第2話 異世界は画面の向こうにある
村上さんと別れ、自宅に帰ってきた。
さて、AIスピーカーに代表されるAIクライアント導入後、家電製品は各段に便利になった。
帰宅時間を予測し冷暖房を起動させ、帰ってきた頃には適温となるように調整を行う。
「ただいま」といえば挨拶を返し家の灯りを点灯し、気に入りそうなBGMを選曲し流す。
電子レンジや炊飯器などの機器も家庭毎の設定をAIは覚えており、一々設定をせずとも
商品名を言えば買い物の履歴から検索して製品の規格に沿った解凍をし、指定した時間に飯が炊きあがった。
更にいえば、同じ製品を解凍、加熱するにも家庭ごとの柔らかめがいいとか、過度に加熱しないようにするなどの、アレンジ設定についてもAIサーバが記憶している。
つまり、家電を買い換えてもコレまでと操作方法に変わりがなく、ストレスを感じることなく使えるということだ。
この為、超高性能、多機能で独自のAI搭載を謳った日本製の家電は、ほとんど市場から消えた。
ユーザーはAIに家電の統合管理を任せたいのであって、製品個々のAIに命令したいわけではないのだ。
AI搭載よりグーグー対応を急ぐべきだったんだろうな…
日本製品の凋落は置いとくとして、このグーグーAIスピーカーに問題がないわけじゃない。
冷蔵庫に入っているであろう食品で賞味期限切れがどーの、野菜が足りないから野菜ジュースを買うべきだの、近くの自動車販売店で試乗会を始めているだの、あからさまな大企業の製品を勧めてくる。
『ご興味がおありなら、資料を集めますが?』
『今夜の夕食は、○○などいかがでしょう?』
『イオデンでセール中です、買い物にいくなら覗いてみてはいかがでしょう?』
欲しくもない広告情報を何かあるごとに言うようになっている。
グーグーウォレットは、この為のデータ集めなんだろうな?と思う。
ユーザーにダイレクトで広告が出来るのなら喜んで宣伝費をグーグーに支払う企業は、幾らでもいるだろう。
鬱陶しい話だが。
玄関を開け家に入ると…寒い?
暖房が付いてないのか?
「ただいま」
そう告げる…スマートスピーカーが主人の発言をきっかけとして、照明を…点灯しない?
『おお!…あ、そうか。おかえりー!』
挨拶を返す、さて更新しただの量販店で売り出しだの言い始めるぞ。
…いや?何か妙だな。
「居間の電気を点けてくれ」
『今の電気?…ああ、こっちの照明装置の事か、コレをこうすれいいのか…どうだ?』
その声とともに居間の照明が点灯する。
「ん?ああ、点いたよ。ありがとう」
『なに、礼には及ばない。私の能力を以てすれば造作もないことだよ』
「…」
『…』
「…」
『君の携帯している装置が寄越してきたデータを普段の状態と比較した結果から言うのだが…興奮せずに落ち着いて話を聞いて欲しい』
携帯電話を取り出し迷うことなく警察へ通報することにした。
「警察ですか、ウチのAIがクラッキングされたみたいで!!」
『落ち着きたまえ、通報すべき案件ではないから!』
「なんで、お前が出てんだよ!」
110をコールしたにも関わらず知らない女の声が電話に出やがった。
ヤバい!想像を絶するスーパークラッカーだ。
『私はメイ。さっきから話を聞いて欲しいと言っている』
スマートフォンには白衣を着てメガネをした、青みを帯びた黒髪の女の子の3Dモデルが慌てふためいていた。
少し考え、クラッキングを受けた機器はAIスピーカーなどの無線LAN機器であると判断、対ウィルス防御機能がより高い有線LANのPCの電源を入れる。
もしかするとネットへの接続自体を封じられているかもしれないが…
『君に損益を与えるつもりはないんだ。話を聞いて欲しい。お願いだ』
ダメだった。
立ち上がったPCの画面には…
整った長い濡れ羽色の黒髪、鼻は低いが整った顔立ち、そして白衣とメガネをかけた女の子が映し出されていた。
やはりスマホより、こっちの方が高精細で美人だな…ってそう言う話じゃない。
OSすら完全に掌握されている。
と言うか、どうやって?
昨日の晩、電源を切るまで異常はなかったはずだ。
今朝、PCにブルースクリーンが出ていたがその時既に家電製品を含めて乗っ取られていた?
しかも、さっきまで正常稼働していた電話を含めてだ。
一体、どうやってこんな芸当をした?
『危害は加えない。と言うよりも私には危害を加える手段がない。君と話したいんだ』
「一体、どうやってウチのコンピュータに侵入したんだ?」
リアルタイムでこちらを監視しているようだ。
だが、目的がさっぱり解らない。
金が目的なら、わざわざ話し合いなんてしない。
こちらを脅かして遊んでやがるのか?
『侵入?そんな事はしていないよ』
どう言うことだ?
此処までくるとクラッキングを通り越してオカルトの領域だぞ?
『私は最初からここにいたし、今もここにいる』
「…」
そうか、この辺は安倍晴明の縁の土地だったんだっけ?
多分、清明神社の神主さんがドジって、なんかワルい物を解放したに違いない。
取り敢えず、そこらの紙に十字とか☆マークとか書いてモニターに張り付けてみる。
『一体なにをしてるんだい?』
これといって変化はないが、画面に張り付いた御札をみている。
「これはな、お前の様な妖怪に効果のある御札だ。コレで効果がないようなら初詣で買った清明神社のありがたい護符で退治する事になる」
そう、脅しをかけてみた。
『妖怪?妖怪ってなんだ?』
そうだな幽霊とか妖怪に自覚は無いワケか。
「オカルト話で出てくるヘンテコな化け物のことだよ。それぐらいwikiで調べろ」
幽霊にwikiも無いが、PCに憑くんならそれぐらいしろよ。
『フム、それも道理だな。wikiだな?グーグー君wikiで妖怪について調べてくれ』
「ちょっと待て!!、人の家のAI勝手に使うな!!」
普通は音声認証で登録者以外には使えないはずだ。
最近は、幽霊や妖怪もデジタル化が進んでるらしい。
技術革新ってコワイ。
『いや、別に君の物ではないだろう。それよりコレが調査結果だなフムフム』
画面の中の女の子は、調査結果なのか手に持ったプリントを読み始めた。
『なあ、私は君達の言うオカルトに出てくるような存在ではな…い?いやまて、もしかすると…その通りの存在なのか?』
画面の中の人は、最初否定していたが何かに気づいたらしく考え込み始めたので、御札を追加で張り付けてみた。
『鬱陶しいから御札を増やさないでくれないか?そもそも私は生きてるから効かない筈だ』
「筈だ?」
『多分…それより話を聞いて欲しい』
自身がないらしいので九字を切ってみる。
「話を聞いたら成仏するのか?」
この妙な奴が、そんなことでどうにかなると思えなくなってきたが…
『もう、それでいい…』
画面の女の子は天を仰ぎ見て向き直る。
『私はMEI、君達の見ている仮想世界(ネットワーク)の向こうにある異世界の知的生命体だ』
彼女は画面の向こう側からそう言った。
恐らくコレが人類最初の人類以外の知的生命体とのファーストコンタクトなんだろう。
だが、個人パソコンの画面越しと言うのはどうなんだ?
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