幕間
重苦し空気が部屋を漂う。
ここはエルマン地区のハリムと言う名の街にある、屯所だ。
今日この街では二つの問題が起こった。
一つは街の中央広場で魔法を発動すると言う狂者が起こした事件。
もう一つは、その狂者がここの牢屋を抜け出したのだ。
もう、すでに本所の方へ連絡をしてしまい、明日にはここへ着いてしまう。
もし着いた時に、犯人を逃がしたと知れたら………
ええい、ふざけるな!
部屋の主は床に置いてあるごみ箱を蹴り飛ばした。
早く、早く再逮捕の報告をよこせ。
部屋の主は落ち着きなく机を何度も殴りつけた。
すろと、ノックが聞こえた。
入れ、そう荒々しく呼んだ。
失礼します、そう言って現れたのはこの街で西門の警備を担当している兵士であった。
「何の用だ」
「はい、報告がありまして、ここへ参上しました」
その言葉に少しの期待を含めて、それはなんだと聞いた。
「実は数分前に西門で停めてある馬車が一斉に倒れるという事故がありましたので」
それを聞いた途端、部屋の主は机の書類を掴み、兵士へ投げつけた。
そして、そのまま怒号を放つ。
「そんなものはどうでもいい! 今は魔法を街中で使った狂者を探す方が重要だ! 一々、しょうもない報告をしに来るのではない!」
そう言い終えると再び机を力強く叩いた。
「いえ、それが……」
「なんだ! まだ、何かあるのか!」
一瞬、兵士は萎縮したがすぐに気を取り直し話を続けた。
「はい、それでその事故の原因なのですが……何者かが馬車の車輪を切断したことにより起こったものだと思われるのです」
それを聞き、今まで落ち着きがなかった部屋の主は動きを止め、兵士の方へ向き直った。
「それは、ホントか?」
「はい、現場では二つに別れた車輪が幾つか見つかりました。今日、屯所の前で起こった事故も同じ原因です。なのでこれは……」
「同一犯の仕業か」
兵士は静かに頷いた。
これは、もしや再び捕まえるチャンスではないのか。
こう、同じ事件が偶然二度あってたまるものか。
おそらく、今回の馬車荒らしは陽動か何かが目的だろう。
「君、あそこの門から続く道はどこへ通じてる?」
「はっ、隣街のアシスへと続いてます」
あぁ、そうだ。
「あの道に複雑な分かれ道はあったかね?」
「いえ、分かれ道は在るものの、そこの道を通っても森の奥へと進むのみなので木こりや冒険者以外はその道を使いません」
あぁ、そうだろう。
「最後の質問だ。今から馬で追い付けると思うか」
「はい、まだ可能かと」
あぁ、あぁ、そうさ!
「今すぐ兵を呼び戻せ! 今回は俺自ら行かせてもらう!」
分かりましたと言い、そのまま兵士は外へ出た。
フフフッ、ハハハハ!!
さあ、俺に恥をかかせたゴミが! 脱獄した事を後悔させてやる!
この、サーデス・カスト自らが貴様に最悪の結末を迎えさせてやろう!
サーデスという男は、そのまま部屋を出て武器庫へと向かった。
犯人を捕まえ、地獄を味あわせる準備をするために…………
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