第9話 我々には、それが必要だ。
自分の所有する格納庫の中、今回使用する機体を選ぶ。
FA-18ホーネットの護衛を前提にするならば、F-14トムキャットが丁度良いだろう。
しかし、今回はそうも行かない。
村上さんのような初心者プレイヤーに扱わせる戦闘機としては、初期機体であるF-4がある。
リアルであれば退役して久しい旧式機である以上、扱いは極めて難しいはずだがそこは、
ゲームだ。
非力であるが、基本操作さえ覚えれば極めて扱いやすくコストもほぼ掛からない。
従ってゲーム内通貨を貯めつつ操作に慣れてより上位の機体に乗り換えていくのが、ゲームの大まかな流れだ。
もし、初心者にF-4以上の機体を与えるのであれば、コストや扱いやすさ、汎用製を考慮すべきだろう。
だと言うのに調子に乗ってF-35ライトニングⅡなんて初心者に与えた奴がいる。
確かに、こっちもマルチロール機で地上施設への攻撃も可能だ。
でも、コストが高い。
修理費も高い。
推力偏向システムがあるのは良いが、かなり癖のある機体になってる。
村上さん大丈夫か?
コレに追随出来る機体となるとF-22Eラプターだろうな。
そう言ってラブターの前に来ると、タラップを上がる。
キャノピーは、初めから開いているのでそのままコックピットに乗り込む。
それと同時にメニューが開くので操縦系にVOEを加える。
するとコックピットの景色は消え、360度全方位に視界が広がる。
俺の手が翼となり、ジェットエンジンと推力偏向ノズルを自在に動かせるようになる。
意識すれば、ウェポンベイが開き機銃もすぐに攻撃態勢に移行できる。
まるで、機体が俺の体になったようだ。
現実には、腕のスマートウォッチが手の筋電位を測定し指先の細かい動きの変化を入力信号に変換すると共に、フィールドバックも返す。
VOEは、チョーカーとベルトつまり脊髄の上方と下方にコイルを形成し交流電流計の要領で微弱な生体電流を計測し解析して信号とし、存在しないはずの器官への命令とする。
俺の場合は、ジェットエンジンや推力偏向ノズルなどだ。
ラブターのすべての機能は、完全に俺の支配下にあり手足の如く使えるだろう。
自身がラブターになったような感じ…いや俺がラブターだ。
実際VOEが有るのとないのとでは、スコアに差が出る。
操縦桿での操作では不可能な細かい操作を直感的に行える為だろう。
特にF22ではそれが顕著だ。
搭乗と調整が完了すると格納庫の扉が開く。
さあ、出撃だ。
ヒーローコンバット。
いわゆる、VRを利用した大規模なネットゲームだ。
リアルな戦闘機を駆り、戦場を駆け巡り戦果を挙げてお金も稼げる。
確かに世界中で流行しているんだが、一つ問題点がある。
日本では女性プレイヤーが極端に少ないのだ。
ネカマは、結構いるが音声チャットですぐ分かる。
やっぱり戦闘機に対する憧れは、女性には理解されにくいのだろう。
そうすると、村上さんがこのゲームを始めた理由が今ひとつわからない。
お小使いでも欲しいのだろうか?
通常のプレイでは高校生の月の小遣いくらいなら稼げないこともないが。
しかし、それなりの腕が必要だ。
米国のラスベガスサーバで正式に選手として出場出来れば短期間にかなりの収入が見込めるが日本時間の深夜2時から午後1時までの指定された時間にログインする必要があり、遅刻は認められないなど条件が厳しい。
なおかつ向こうのプレイヤーは強い。
そう言うわけで、このゲームでは女性プレイヤーは優遇される。
優遇されるはずなんだが…新規参入者が極端に少ない。
他のVMMO同様、何だかんだでユーザーアバターのコーディネイトが多彩である。
変身して、おしゃれするそう言うことも可能だ。
軍隊調の制服じみた物が多いけどな。
だのに女性に人気が無いのは、傭兵と言うダーティーな設定と実際金銭を賭けた試合が行われる為、プレイヤーが怖いと言うイメージが先行しているためだろう。
いや、まあラスベガスで毎夜行われる掛け試合では、派手な衣装のレースクイーンじみた女性がリアルでショーを彩るのだそうだ。
悔しくないぞ。
だが日本のユーザーの実体は賭けられる額が少額と言うこともあり、指定されちゃってる団体の人なんかは殆どいない。
トッププレイヤーは、気のいい軍オタ連中ばかりだ。
但し、良くあることだが仲間内以外とは、人付き合い…特に女性とのそれが苦手だ。
つーか、気付かずに自分達のノリで笑いに走ったりする。
そこに、村上さんのような女性の初心者プレイヤーが参入してきたと判明するとどうなるか?
上級者共がやたら集まって高難易度ミッションにいきなり挑戦し、高額報酬を苦もなくゲットだ。
手に入れたアイテムやらは、自力で手に入れられないから壊れるとそれきりになってリカバリできないし。
敵の強さとか実体験で確認しないからレベルだけ見て突撃するし。
しかも、良いとこ見せようとアピール合戦が始まるのはいいが趣味に走りすぎて…ドン引きされる。
女の子が「地獄の黙示録」なんて知ってるワケ無いだろうが!!
やかましいから音楽止めろ!
かくして、俺の機体の後ろにS・ムラカミ准尉のF35が飛んでいる。
隊長機だ。
その周りを俺のF-22を含む35機が取り囲む。
ムラカミ飛行戦隊である。
パーティとしては最大規模であり、初心者向けミッションに投入して良い戦力ではない。
俺と同じF-22やSUー57中にはMQ-1プレデターなんかもいる。
正直、戦闘集団としては機能しないと思うぞコレ?
考えている奴がいるのか、FA-18スーパーホーネットに乗ってきている。
この状況であればF-22やF-35への支援火力が期待できる。
通常であれF-22やF-35で先行して、敵勢力を発見後方部隊に情報を送り支援攻撃を要請。
先行部隊による先制攻撃直後に後方部隊からのミサイルを誘導するというのがセオリーだ。
その後は当然、制空戦に特化した部隊の来援を以て格闘戦と相成るわけだ。
が、この飛行戦隊は、見事なまでに何も考えられていない、個々の腕と機体性能でごり押し前提のひどいもんだ。
初心者向けのミッションには過剰戦力だけどな!!
「トライバードより、隊長機へ」
隊長機であるムラカミ准尉へ連絡。
先ほど言ったセオリー通りに、ステルス機で先行し敵の状態を確認後、支援機からの支援攻撃と共に敵戦力を殲滅すると言う作戦を具申する。
『…えっと良くわかんないけどそれで、お願いします』
隊長機からの許可が出た。
後は、俺の言うことを聞いてくれるかどうかだけど…
「全機へ継ぐ、コレよりステルス能力を持つ各機は先行して敵勢力の発見に全力を…」
先程の作戦案を僚機に伝えようとしたところでムラカミ准尉が注意を促す。
『すいませーん、さっきからコッチに何か飛んできてるんですけど?』
そう言われてレーダーをみるが反応が無い。
何かいるならレーダーに表示されるはずだが…
と、外の景色に意識を向けると、銀色のナニカが飛んでいた。
そのナニカとは、お皿のような外見をしてコマのようにクルクル回転をしながら飛び、下部には三つの丸いナニカがついている。
そいつは、凄い勢いで飛んでくると俺たちの前で制止(?)した。
『UFO?』
混乱してムラカミさんが呟いている。
まあ、初心者だから仕方がないが。
コレは運営のゲームマスターだ。
UFOは、GM専用で倒すと色々貰えるらしい。
但し、倒れるか倒れないかは運営の気分次第だが。
何か不正なことがやられてないか巡回しているのだが、たまにこうしてユーザーの前に姿を現す。
「おや、皆さん。団体でどちらに?」
ヒーローコンバットでは臨場感を出すため、作戦中のユーザー間の会話にはノイズなどが入るが、GMはそれがない。
未知の凄いテクノロジーだ。
『皆で建設中の飛行場を攻撃しに行ってます』
隊長であるためか、ムラカミさんが答える。
「そうですか、それにしても凄い顔ぶれですねぇ」
そりゃそうだ。
なんと行っても隊長機以外全員佐官だからな。
「これなら、このミッションは楽勝ですね!!」
あ、この流れヤバイ奴だ。
それを、知ってる連中が身構える。
ついでに、明らかにUFOにロックオンする奴もいる。
俺は、機銃に手を掛ける。
「それじゃ皆さんのレベルにあわせて、無人機母艦をおいていきますね!」
そう言った瞬間、空対空ミサイルと機銃の嵐が運営に殺到する。
猛烈な爆発音。
やったか!?
「無人機母艦もうすぐ来ますから、焦らないでくださーい」
無傷のUFOは呑気に言う。
こちとら、そう言う意味で攻撃してるんじゃない。
いらん事するなと言う意味で攻撃している。
「もうすぐ雲の向こうから来ますから、私はコレで失礼しますねー」
そう言って、UFOは凄いスピードで去っていく。
GMめ、ヒマだからって偉いもん置き土産しやがって!!
『え?なに今の?』
ムラカミ准尉は、当然事態を把握していない。
要は運営のGMがあまり人がいない時間帯に集団でミッションを行っている俺たちに気付き、ちょっかいを出してきたと言う事だ。
まあ、こう言う予想外のサービスと言うかユーザーを飽きさせない配慮があるから面白いとも言えるが、今回はちょっと厄介だ。
運営が、勝手に上級のボスを置いていったのだ。
コレを倒さない限りミッションはクリアできない、つまり…
「野郎共!!戦争の時間だ!!全員本気出すぞ、隊長機と爆撃機は待避して戦闘機は何機か護衛についてくれ」
荒っぽいが、まともな指揮系統がない以上、最上位の階級の俺が指示を出す。
無論そこは熟練したプレイヤー達だ。
指示通り動き出す。
爆撃機は、飛行場の破壊ミッションに備えて戦闘域から2機のB-2爆撃機が離れる。
「ムラカミ准尉は、離脱する爆撃機について護衛してくれ」
『う、うん解った』
そう言って、ムラカミ准尉のF-35、それとは別に2機のF-35が退避する。
合計5機がこれからの戦闘に参加しないわけだが、それは仕方が無い。
それに、全機ステルス性能の高い機種で固めている。
残りの戦力とUFOの置いていったボスが相打ちになってもミッションはクリアできるだろう。
「俺とアーチリング少佐で先行する、会敵したら支援よろしく」
そう言って、2機のF-22が音速を超えて最大速力で敵がいるであろう区域に突入する。
ああ、やってやる戦争だ!!
MEI~コンピュータが見た異世界~ R @Redwaire
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