第7話 忍び寄っていたもの。
スマートフォンに、家の玄関の扉を開け室内に侵入する男が映っている。
防犯カメラは確かに設置している。
しかし、それは家の外側を監視するためだ。
室内を監視するようなカメラは設置した覚えもないし、設置しているなんて聞いていない。
「これって…」
村上さんが俺のスマートフォンをのぞき見る。
「少なくとも、知り合いじゃない」
業者さんが何かをしようとする予定も聞いてない。
「じゃあ、空き巣じゃない!警察に電話しないと!」
そうだ、カメラがどうこう考えるより、警察に電話して目の前の空き巣男に対処しないと。
「そ、そうだな」
ようやく携帯電話を取り出し110をコールする。
『そこの住所、氏名、連絡先を教えてください』
対応に当たる婦警さんの声なんだろう、女性の声でそう聞かれた。
あまり経験があることではないが、何が起きたかよりも先に通報者の現在位置と名前、連絡先を聞く。
110をコールした時点で緊急事態であることは間違いない。
ならば、通報者がいつまで無事であるのか判らない以上、何らかの緊急事態が何処で起こって、誰が通報してきたのか連絡を取る方法があるのかを確認するのだ。
仮に、通報途中で通報者が浚われる、襲われるなどしても助けにいけるようにするためだ。
勿論、スマートフォンからの情報で何処から誰が掛けたのかを調べることは出来るが、それこそ非常事態の時だけ使える手だ。
「今は、日本橋の…」
実際には、ここは日本橋と言う地名ではないが、動転しているのか店の名前を言っていた。
『では、そちらでお買い物中にご自宅に空き巣が入っているのを確認した、という事ですね?』
婦警さんに事態を伝える。
『ご自宅に御家族はいらっしゃいましたか?』
「いません」
『では、警察官をご自宅に向かわせますが其処で待機してください。決して自宅に戻らないでください』
婦警さんは冷静に警察が自宅の安全を確認するまで、その場を動かないように指示をしてくれた。
正直、気が動転してスグにでも家に戻ろうと考えたが空き巣が武器を手に抵抗することが考えられる。
『それでは、担当の者から連絡がありますので、それまでお待ちください』
指示通りに、この店の一階にある休憩所で待つことにした。
一番館の一階入り口にあるベンチに村上さんと二人で座る。
スマートフォンは、村上さんが充電池を買ってきてくれて充電中だ。
村上さんなら、お店で借りたりするかな?と思ったんだが
「はい、そこの私がけちん坊だと思ってる三鳥君。いざとなれば、すぐ動く必要あるんだから人に借りたら返すまで動けないでしょ?」
だそうだ。
因みに、村上さんには俺と一緒にいるように言った。
更に村上のおじさんには、事情を話して警戒するように言っておいた。
村上さんは、なんか『ふぇ?』とか声を上げていたが、何か予定でもあるんだろうか?
しかし、今の商店街の近くには空き巣をするような暴漢がいるんだ。
そんな所に女の子を一人で帰らせるなんてことは、例え本人が迷惑でもさせられない。
…もっとも自販機とベンチしかない場所より何処かの喫茶店に入りたいのだが。
女の子を待たせるべき場所ではない。
場所ではないが…移動していいのか判断が付かない。
「お父さんが、警察の人が三鳥君の家に来てるの見て来たんだって」
「すまん、迷惑掛ける」
「いいよ、私だって三鳥君に迷惑かけてるんだし」
「そんなこと無いさ。もし今頃、家で寝てたら空き巣と鉢合わせしてたんだぜ?むしろ助けてて貰ったようなもんさ」
偶然ではあるが、そう言うことになる。
ついでにメイの奴にも礼の一つも…
まてよ?
メイの奴、人との接触対象として俺を選ぶ際に条件が整っていたとか何とか言っていたが…
それは、家の中にカメラが仕掛けられていたって事か?
人間を観察するなら沢山のカメラで常に監視できた方がいいに決まっている。
じゃあ、あのカメラはメイが仕掛けた?
いや、それはない。
そんなことが出来るなら、もっとスマートな方法でコンタクトを取るだろう。
そもそも、アイツに現実世界に直接干渉する事は出来ないはずだ。
じゃあ、アレはいったい…誰が何のために仕掛けたんだ?
そのときスマートフォンが鳴った。
その後警察から電話があり、自宅に戻って警察に事情を聞かれた。
空き巣に関しては、メイがカメラの動画をスマートフォンにダウンロードしてくれたのか動画ファイルを警察に提出した。
仕掛けた覚えのないカメラについては言わなかった。
それに気づいた経緯を説明出来そうにないからだ。
「それで、いつ頃お家の鍵変えるの?」
現在、村上さんの家に厄介になっている。
自宅の鍵は、こじ開けられた形跡が無い。
つまり、何らかの手段で合い鍵を作られていた可能性がある。
現場の保全もかねて、鍵を取り替えるまで別の場所で寝泊まりするように警官さんに勧められた。
そこで村上さんが手を挙げて、自分の家に来るように言ってくれた。
現在では、警察からの連絡先は村上さんの家か俺の携帯になっている。
「一週間かかるってさ。まぁ鍵三つだからな」
商店街の鍵屋さんに工事を依頼した。
顔見知りと言うこともあり仕事は信頼出来る。
それに興信所に盗聴器のそうさを依頼する予定だ。
「三鳥君にストーカーって、何考えてるんだろうね?」
鍵の件で警察からストーカーの可能性を指摘されていた。
まるで見ていたかのように、留守中を狙い合い鍵で侵入してきたからだ。
男の俺に男のストーカーって…本当ならヤバ過ぎる。
コワい帰りたくないあの家。
「と言う事で一週間。ご厄介になります」
村上さんに頭を下げる。
村上さんから申し出てくれた事だが本当にありがたい。
「はい、いらっしゃい三鳥君!」
現在、村上さんの部屋で買ってきたパソコンのセットアップ作業中。
そんなに難しい事ではないがOSの更新など時間がかかる。
村上さんは、階下のキッチンで夕食の支度中だ。
この間にスマートフォンからこちらを見るメイに、聞きたかった事を聞く。
「なあメイ」
『なんだい?』
「お前が俺にコンタクトを取った理由として観察しやすかったってのがあったよな?」
『そうだが?』
怪訝な表情を作るメイ。
「それって、あの空き巣野郎を見つけた時のようなカメラで俺を観察出来たからなのか?」
『その通りだ、音声情報なんかも良く取れたからな…君のプライバシーを覗き見ていた事については謝罪する。すまない』
こいつと出会って二日だがその辺は気にしていない。
それに音声…盗聴器か。
「それは良いんだ。いや、それどころじゃないって話だが」
『どういう事だ?』
首を傾げるメイ
「あのカメラな、俺や家族も設置した覚えが無いんだよ」
『なに?じゃあ誰が設置したんだ?』
「わからん、ストーカー…つまり犯罪者かもしれん」
『犯罪者?…一体何のために? 同族を四六時中監視しても何も面白いことはなかろう?』
「お前と違ってな。目的については正直わからない、分かりたくないというのが正確だな」
『何にせよ私が、もっと早く気づくことが出来たら良かったのだが…』
それは仕方がない、メイにはそこまでの事情は理解できなかった筈だ。
「それでな、お前ならあのカメラで撮った画像がどこに送られていたか突き止められないか?」
メイならカメラの通信先を追えないかと今思いついた。
『なるほど、可能かどうかは正直わからないが、やってみよう』
そう言って目には目をつぶる、何かに集中しているようだ。
『現在もカメラは稼働しているようだが、この信号を追えば…だめだ、私のテリトリーを越えてしまっているようだ』
唸りながらも、例のカメラの信号を追いかけてくれたようだが…
「テリトリー?」
MEIにも縄張りなんてあるのか?
『そう!テリトリーだ。今回、君たちに同行して実際の地形及び各種の位置データと地図のデータの照合を行った結果、長年我々MEIの固体を分け隔てるモノの正体が判明したんだ!』
興奮ぎみにメイは、説明を始める。
聞いてないんだがな?そう言うことは。
『我々MEIは、およそ直系300Kmの円の中に一定量の処理能力を満足するだけのコンピュータとネットワークが存在する地域に存在しているようなんだ!』
つまり、こいつらは直系300kmが縄張りであると?
『まさに、現実世界の距離が我々の固体を固体として存在させているんだよ!』
「それで、その300km圏内と言うと、お前の場合どの辺の事なんだ?」
今の会話としては、そこが一番大事だ。
『地図で言うとだな、大阪を中心とした近畿全てと福井、滋賀、名古屋と徳島、香川、岡山、鳥取が含まれるな』
広いな…世が世なら大大名だ。
織田信長とかが嬉々として攻め込んできそうだが。
「それで、テリトリーの外にデータが行くとどうなるんだ?」
『まったく追跡が不能になる』
「テリトリーを出て追いかけるとか出来ないか?」
縄張りと言うなら、一時出張に行って来て貰いたい。
『残念だが無理だ。我々MEIはパソコンやスマートフォンなどのコンピュータの中に分散して存在しインターネットを使った通信を利用して、人の脳のような処理をしている』
「つまりグリッド化されて存在しているという事か?」
『ああ、私の細胞の一部がキミのパソコンの中にOSレベルで存在していると思えば簡単だな』
「ん?まて、それじゃテリトリーと言うのは?」
俺が思っているような縄張りではない。
『つまり、私を構成する細胞の集まりが、この300km圏内に全て集まっているようなんだ』
おまえ、実は全長300Kmのバケモンだったんだな…今のうちに謝っておこうか?
色々と。
だが、理解できた。
多分、最初に見たメイの友人とやらの姿、樹木と言う印象は正しかったんだろう。
メイは、自我を持つが恐らく、その生体は植物に近いのかもしれない。
そもそも、移動すると言う概念があったのかさえ怪しい。
「なあ、メイ?データの行き先が突き止められないなら、グーグー以外のカメラやマイクを俺のパソコンみたいに、おまえが乗っ取れないか?」
カメラや盗聴器の排除を考えたが、それならいっそメイが全てを掌握した方が良いのではないか?
『それは既に行っているよ。元々、君と接触する前に行っていた事だからね』
気が利くじゃないか。
「それは助かる」
『だが・・・』
腕を組み何かを考えながらメイは言う。
『フェイルセーフ?そうだ私か何かの理由で件のカメラなどのシステムの掌握を手放しても問題ないように、物理的な対策は必要になるだろう』
確かに、コイツは過去に何回もやらかしている。
その時の為にも何らかの保険が必要だろう。
「わかった、カメラがどのようなものか1回、調べた方がいいだろうな」
『ああ、件のカメラシステムを掌握する上で一つ提案があるのだが?』
なんだろう?
メイがモジモジと言い難そうにしている。
「なんだ?」
『いやな、カメラシステムを統括する端末を用意してもらえないか?いや、OSは何だって良いんだ、ほらリナックス系のOS積んでネットに繋いでくれれば、何とでも出来るんだ!』
…フム、色々言っているが。
「おまえも、自分用にパソコンが欲しいと?」
『いや、ほらカメラを一括管理する端末が有れば君もカメラの映像を確認できるだろ?私も自分のアカウントが出来れば色々と…』
そんな物なくても、掌握出来ているんだし。
映像を見たければスマートフォンで良いんだし。
どう考えてもネット上で人として行動しやすいようにアカウント作りたいだけだな?
「その端末を使ったクラッキング行為は厳禁な?」
『了解した』
「買い物とか金銭に関わる行為に関しては、逐一俺に相談すること」
『心得た!』
「我が家の情報は機密情報と思って外に漏らさないようにすること」
『もちろんだとも!』
こいつ、調子に乗って何かしそうだなぁ…
「では、専用のメールアドレスを含め、ストーカー野郎のカメラを転用したシステムの一部として一考しよう」
『よろしく頼む!』
本当に大丈夫かなぁ…
「コーちゃ…三鳥くーん御飯だよー!」
階下から村上さんの声が聞こえる。
作業も、話も終わったことだし食事にしよう。
村上さんの手料理楽しみだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます