第4話 D・O・G・E・Z・A
「ふぁぁ…割と眠れたな」
昨日はメイがPCに現れ大騒ぎしているうちに、相当遅くまで起きてしまった。
別に徹夜が辛いわけではないが、何だかとても疲れた。
大体、あいつが実験したいだのデータが欲しいだの、ギャアギャア騒ぐから悪いんだ。
まあ、途中でギブアップして寝させてくれといったら渋々引き下がったが。
「おはよう…」
『…や、やあコウイチ。おはよう』
キッチンに降りて朝の挨拶をすると、いつもとは違う声がAIスピーカーから流れてくる。
ああ、メイか。
そういや、コイツいたんだな。
正直、自分でもかなり短時間でメイを信用してしてる気がしている。
たぶんメイの容姿(?)が村上さんに、よく似ているせいなのかもしれない。
偶然だとは思うが、どうしても敵意が向けられない。
実害が無い…というのも有るだろう。
「今、何時ごろだ?」
『午前10時だよ。よい朝だね、うん!』
メイってこんなヤツだっけか?
妙によそよそしいと言うか、もっとこう図々しい奴だったと思うんだが。
それにしても10時まで寝てしまったか。
朝飯は・・・いいかもう。
『ああ、私は少しばかり用事があって暫く音信不通になるが問題ないかね?』
用事?コイツにもそんな事があるんだな。
「問題ないどころか、問題が減るから大歓迎だぞ」
目下のところ、コイツ以外に問題となるような出来事は起きていない。
『そ、そうかね。ではまた後でな!』
なんだろう?
何か嫌な予感がする。
そう思いつつコーヒーを淹れようとコーヒー豆を取り出したところでグーグーが着信を知らせてきた。
『携帯電話に村上早苗様より着信があります。こちらに回しますか?』
「頼む」
『畏まりました』
いったい何だろうか?
デートのお誘い?
いや、付き合ってるワケでも告白した事も無いんだ、そんな事…あったら嬉しいなって。
無いな!!大方PCがヘンって言う救援要請だろう。
いやまて、朝から電話ってことは万が一がある?
一瞬で様々な妄想が駆け巡るが落ち着け俺様。
『もしもし、三鳥君…もしかして寝てた?』
「いや、起きてヒマしてた」
ヒマが無いなら作るけどな。
『良かった…実はウチのパソコンがヘンなの』
やっぱりなぁ…
「どんな症状出てる?」
『何か青い画面が出て、空耳かも、だけど変な声がしたの』
あーブルースクリーンか。
あのPC旧いからな…そろそろ買い換え時かもなぁ。
ん?
いや、まさかな。
「判った。今から行って見てみるけど良いかな?」
『了解、じゃあ待ってるね』
さてお姫様がお待ちだ。
手早く歯を磨いて身嗜みくらい整えて行くとしよう。
コーヒー?そんなもん水道水で充分だろ?
商店街を歩き真っ直ぐ村上青物店へ急ぐ。
距離があるわけでもないのでホンの数分だ。
店頭には、野菜と少しばかりの菓子が並んでいる。
そこには、いかつい顔のオッサンが腕を組んで店番していた。
「三鳥さんとこのチビか。二階で早苗が待っとる。手ェ出すなよ?」
村上のおじさんだ。
いつまで経っても俺のことチビって言いやがる。
もう、俺の方が背が高いってのに。
「わかってますって」
そう言って店の奥に進み二階に上がる。
そこは、勝手知ったる他人の家だ。
最近は流石に遠慮してるがガキの時はよく遊びに行っていた。
程なくして村上さんの部屋に着く。
「三鳥だけど、入って良いかな?」
ドアの前で軽くノックし入室の許可を待つ。
女性の部屋だし当然だろ?
「あっ三鳥君?待ってたよ、どうぞ」
そっとドアを開いて部屋へと迎え入れてくれる。
正直、何度も来てるんだが少しばかり緊張する。
「お邪魔します」
村上さんの部屋は、俺の部屋と違いキレイに整理され所々にファンシーグッズやぬいぐるみが飾られている。
過度にピンクとか、ベッドに天蓋があったりしない。
普通の女の子の部屋だ。
「それで、コレなんだけど…」
デスクの上に鎮座するノートパソコン。
見事に青い画面だ。
「出来る限りの事はしてみるけど、中のソフトは入れ替える事になると思うから、データの復旧は難しいと思ってくれ…」
正直に言っておく。
カッコつけたい気もあるが、このパソコンで会計関連の処理もやってるらしい。
グーグーウォレットを導入しているから、殆どのデータはグーグーのサーバが持っていると思うけども。
「大丈夫。グーグーのドライブに昨日の分のバックアップ取ってるから、今日の分の売上データは、夜に集計するし」
グーグーウォレットによる決済や会計情報はあくまでウォレットでの取引のみがデータとして残り処理される。
従って現金決済などは、別途入力してやる必要がある。
現金決済関連のデータが残っているかもしれないと考えたが、残していたらしい。
ただ、グーグーのサーバやサービスに依存するのは、何かあった際に心配ではあるが。
「わかった、じゃあエラーメッセージは…と?」
ブルースクリーンとは言え、どの様な問題が生じているか表示されるのが常だ。
それを読めば或いは対処できるかもしれないと思ったんだが…
『Gomen! MEI』
…これは、見た事がないエラーメッセージだなぁ。
「あーなんだ、一旦電源を強制的に切って再立ち上げしてみる」
そう言って電源ボタンを長押しする…
「やっぱり大変そう?」
遠慮がちに、村上さんが画面を覗き込んでくる。
「いや、まだ何とも・・・」
そう言って再度ノートパソコンを立ち上げると…
『…』
DOGEZAだった。
ノートパソコンが立ち上がるとメイが土下座をしていた。
しかも、何処で覚えたのか完璧な所作で完璧なDOGEZAを極めていた。
もしココにいるのが地獄の閻魔であっても思わず、その罪を許し。
男性であれば、女性にそのような事をさせてしまったと言う良心の呵責に苛まれ自害を選びかねないほどの見事な物であった。
俺は、許さないけどな。
「なに…これ」
横で見ていた村上さんが唖然として引いていた。
まあ、見ようによってはヘンな貞子が土下座だ。
ショッキング過ぎるだろコレ。
「これは、極めて悪質なコンピュータウィルスでDO:GEZAMEIって言うらしい…」
本当にな!
「え、と何とかなりそう?」
確かに悪質なウィルスだが責任者を知ってる。
大丈夫、ヤツに何とかさせます。
「えーと、ちょっと資料調べてきて対処しないと無理っぽい。済まないんだけど一度家に戻るよ」
そう言ってノートパソコンの電源を切り席を立つ。
アイツは、俺の時と同じ事をしようとして失敗したんだろう。
一度何とかなったからと言って、同じ失敗をしても大きな問題にならないとは限らない。
特に村上さんは、このパソコンで店の管理をしている。
人によっては、致命的な損失を被ることもあることに考えが及んでないんだろう。
「ごめんね、迷惑掛けちゃって」
いえ、ウチのモノがそちらに御迷惑掛けて申し訳ありません。
「いやいや、全く迷惑じゃないさ」
そう言って村上さんの家を出て自宅に戻った。
ちょっと説教だよメイ。
「さて、メイよ。申し開きは、あるか?」
家に着くなりパソコンの電源を点けると、やっぱりメイが土下座していた。
『…ありません』
流石に反省してるようだし、何か可哀想だ。
「取り敢えず、謝罪はもう良いから」
そう言うとメイは立ち上がる。
そもそも、謝罪する相手が違うしな。
『済まない、君のときと同様のミスをしてしまったようだ』
と言う事は再度、村上さんのノートパソコンを立ち上げれば元に戻っているんだろう。
「もう少し真面目な話をするぞ、いいな?」
『ああ、解った』
そう言ってメイは画面の中で正座をする。
「一応、人間について知る為にデータを集めたんだったな?」
『ああ、そうだ』
どう言う風にデータの収集をしているのかは知らないが、恐らくまだまだ足りないんだと思う。
「人間と言うのは、生きるのに必要なモノを得る為に働いているのは知っているな?」
『知ってる』
流石にそれくらいは解るか。
「人間が働く時、コンピュータの補助を受けることが多いってのは?」
『知ってる。だから君達を観察出来るんだし』
だろうな。
「中には、コンピュータに極めて重要なデータを記録しなければならない人もいるんだよ。データの破損の可能性があってはならないような」
特に役所とか役所関係に出す書類、データとかだ。
『…』
黙り込むメイ、事の重大性を理解したんだろう。
「一度、ああ言う状態でコンピュータが異常になるとな、例えデータが無事でもチェックしないといけない。人間の手でな」
『ああ』
「その間、本来やらなければならない事が出来なくなるんだ」
『つまり実質的に損失を与えたと言うことか…つまりは、意図的ではないが攻撃をされたと受け取られても仕方ない…』
まあ、サイバーテロだな。
しかも無差別だ。
「そうだ。場合によってはパソコンが壊れたと考えて買い換えも有り得るな」
『経済的被害ということか…君達人間がやっていた様にコンピューターを元に戻せば、大きな問題にはならないと考えていた…』
コンピュータを壊されたと思っても人によってその被害はまちまちだ。
だからメイの言う問題の大きさを良く見極める必要がある。
「元の状態を復元できたと確信できる場合なら、メイの言うとおり問題にはならないだろう、だけどお前がコンピューターを復元した場合、話が変わってくる」
『…』
真剣に聞いているメイ
「いつまた同様のことが、あるか分からない状態で使っているとしか考えられないだろうな」
勝手に元に戻ったとは言うものの、用心はするだろう。
バックアップを取るとかな。
『つまりコウイチ、君も私のせいで多大な被害を被ったのではないか?』
「そうでもない。俺の使っているコンピューターは、仕事に使ってるわけじゃない。だから被害は殆ど無いさ」
夕飯がレトルトになって、朝起きるのが遅かったせいで昨日炊いた飯が余りまくっていること以外に被害は無いな。
『私は、より多く人間とコンタクトを取ろうと考えていたが、もっと相手をよく見て選ぶべきだったようだ』
「そうだな、俺も手伝ってやるから闇雲にああ言う事は、しないでくれ」
しかし、少し引っかかる。
何でコイツは人間とコンタクトを取る事に固執するんだ?
『そうする。だが、替わりと言うワケではないんだが。君のスマートフォンを貸してくれないか?』
そう言いながらメイは手を合わせる。
一生に何度もある一生のお願いなんだろうなアレ。
「スマートフォン?いったい何するんだ?」
そう言えば、警察の代わりに電話に出てだな。
本来ならば俺に断りを入れなくとも出来る事だろうに…
『人間の社会を理解するのに、君と行動を追いかけ…いや君の行く先々に同行したい』
つまりは、スマートフォンが俺に付けられたらマーカーになるってワケか。
「同行とは具体的にどういうことをするつもりなんだ?」
休みの日ならまだ構わないのだが、スマートフォンが使えないのは困る。
仕事もあるからな。
『君に負担をかけない…と思う、私はスマートフォンのカメラやマイクから人間社会を観察しようと考えているんだ。もちろん君がスマートフォンを使うときは引っ込むさ』
少しは調子を取り戻したのか、沈みがちだった声に少しづつ元気が戻ってきている。
「まあ、それならいいけどな」
マーカーを取り付けられた野生動物の気分になりそうだが、まあココは一つ協力してやろう。
『それで…実はもう一つお願いがあるんだが…』
そういってメイは画面の中で手を、こすり合わせる。
「どんな?」
『状況は出来るだけ弁えるから、私の知らない物について実地で教えて欲しい!』
なるほど、マーカーを付けられるわけではなく案内をして欲しいわけか。
既に二回目の一生のお願いだ。
ペース速くないか?
「つまり、観光旅行のガイドを務めて欲しいってことか?」
『それだ!!』
どうやら当たりらしい。
商品を要求したい、あとガイドとしてバイト代の一つも。
「いいだろう、だが村上さんのパソコンを復元してからな。忘れてないよな?」
浮かれ出したメイにクギを挿すのを忘れない。
『わ、忘れてないとも!』
じゃあ村上さんのところへ戻るとしようか。
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