毛糸玉の中の僕

どこにも行けない僕は糸。

昇ることはできなくて。

ぐるぐると、とぐろを巻いて蛇の真似。


「僕はあなたにお礼を言いたい。」

きっと花がよく似合う。けれど。


『毒を持つ僕が触ったら』

君は一瞬で枯れてしまう。

それは嫌だから、遠くから“おはよう”と“おやすみ”を言うよ。


『鳥たちの話を一緒に聞けたら』

すごく楽しいだろうな。

……でも、彼らはずっと遠くを見ていて、僕に気付かない。

それが悲しくて、仕方なくひとりで“家”に帰るんだ。“ゆっくり”ね。


人には視えない“泉”の底。

“花びら”を縫い合わせて、封……と息を吹きかける。これで大丈夫。もう痛くないよ。


蛍が灯してくれた火をぼうっと眺めている内に、僕は眠る。


黒のなか。きらりと光った星一つ。

糸を切りし鼠が笑う。


この“濁流”を泳ぎきったら、僕は龍になれるかな。


“あなた”を迎えにいけるかな。




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なでこの寝言 なでこ @Zzz4sheep

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