第四話

 リゼは今ベッドの上に座っている。


 この部屋はリゼ一人が借ていたのだが、最初からベッドは二つあったらしい。


 二人部屋しか空いてなかったのか、それとも全ての部屋がこんなかんじなのかは分からない。


 まあ、そんなわけで俺はもう一つのベッドの上に座ってリゼの方を向いている。


「よし、じゃあ何個か質問するぞ」


 はいと快く返事をしたのを聞き、俺は質問をした。


 これは、リゼと会ってからすぐに気になったことだ。


「まず、一つ。なんで俺を脱獄させてくれた。あんたと俺はどこかで会ったわけでも無いのにどうしてだ」


 これが分からない。

 おかげで助かったのは事実だがやはりなぜかは聞いておきたった。


「あぁ、それはですね……」


 このあとの言葉は衝撃的であった。


「面白そうだったので、つい」


 ……………………ん?


「ですので、面白そうだったからですよ。あなたを助けるのがですよ」


 えっと、それは……


「マジで?」


「マジです」


「ガチで?」


「ガチです。広場で柳田さんが連れて行かれてるのを見てそう思いました」


 そんな、理由で俺を脱獄させてのかよ。


 脱獄の手助けがどれ程のものかは知らないが犯罪であることは間違いないだろう。


「俺が言うのもなんだが、そんな理由で罪を犯すなよ」


「あぁ、別に心配しなくても良いですわよ。だってもうこの件の前から犯罪者ですので」


「なんだそうだったのか。なら、安心……できないよな、それは」


 今、うっかり流してしまう所だったがとんでもないこと言ったよこの人。


「あら?なにか問題でもありましたか?」


 いや、そんな可愛らしく首を傾げられても。


 マジでなんとも思ってないのかよ。


「ちなみにだが、一体何をしたんだよ」


「大丈夫ですよ。私がやったのは、殺人、窃盗、不法侵入位ですから」


 とんでもないワードが飛び出しました。

 しかも、それをそんな位と。


 なかなかぶっ飛んだ御方なこと。


「巷では、私。残虐姫なんて呼ばれてるのですよ。凄くないですか」


 うん、凄い。凄いよ。


 ただそれは目をキラキラさせて、満面の笑みを浮かべながら自慢することでは無いと思うよ。


 残虐姫。凄い、二つ名だな。


 あれっ、姫? とことはまさか……


「なぁ、リゼ。あんた顔バレてるよな」


「いえ? バレてませんよ」


 イヤイヤ。


「思い切り、姫って呼ばれてるじゃんか。何人殺したかは知らないが普通、こんな殺人なんかは男がやったと思うはずなんだよ」


 ならば、呼ばれるとしたら姫ではなく王になってるはずだ。もしくは、なんとか男的な名前が。


 だが、姫と呼ばれてるということ。それはつまりバレてると思うのだが。


「あぁ、そうことでしたか。安心してください、顔は本当にバレてませんから」


「なら、どうして姫なんかと言われてるのだよ」


「それは一度だけ後ろ姿を見られたのですよ。ちょっとした用件で家に押し入ったら思いの外警備が厳重でしてね。それでヤってる最中にフードが取れてしまって。すぐ顔を隠したので見た目とかはバレませんでしたが、性別はバレてしまったのです」


 ふーん、そう言う理由なんだ。


 ここは一旦、押し入ったとかヤってるとかの部分は無視しておこう。


「まあ、助けてくれた理由は分かった。なら、次の質問いいか?」


「えぇ、もちろん。でもちゃんと私にも柳田さんに質問させてもらいますからね」


 なんかこっちも聞かれるのか。まあ、当然だな。

 別に答えづらいこともないし良いか。


「分かった。じゃあ、次の質問に行くぞ。魔法のルールについて教えてくれ」


「それは先程も言っていたことですよね」

「あぁ」


「しかしルールを教えてくれと言われましても、どこからどこまで説明すればいいのか……」


 ふむ、どうやら魔法に関する事は色々あるみたいだな。


「なら、魔法に関する最低限の常識を教えてくれ」


「魔法の常識ですか……。分かりました、少々ややこしいので気になった部分があれば止めてくださって結構ですので」


「分かった」


「はい。では、魔法がどうやって発動されるのかは知ってますか?」


 「魔法の発動。そりゃ魔力なんじゃないのか」


「そうです。魔力を使って行います。では、その魔力がどこにあるのかは知ってますか?」


 魔力のありか、それはちょっと分からんな。


 「なんか、あれだ。生き物の体内で生産されているのじゃないか」


「まあ、体内にもありますがそれではありません。魔法を発動するのに使う魔力は大気から得てますわ」


 ほう、そういう感じなのか。


「なら大気中に魔力が存在していたら何発でも魔法が使えるのか?」


「いえ、それは無理ですわ」


 ん? なんでだ。魔力を消費して魔法を使うのだろ。


 なら、無尽蔵に魔力がその場所にあったらいくらでも使えると思うのだが。


「魔法を使うということは、魔力を体内で違う形にしてから放出する行為です。なので、それなりに体力が必ずいりますわ。例え魔力が無限にあっても体力が無くなれば魔法は使えません」


 そっか、そういうものなのか。そこら辺はシビアなのか。


「なら、体力さえあれば誰でも強力な魔法を好きなだけ使えるのか?」


「それも無理です。一度に魔力を体内に取り込める量も個人差があります。それにどれだけ取り込めてもセンスがなければ魔法は使えませんので」


 センス、センスか……


「なら俺には魔法のセンスが有ったということだな」


 そんなことをポツリと呟くとリゼは何を言ってるのか分からないとでも言うような目をしている。


 あぁ、そうかまだこっちに来た方法教えてなかったか。


「いやさ俺、異世界から来たんだよ。んで、どうやって来たかと言うと魔導書に書いてあったのをやったらこれたんだ。時空を越える魔法を使えたから相当センスがあったってことだろ」


 いや凄いね、俺。本当凄い。


 だからさ、その頭大丈夫……じゃ無いな、って感じの死んだ目でこっちを見るの止めてくれませんか。


「柳田さん、あなた何を言ってるのですか?」


「いや、これは本当なんだって」


 そう返すと、呆れた顔でこう話した。


「あのですね。まだ魔法での瞬間移動の技術は完璧と言えるものではありません。それなのに時空を越える魔法なんてあるわけないのですよ」


 えっ、そうなの?


 てっきり魔法がある世界ならテレポートはあって然るべきと思っていたのだが。


 えー、無いんだ。結構ショック。


「まあ、魔導具を使えば可能は可能なのですが……」


「ん? 魔導具なんてものもあるのか?」


「えぇ、もちろんありますよ。むしろそちらの方が人間媒体で行う魔法より普及してますわ」


 魔導具か。なる程、魔法を使うにはセンスが必要だが魔導具なら誰でも簡単に扱えるわけか。


 わざわざ技術が必要な方よりも簡単な方があるならそっちを選ぶな。


「まあ、強力な魔法を魔導具にしようと思えばサイズもやはり大きくしなければならないのです。なのでテレポートの魔導具もあるにはあるですが家よりも大きなサイズですので実用化はされておらず国家直属の研究室においてあるだけですわ」


 なんだ、あるのはあるのだな。でも、そんな扱いなのは残念。


 一回体験してみたかったのだがな、テレポート酔い。


 酔えるのかどうから分からないのだか。


「だから、柳田さんの言ったように時空を越えることはできません」


「いやいや、それは本当なんだって。ちょっと待っとけ。これを見たら分かるはずだから」


 俺はカバンの中に入れてある魔導書を取り出しリゼに渡した。


「ほら、読んでみろ。これで俺の言ってる事が本当だと分かるから」


「…………読めないのですが」


 はっ? ってそうか、あれ全部日本語だったな。


 てっきり言葉が通じてるからそのまま字も読めると思っていたがさすがに無理があったか。


 あれ、それよりなんで言葉が通じてるの?

 今さらだけどおかしくないか?


 時空転移の説明には言語に関することは何も載ってなかったから何も起こってないはずだ。


 えっ、なんで意志疎通出来てんの?


 俺がとても重要な案件に頭を抱えているところにリゼが本を読みながら話しかけてきた。


「なんて書いてあるか分かりませんが、これは相当なものですね」


「なんでんなこと言えるんだよ」


「これに描かれている魔方陣。ここから魔法が発動されるのですよね」


 まあ、おそらく。


「この方法、かなり前ですが戦争でもよく使われてたものと同じですわ。あらかじめ魔法の術式が組み込まれているので体内で緻密な調整を行わなくていいのです。まだ、魔道具の生産が上手くいかなった時代では、かなり活躍したらしいです」


「つまり、魔道具には劣る部分が魔方陣にはあるってことだよな」


「えぇ。魔方陣は強力なものほど複雑になり、描ける人がいないのです。ですので、簡単な魔法しかこの方法は使えません。今は魔導具の技術が発達し、強力なものを扱うことができるようになってきたのでこの方法での魔法は使わないですね」


 そこで、一旦間を置き。ですがと、最初に付けて話だした。


「ここに描かれている魔方陣はあまりにも複雑です。一つの魔方陣を描こうと思えば半年は必ずやかかります。そんなものがこんなにたくさん、普通に考えてあり得ません。つまり……」


「つまり?」


そう聞くと楽しそうに笑いながらこう答えた。


「神器、またはそれに等しいものだと思いますわ」


 ほう、神器。またファンタジー要素なある言葉が出てきたな。


「そんな、凄いものなんだな」


「凄いなんてものではありませんよ! もしかしてこの本の価値を分かっておっしゃらないのですか!」


 おお、なんだ。急にテンションおかしくなってないか?


 さっきまでの落ち着いた雰囲気はどうした。


「あぁ、まさかこんな所でお会いできるとは思いませんでしたわ。これが、神器。あぁ、これが神器……」


 おい大丈夫か。情緒不安定にもほどがあるだろ。


 なんか目がヤバイのだが。顔もなんか緩んでいるぞ。


「っておい、よだれ。本に付きそうだから一旦返せ」


「イヤですわ」


「いや、返せ」


 なんだよこいつ、急におかしくなったと思えば返却拒否とか大丈夫なの本当。


 とにかく返してはもらうからな。


 そう思い、本に手を……


「あー、リゼよ。何をやってんの?」


「柳田さんこそ何をやってるのですか?」


「普通に返してもらおうとしてるだけだ。んで、リゼはなんで本を腹に隠して丸くなってんの?」


「これは私のものです。奪いはさせませんわよ」


 ハハハ、なんだそういうことなんだー。


 お互い顔を合わせ穏やかな微笑ほほえみを浮かべていると、外で鳥が鳴く声が聞こえた。


 そして、俺はリゼに飛びかかった。


「返せコラ! 何をやってんだ、さっきまでの雰囲気はどうした! 今のお前は完全に子どものアレだからな!」


「ダメですわ! これは私が探しているものなのですわ! せっかく見つけたのに渡して堪るもんですか! 絶対に離しませんわよ!」


「探してるって、これの存在知らなかっただろ」


「確かにこれは知りませんでしたわ。神器に関しての情報はそれなりに学んできましたがこれは知りませんでした。つまりこれはそれだけ希少性があるものなのです! 絶対渡すものですな!」


「返せ!」

「返しません!」


 この押し問答はしばらく続いた。


 正確な時間は分からないが、少し傾きかけてた太陽が若干赤くなる位の時間は続いた。


 その頃になると俺もリゼも両方息を切らしていた。


 ちなみにだが無事、魔導書は取り戻せた。


「ハアハア……一体どれだけ強情なんですか。ここまでやったのですから私のもので良いじゃありませんか……」


「ハアハア……ふざけるな。ってか、なんでこんなことやってんだ俺らは。まだ、俺が聞きたいこと最後まで聞けてないのだが……」


 そうだよ。一番重要ことが聞けてないのだよ。なんで俺が捕まったのか、これを第一に聞きたかったのに、どうしてこうなった。


 ってか、どこからここまで脱線したんだ、もう覚えてねーよ。


「なんで捕まったのですかって。そんなの免許も持たずに使えば当然じゃないですか。しかも、街中で使うには教会から許可が必要ですからね」


「なんだそれ。魔法使うのに免許いるの。なんか中途半端に現実的だな。」


「それはそうでしょう。魔法なんて危険なものが誰でも使えてはいけないじゃないですか。まあ、特例で冒険者の方々は試験を受けなくても使えるようですが」


 おっと、冒険者。


 さっきは現実的な言葉が出てきたが、今度はファンタジーの常套句が出てきた。


 それより、本当に冒険者が存在してあるんだ。


 今から冒険者になることって出来るのかな。


 考えておこう。


「フゥ、久しぶりにこんなおしゃべりと大きな声を出しましたわ」


「奇遇だな。俺も久しぶりにこんな感情をおもてにだしたよ」


 リゼはベッドから立ち上がるとコートを手に取った。


「そろそろお腹が減ってきたので大通りで食べ物を買ってきますわ」 


「そうか、なら俺も行……」


「柳田さんはここに残っていてください。そろそろ脱獄したのに気づいて兵士がウロウロしているかもしれませんので」


 あぁ、そうだった。俺、脱獄犯だったわ。

 なら、ここで大人しくしておこう。


「オーケー。じゃあ、なんか適当に食べれるものをよろしく」


「はい。では行ってきますわ」


 そう言って、軽い足取りでリゼは外に出ていった。


 しかし、なんであんなにもこの魔導書を欲しがったんだ?


 神器に凄い執着心を持っていたが……アレは何なのかな。


 なんかまた盗まれそうだから良い魔法載っていればいいのだが。


 俺はベッドに体を預けそんな魔法を探した。


 おっと、これなんか良いじゃんか。


 拠点ポータルと離脱。


 えっと、まず拠点で移動されるものと移動する場所を決める。


 そのあと、離脱を唱えれば拠点で定めた地点へ移動する。


 これ魔導書にかけとけば盗まれても手元にすぐ取り返せるな。


 よし、これは覚えておこう。


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