごめんね、変なことに巻き込んじゃって」
俺の言葉は美羽さんに申し訳なさそうな顔をさせて謝らせることになってしまった。
「いや、その、本当に助けるために来たんです──」
俺は美羽さんの気持ちを考えるといたたまれなくなってしまった。
「信じてもらえないかもしれないけど、俺、土地神ってのが見えて……それでソイツが美羽さんが困ってるから助けに行こうって言い出して、ですね」
なんか言えば言う程、無理な感じがして不安になって美羽さんの顔を見てしまう。彼女は特に怒るのでもなく、悲しむのでもなく俺の言葉を待っていた。
「それで俺は助けるために会いに行ったから、巻き込まれたとかじゃないんですよ」
「信じるよ」
美羽さんは少し笑ったように見えた。
「鈴木家の志男くんがそう言うなら信じるよ。私は土地神とか信じてはないけど」
その言葉は俺にとっては
「せっかく助けてあげたのになんて言いぐさだよ!」
憤慨した声が聞こえてきた。
「そういえば……
そのままトラブルに巻き込まれたせいで、すっかり忘れていた。あんな男よりもずっと大事そうなことがあった。
「それ、教えないといけないのかなあ、だってそういうの信じないタイプなんでしょ」
土地神のヤツは知ってるのに
「信じてもらうチャンスだろ! つまんねえことでゴチャゴチャ言うなよ、お前は」
「むー!」
俺の言葉にまだ土地神のヤツは不満そうな顔をしていたが、それでも自分が何をすべきかを考える理性は持ち合わせていたようだ。
「どうしたの?」
そんなやりとりを不思議に思った美羽さんが尋ねてくる。
「土地神のヤツが美羽さんが祟られてるって言うんですよ」
「……でしょうね」
反発されても面倒だが、そこまで受け入れられてしまうと、それはそれで
「で、どうすればいいんだ?」
「とりあえず
土地神のヤツは何か見えない香りを追いかけるように走り始めた。俺は美羽さんとそれを追いかける。
「ここだ」
土地神が立ち止まった場所にはそれっぽいものは何もなかった。少し大きめの石が落ちてるだけの原っぱだ。
「……どこだよ」
土地神のヤツがそうだったように
「この石の中だよ」
土地神のヤツが石に触れると中からぼうっとガスのようなものが噴き出してきたように見えた。それがぼんやりと形になったかと思うと、それは黒い兎のようになった。
「なんじゃこりゃ」
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