「お前は、死刑だ」


宮田に、突然そう言われた。

宮田が年中半ズボンなのをからかっていた時だった。


いや、だって、おかしいだろ? 年中半ズボンなんて。

まあ、小学生くらいだったらよくある話だ。

でも、俺たちはもう高校生。

高校生が、年中半ズボンは、おかしい。


だから宮田をからかった。

そうしたら宮田は急にムッとした様子になり、そんなムッとした宮田をさらにからかっていたら、言われたのだ。

「お前は、死刑だ」と。


またまた、死刑だなんて。

小学生かよ。

っていうか、少しからかわれたくらいで死刑って。

そんなことで死刑になるなんてことはありえない。

まあ、名誉毀損、だっけ?

それくらいにはなるかもしれないけど、死刑はない。

少なくともこの日本では。

だいたいからかわれたくらいで相手に死刑宣告とか、なんだよ。王様かよ。


――いや、確かに。

確かに宮田は常々言っていた。「俺は、王だ」と。

でも、そんなわけがないだろ?

だって、ここは田舎のどこにでもある公立高校だぜ?

そんなところにいるわけがないだろう。「王」が。


あいつが本当に王であるはずがない。

だって、宮田の家に遊びに行ったこともあるが、なんでもない普通の家だった。

普段食べているものも、着ているものも、普通だ。

唯一、年中半ズボンであることだけは、特別といえば特別だったけど、でも、特別だと感じるのはそれくらいだ。


王っていうのは、もっと特別なものじゃないのか?

それとも、何だ?

お忍びで来ているから、とか、市井の民の暮らしを知るため、とかで皆と同じように過ごしているとか?

だったら自分から堂々と「俺は王だ」なんて言うわけがない。

たまたまバレてしまった相手に「実はそうなんだが、秘密にしてくれ」みたいな事を言う事はあるとしても。


いや、確かに宮田にはどこか特別な雰囲気? オーラ? みたいなものはあると思う。

いつも影のように一緒にいて、宮田の言いなりになっているガタイのいい東山ってやつがいるけど、ああいうふうに付き従ってみたくなる気持ちも、わからないでもない。

でも、ちょっとしたカリスマがあるからそれが王の証拠だって事になったら、世の中王だらけだ。


それに、もし万が一、仮に、だ。

仮に宮田が王だったとしても、これは日本で起こった出来事だ。

日本で起こった出来事なのだから、それは日本の法律に照らし合わせて裁かれるものだろう?

たかだか半ズボンであることをからかったくらいのことで、死刑になんてなるわけがない。

それが近代の法治国家っていうものだろう?


――じゃあ。

――じゃあ、なんで俺は。

東山にすごい力で腕を捕まれ、車に無理矢理乗せられ、ここに連れてこられたんだろう。

こんな、まるで刑務所かなにかのような、無機質な、コンクリートの。

こんな鉄格子だらけの。


なんで俺は、こんな場所で。

こんなよくわからない場所で。

こんな椅子に固定され、身動きを封じられ、頭に袋を被せられているのだろう。


なんで今、「執行」という声が聞こえて――

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中谷干 @nakayakan

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