異国人と残虐姫
第三話
「ほら、さっさと入れ!」
俺は鎧のおっさんに無理矢理牢屋の中に入れられた。
この牢屋があるここは簡単に言ったら交番のようなもの。
ただ違うのはここにいるやつらは鎧を来ており、腰に刀を差していた。
この牢屋自体は簡素な石畳で、壁は古いレンガ。そして、俺の身長では届かない所に鉄格子を嵌めてある窓があった。
俺をここまで連れて来たおっさんもどこかに行ったようだ。
フフっ、ハハハ…………
乾いた笑いが口からこぼれた。
どうなってんだよ。
異世界来て早々に牢屋って何それ。
まず、俺は何もやっていません。なのに、この扱いとは。
荷物も全部取られたし。残ってると言ったら、このネックレスだけだよ。
しかもこれ、さっきまで緑色だったのに、今じゃ濁った白色になってるし。
どういう原理なのこれは。
これのおかげでこっちに来れたのは分かるよ。
だがね、だとしてもだね、この仕打ちはないと思うのは俺だけだろうか。
ひどい、ひど過ぎる。
しかし、このあと一体どうなるのだろう。
簡単な説教されたあとに釈放とかではないだろうな。
俺を連行する時に見た兵士の顔はそんな小さな罪をしたものに向けるものではなかった。
必死の形相で俺を睨みつけていたからな、全員が。
なら、もっと厳重な牢獄に移されたりするのかもな。
せめて俺が何の罪で連行されたのかは教えてくれよ。
意味も分からないままこんな場所に入れられてもどうしようもないじゃんかよ。
アー、終わった。俺の第二の人生さっそく終わった。
もういいや、どうにでもなれ。俺はふてくされて横になった。
もちろん床はただの石。
そんな場所で眠れる訳でもなく、ただ意味もなく横になっていた。
ーーーーーーーーーーーーー
どれくらい経ったのだろうか。
突然外で大きな音と悲鳴が聞こえた。
まるで、何か大量の荷物が崩れ落ちるように様々な音が断続的に続いた。
うるさいな。こっちはただでさえ床が固くて眠れないのに音をたてるな音を。
意味がないと分かっていながらも俺は悪態つかずにはいられなかった。
すると、足音が聞こえてきた。
それもどんどん大きくなり、こちらに近づいているのがわかった。
そして、音はやんだ。
たぶん、俺が入ってる牢屋の真ん前に誰かが立っている。
たぶんと言うのはもちろん、そっちを向いておらず、反対側を向いて寝そべり目を閉じているからだ。
「ちょっとそこの人。こっちを向いてくれませんくて」
声と喋り方でわかる、女だ。
俺はゆっくりと立ち上がりそちらの方を向いた。
「あらあら、なんだ起きてたのですね。初めまして、私の名前は『リーゼル・ゼスタニア』気軽にリゼと呼んで下さい」
リゼと名乗った女はとてもキレイだった。
年齢は俺と同じぐらいだろうか。
黒の髪を肩まで伸ばしており。それを下の方で束ねている。
そして、目だ。左の方は髪で少ししか見えていないが、赤い瞳をしている。
コンタクトなではなく純粋に、生まれつきこの色だったのだろうというのがすぐにわかった。
服装はフードの付いた黒のロングコートを羽織り、中はブラウスと長いスカート。
どちらも、黒でアクセントとしてか赤いラインが所々にはいっている。
まあ、ようするに。この人はキレイ、そして明らかにこの場には相応しくなかった。
何より見ず知らずの俺に、牢屋に入ってる見ず知らずの男に話かけている時点で普通の人ではないのも明らかだった。
「リゼさん、あんたはここの人間なのか?」
「いいえ、違いますわよ。それとわざわざさんなんて付けなくてもいいですよ」
「ならリゼ、あんたは何者なんだ。そして、俺に何の用だ」
そう聞くとリゼは微笑を湛えながら答えた。
「それはもちろん。あなたをここから出すためですわ」
…………はっ?
「何を言ってるんだ。第一、お前と俺には何の関係もない。さらに言えば……」
「それは、外に出てからお話します。それと、早くしないと看守の人が来てしまうかも知れませんよ。今は表で馬車の事故を起こさせたのでそちらに気が向いていますが、いつ来るかなんて分かりませんわよ」
いや、急にここから出してやるなんて言われてもだな。
こういうのって、後で面倒事を押し付けやれるやつだろ。
それは勘弁したい。なら、さっきに何をするかを聞いた方がいいな。
「見返りは?」
そう聞くと、リゼはため息を吐いきながら、呆れた顔でこっちを見てきた。
やめろそのリアクション。イラッてくるから。
ってか、前にもこんなこと言ったよ。
「あなた状況を分かってるのですか? このままだと死ぬのですよ」
そんなことを相変わらずの呆れ顔で言って……
「今なんて?」
「だから死ぬのですよと。あなた本当にこの状況を分かってないのですか?」
いや、そんな驚いた顔されても。ってか、まじかよ。
「いや俺、何もしていないのだけど」
「何もしていないってあなた。あんな広場の真ん中で巨大な魔方陣を展開させておいて何を言ってるのですか。しかも、無許可で」
何それ。もしや俺がここ来るために使った魔法がもしかしてその魔方陣を展開させたのか?
いや、そもそも魔法を使うのに許可? なんか俺の異世界イメージでは街中で魔法でのバトル的なものがあると思っていたのだが。
「なあ、魔法についてのルールを俺に教えてくれよ」
「別に教えてもいいですが。それよりもここから出るのですか、出ないのですか、早く決めてください。もう、本当に来てしまいますよ」
あぁ、そうだな。よくは分からんがこのままだと死ぬらしいしな。
なら、これは出してもらった方がいいな。
俺は少々格好つけながら、
「なら、俺をここから出してくれないか?」
「元からそのつもりでしたわよ」
そう、軽く息を吐きながら微笑み、鍵穴を弄り始めた。
そして、静かなカチャリという音を聞くと、ゆっくりと扉を開けた。
「さあ、早く行きますよ。あっ、それとあなたの荷物はそこにあるので自分で持ってくださいまし」
部屋の影を指してそう言ったのでそこを見たると、確かに俺の荷物が置いてあった。
こういうのって盗みだすのは相当難しいものではないのか?
そんな机の上にポンっと置いてるようなものでもないし。
まあ、後でそれも聞くか。
「何をしているので。早く行きますよ」
おっと、そうだな。早いとこ出て色々聞かないとな。
俺はカバンを開いて中身が全部あることを確認し、すぐに背負ってリゼの後を追った。
リゼはここに来る時に使ったという裏口に行き、平然とした態度でその扉を使い抜け出した。
その後俺はリゼの後を追い、今泊まっているという宿へと向かい、無事再び捕まることはなくたどり着き、部屋に入ることができた。
のだが……
「どうしてあんな道を通る必要があったのだよ……」
俺は息を切らしながらリゼに向かい文句を言った。
「どうしてってあなた、脱獄したのですよ? あの広場の一件では野次馬もたくさんいましたしね。誰があなたの顔を見てるかは分かりませんわよ」
確かにそうだ。そうなんだけどなぜにあんな道を選んだのかが分からない。
あんな道というのは、とてつもなく狭い道のことだ。
しかも、そこは道というよりか路地裏と言った方が良い位だ。
そんな、道が相当長いこと続いた。
途中で何度もカバンが引っ掛かり足止めをくらってしまった。
その度にリゼが俺に対して小言を投げてきやがった。
まだ会ったばかりだというのに遠慮なしに言ってくるとは本当になんなんだよ。
「さて、ある程度休憩できたでしょう。質問を開始してもいいでしょうか?」
あぁ、そうだな。
「なら、まずこっちから質問いいか?」
「えぇ。あっと、その前にあなたの名前を教えてもらえませんか? まだ聞いていないのを忘れてましたわ」
名前を聞くのって忘れることなのか。
それよか確かにまだこっちは名前すら言ってないの忘れてたからな。どっちもどっちか。
「俺の名前は柳田國広。姓が柳田で、名が國広だ。よろしくな」
「はい、それではよろしくお願いいたしますね。柳田さん」
そう言って手を差し出してきたので、俺はその手をとり、しっかりとした握手を交わした。
「では、質問を始めましょうか」
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