第3話 異世界って割と至近にあるのかもね。
「それでメイさんとやら、お前さんがコンピューターネットワーク上にある異世界の知的生命体だとして、それを証明する手段は?」
目の前のパソコンの画面に話しかける。
パソコンや家電製品は、容易に元に戻せるというので戻してもらったがパソコンは、メイの姿が映ったままだ。
尚、御札は効き目がなかった。
『君がもう少し、ネットワーク技術に明るいなら私がどこからアクセスしてるか調べれば解って貰えそうなのだが・・・現状では無いなぁ』
そう言われても俺には出来ないな。
「俺には、暴走したAIにしか見えないんだがな?」
それが一番しっくりくる。
自分は人間だと主張する暴走したAIとは、まさにSFだな。
『失礼な!!君の所で使っていたAIとやらを調べたが、ありゃ学習と成長を仕掛けた単なるプログラムだろう?』
このメイ…が言うには自分は、コンピュータネットワーク上に存在する異世界に住んでいる知的生命体なのだそうだ。
「異世界って言うなら、そこの景色でも見せてみろよ。それなら納得できるかもしれない」
ドラゴンとかエルフとか魔法とかだ。
『私の視覚に相当する器官が捕らえたモノを見せるのか?構わないが…君達に理解できると思えないぞ?』
そういうと画面が切り替わる。
「え?なんだコレ…光る…樹?」
そこには、脈動するかのように明滅し光る線のようなモノが寄り集まり樹木のようになったモノが闇の中に浮かんでいた。
そいつは樹木といっても上下にあるモノが根なのか枝なのか判別ができない。
その樹は幾つか存在し、林のようなモノを作っていた。
しかも、よく見ると闇だと思っているモノも電子回路の信号のようなモノが幾つも薄暗く走り蠢いている。
なんだコレ?人によってはグロ画像にしか見えないぞ?
『一応、友人のケイの全裸無修正隠し撮り、リアルタイム映像サービスシーンと言う事になるんだが…面白くとも何ともなかろう?顔が青いぞ?』
目を押さえる、なんか色々な意味でヤバイモノを見てしまった気がする。
SAN値が下がったぞ確実に。
「…異世界なのかアレ?」
異世界と言われれば、そうかもしれないが意味が全く理解できないという意味でだ。
単に、アタマがアレな人の作った動画見せられただけだとしか思えないが。
『だから、言っただろう?恐らく理解できないと。アレを見て理解できるのは私と同じレベルの天才だけだ!』
ふんす、とメイは胸を張り自慢げに、こちらを見ている。
何かムカつく。
あ、結構デカいな眼福眼福…じゃない!
「じゃあ、お前は物の怪の類か悪質なコンピュータウィルスって事だな!」
なんか、腹立ってきたので暴走したAIをウィルスだと、なじってやった。
やったんだが…メイはきょとんとした顔をしていた。
『素晴らしい!!全く理解できないだろうと思っていたんだが、今の一瞬で其処まで理解したとは!流石は我々の上位世界の住人だ、私のことを狂人だと言っていた連中とはレベルが違う』
次の瞬間メイは喜こんで、はしゃぎだした。
「どういうことだ?」
やっぱり、お前は妖怪だったのかと。
『まあ、あくまでアネの受け売りなんだがね。どうも我々の原初の姿は君達の言うところのコンピューターウイルスだったらしい』
え、アネ?
姉がいるのかこいつ…まあ生物だと言うなら親や姉妹ぐらいいるんだろうが…
『この、コンピュータウィルスは自身の一部を別のコードと入れ替え、変異できたと考えられている』
なんだそりゃ?
ウイルス自身のコードを別のモノに書き換えたら、殆どの場合マトモに動かないぞ?
そりゃ何かの偶然で新機能を獲得するかも知れないが。
『何億、何百億と言う変異と淘汰の末に、お互いに通信し複数のウイルスが集まり一つの生命体の如く振る舞いだし…ええと、グーグー君!人間の頭脳の資料をくれ』
なんだそれは、ウイルスだったモノが何百億の試行の末に様々な機能を獲得…つまり変異して複数の群、この場合は多細胞生物のように振る舞い始めたって事か?
だとすると其れが行き着く先って…
『ニューロンネットワーク…か、まあ人の脳のような振る舞いを始め、遂に自我と知性を獲得したモノが我々MEIなのだそうだ』
コンピュータネットワーク上にある無数のコンピュータに潜んだウィルスがニューロン細胞のように振る舞い、ネットを信号伝達神経のように使って信号をやりとりする。
結果、それはインターネット上に頭脳と知性と人格を生み出した。
コレが、本当だというならばソレは、AIとは呼べない。
それは一体何なんだ?
『もっとも、それを君達人類に証明する手立ては今のところ無いんだがね』
やれやれと首を横に振る。
つまり、こいつがAIではないと言う証拠はないと。
「それで、何でまたウチに来たんだ?」
そんなご大層な知的生命体様がなんで単なる一般人に接触を試みたのかと。
普通に考えたらファーストコンタクトは、外務大臣とか総理大臣だろう?
『偶然というか、君と君の家が私から非常に観察しやすい場所にあり観察に必要な条件が揃っていたんだよ。感覚としてはまな板の鯉?かな?』
…観察対象かよ。
「つまり、以前から見張られていたのか?」
『その通り。もちろん、君だけではないがね。人類とコンタクトを取る前段階として可能な限り情報の収集と解析は行ったからな』
人類にはプライバシーという言葉があることを教えるべきだろうな、こいつには。
『ところで、食事をとる時間ではないかね?』
そう言えば腹が減っていた。
「AIスピーカーは元に戻っているんだよな?」
『ああ、問題ない。グーグー君の復元と改良は終わっている』
自信を持って答えるメイだが…大丈夫だよな?
台所に行き夕食の準備をする。
今日は、買い置きの冷食でいいやと冷蔵庫から冷凍ハンバーグを取り出す。
袋を開け、中身を電子レンジへ放り込む。
さっき買ってきたトマトを洗い、千切りのキャベツは、水にさらす。
「グーグー。ハンバーグを解凍してくれ」
流し台で作業をしながらAIに指示を出す。
『イレブンブランドの冷凍ハンバーグですね?』
AIが俺が購入した物品のリストから検索してきた商品名を確認する。
「そうだ」
『かしこまりました。標準より熱いめに解凍します』
AIの返事とともに電子レンジが動き始める。
昔は、一々商品に書かれている、解凍設定を読んでレンジのタイマーを設定していたそうだが、AIに言えば製品や好みに沿った解凍をしてくれる。
AIが解凍してくれている間に皿にサラダを盛りつける。
と、ここで炊飯器が冷たいことに気づいた…
「グーグーご飯炊いてくれたか?」
『いえ、炊飯設定がありませんでした。申し訳ありません』
…昨日の晩に仕掛けておいたんだが、何故だ?
「おいメイ」
犯人は一人しかいない。
『いや、アレだグーグー君の動きを解析する際に昨日の晩あたりの時間からデータをだな…』
本来はAIスピーカーからAIの音声がするはずだが、別の声がした。
何となく、奴が裏で観察しているんだろうなとは思っていたが…やっぱりか。
「じゃあメイ。飯を炊いてくれるか?スグに」
AIより高尚な知的生命体様ならきっとやってくれる。
『ふえ?待ってくれ…色々手一杯だったからデータがデータが足りないんだ…済まない』
え?
「つまり、出来ないわけか?」
『失敗を恐れないのであれば可能だと思う』
「AIに出来ることが出来ないんだな?」
『グーグー君、ご飯炊いてくれ!大急ぎで!』
『畏まりました』
メイの言葉に従い炊飯器が動き始める。
キタネェこいつ、仕事をAIにブン投げやがった!
色々、偉そうにしているが実はポンコツなんじゃないか?
「今から、飯炊いても40分以上かかるぞ?」
『そんなにか?何か時間の短縮方法はないのか』
そんなやりとりをしているウチに電子レンジが解凍終了を告げる。
『ハンバーグの解凍が終わりました』
うん、実にAIは有能だな。
飯も炊けない自称知的生命体と違ってな!!
「夕食が半分出来てしまったぞ、おいどうしてくれる?」
『ほうほう、このコマンドに信号を追加すれば動くわけかなるほどなるほど』
嫌みを言ってみたが、こいつ聞いてやがらねぇ
「おまえなぁ…」
そう言えば自分のことを天才だと言っていたな。
興味の有ることを前にすると他が見えなくなる性質か…本当に人間みたいだな。
『よし、データが揃ったぞ!!これで私も電子レンジとやらを使える!』
何だか、うれしそうな声を上げていたので何だか怒る気が失せた。
「仕方ない、レトルトの飯で済ますか…確か戸棚に買い置きが…」
俺もうっかり飯を炊き忘れることもあるから、非常用のレトルトは欠かせない。
電子レンジにから、冷凍ハンバーグを取り出し、変わりにレトルトのご飯を入れる。
「グーグーご飯を温めてくれ」
『畏まりました』
AIがレンジを操作し始める。
『ん?ソレはいったいなんだ?』
「ああ、レトルトの飯だよ。炊飯器で飯が炊けるまで待っていたら飢え死にしちまう」
今炊いている飯は朝に回そう。
『炊飯器とやらで炊いている物と同じ物だったのか?じゃあ、なんでソレにしないんだ?』
「炊いた方が旨いのと安いんだよ」
『品質がよく、コストが低いが時間がかるモノと品質、コストで劣るが時間が必要ないモノで使い分けているわけか』
今にもフムフムと感心してそうな声が聞こえてきそうだ。
・・・安いタブレットでも買ってきて、メイの姿が見えるように置いておこうかな?
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