第二話

 俺は家に帰るとすぐに部屋へ向かった。


 そして、俺は持っていたカバンを適当に放り投げ、ベッドで横になった。


 しばらく横になってから、俺は先程投げたカバンを近くまで手繰たぐせて中にある本を取り出し、あらためてそれをまじまじと観察した。


 その本の外装はおそらく何かの革で作られたような感じの見た目だ。何の革かはわからんがきっとそうだろ。


 俺は表紙を捲ろうとして、一旦やめた。


 俺の知ってる魔導書って基本、読んだら発狂したり呪われたりするものしかないからな……。

 大丈夫だよね……うん、大丈夫なはず。


 よし、開けよう。


 じゃあ、開くぞ……せーので、南無三!


 そう、心の中で強く叫んで勢いよくページを捲った。


 そしてその中身を見た瞬間、そこには想像していないものが書かれていた。


「…………日本語じゃんかこれ」


 そう、そこに書かれていた文字がおもいっきり日本語であったのだ。


 こんな洋風で古びた本が日本語ってなんだよ。


 第一、これを渡したあいつだって完璧海外の人だったじゃねーか。


 いや、まあ、日本語じゃなければ読めないのだけどもね。


 英語ならまだしも他の言葉で書かれていたら即効で読むの諦めるから……


 うん? じゃあ、別に日本語で問題なくない。


 ただ、雰囲気が台無しだってこと以外は問題ないか。


 うん、そうだ。なら、セーフだ。


 とりあえずそう結論付け、そこに書いてある内容を読み始めた。


『この世界の始まりは四柱の神がきっかけであった。神は空間を創った。この神の名はダオロス。神は時間を創った。この神の名はヨルソトス。神は生命を創った。この神の名はウボルサ。そして神は混沌を創った。その神の名は……』


 うん、長い。長いうえに内容がよく分からん。プラス、文体がややこし過ぎる。


 これがずっと続くのかよ。


 もう、すでに知らない単語が三つも出てきたと言うのに。


 しかも、なんだよこれ。


 どっかの神話かなんかなのか。


 ってか、これ何ページ続くのだよ、ちょっと見て見よう……


 そうして、文字がびっしり書かれているページをパラパラと捲っていき長い説明であろうものが終わったところで捲るのを止めた。


 だいたい六割ほどがこの上から下まで横文字でビッシリと書かれた説明だった。


 800ページはありそうなこの本の六割がこの説明って……


 ないわー、圧倒的にないわー。

 この本書いたやつ絶対、読ます気ないだろ。


 これ別に読み飛ばしてもいいのか?


 はっきり言ってこの神だなんだのやつは読みたくないのだが。


 こんなもんまで読んでたら肝心の魔法だなんだについてが分からなくなる、本当に。


 そんなわけで、盛大にこのページを読み飛ばして俺は魔法の使い方が書いてある場所を読み始めた。


 魔法は大体一ページ、丸々使って一つずつ紹介していた。


 ページの半分から上は魔法の名前と魔方陣みたいなものが書いており、その下半分にはその魔法の効果や使い方などが書かれていた。


 なんかこれ魔導書というよりか大分手の込んだゲームの説明書みたいだな。


 確か昔にカセットと一緒にこんな感じの本がついたゲームがあったよな。

 なにげにあれは楽しかったのだが最後の敵が強すぎてやるのやめたんだっけ。


 書いてある魔法の名前からなんとなく想像がつくものもあれば、全くそうでないものと色々と載っている。


火炎弾ファイアショット』、『氷結盾アイスシールド』、『爆裂魔法エクスプロージョン』、字面からして常識外れの魔法であろうものがずらりと並んでいやがる。


 これ全部、俺が使えるんだよな。

 それならちょっとなんか唱えて見ようか。

 俺は丁度良い魔法はないか探した。


電衝撃ショックボルト』、『加速』、『硬化』、『体力増強』、なんか自分を強化する魔法も多いな。


 『砂錬成クリエイトアース』、『水錬成クリエイトウォーター』、これってどれ位の量を創り出すのか分からないな。


 あれっ、なんか気軽に使えそうなやつなくないか。


 目に見えてわかるようなやつが良いんだが、これ外でやんないと試すこともできないのばっかりじゃん。


 ってか、よくよく考えたら俺が持っていても意味なくないか。


 いや、これに関しちゃ考える以前のはなしだ。


 そもそも誰か守ろうにも、守る相手なんかいないし、悪事を働くにも度胸がない。


 それに、関しちゃもうあの男の話を聞いてる時点で分かっていたことじゃんかよ。


 なんだよ、魔法が実在していたから興奮してたのに。


 必要ないじゃんか、この世界に魔法って。


 いや、必要な人はいると思う。


 だが、俺には完璧に必要がないものでしかない。


 なんだろ、急に眠たくなってきた。


 冷静になって、考えたらさっきまでの自分が恥ずかしくなってきた。


 もう、いい。全部忘れるために寝よう。

 ったく、使えそうで使えないとか一番ウザッたいやつだよ。


 その使えそうで使えない魔導書を寝転がりながら横目で見てみた。


 すると、あること気がついた。

 重なりあってるページに黒い線が引いてあった。


 なんだ、この線は……


 俺は上半身だけを起こし、本の黒い線に爪を入れて開いた。


 開いてわかった。そこのページだけ真っ黒だった。


 他のページは白で、黒い文字の説明と魔方陣だったのだか。

 このページは黒く、白い文字で説明と魔方陣が書かれていた。


 そして、この魔法の名前はこうだった。



 時空転移……。ん? そういえばあの男、確かこう言ってたよな。


「一、『この魔導書を使い良いことをする』二、『この魔導書を使い悪いことをする』三、『このまま魔導書を置いていく、もしくはどこかに捨てる』そして、四『使』」


 別世界、別世界?


 つまりは、異世界ってことじゃないのか。


 だとしたら、そこって剣と魔法が織り成すファンタジーな世界ってことなのか?


 なら、そこでなら、魔法が使えるよな。

 ってか、これに載ってる魔法はほとんど全部チート級だから相当活躍できるんじゃないのか。


 だとしたら……これが一番良いんじゃないのか、俺の選択としたら。


 今の世界に情もなければ期待もない。


 友達いなけりゃ、知り合いもない。


 家族と顔会わすことはほとんどない。


 同じ家に住んでるはずなのだが本当会わないのだよね、これが。


 だとしたら、別に俺がどっか行っても心配するやつはいなくないか?


 だとしたら、これが最高の選択なのではないのか? 


 なら、行こうかな? 異世界。


 だとしたら、もう今すぐ行っちゃう? 異世界に。


 よし、行こう。


 俺は即決した。


 これって向こうにこっちのものを持っていけるのか。効果範囲がどこまでとか書いてないのか。


 魔法の効果説明を読んでみたがそのようなことが書いてある部分はなかった。


 さすがに何でもかんでも持っていける訳ではないのか。


 でも自分が身に付けてるものとかなら持っていけるんじゃないのか。


 例えば、カバンに必要なものを入れて、それを持っていればそのまま行けそうな気もするんだが。


 確証はないが試す価値はあるだろ。


 ってか、あっち行ったら戻ることもないだろうし持って行けるんならラッキーだろ。


 よし、じゃあこれ使う時に試してみるか。


 さてと、あっとはどこで使うかだな。


 うん、もうこれ今すぐやってしまおうか。

 今の時間は十六時か。


 どうしようか、これは部屋の中で使ってもいいなかな。


 うん、どうせここにはもう用がないからどうなってもいいかな。


 ならさっさと荷物を用意するか。


 俺は横になっていた体を起こし、グッと背中を伸ばした。


 カバンは大きいほうがいいはずだ。


 なら、合宿とかに使ったでっかいリュックがいいな。


 どこにあったっけ、引き出しに入っていたよな。


 とりあえリビングに行って引き出しをひっくり返してみた。


 そしたら、あっさりと見つかった。


 特に壊れてる部分とかはなさそうだな。


 ほつれてたり、虫に食われてる所もなさそうだ。これなら十分使えるな。


 さてと、次は何を持っていくかだが、よくよく考えたらそんなに持っていくものないな。


 非常食は持っていくよな。転移でどこに飛ばされるか分からないし、必ず街の近くに行けるわけじゃないし。


 それに異世界転生の物語は大抵お金に困っている。


 異世界行ったはいいが餓死したでは意味がないからさ。


 まあ、冒険者ギルド的な場所があれば活躍できるだろ、これがあればいけるだろ。


 じゃあ、非常食として缶詰とペットボトルの水何本かと……


 カップラーメン。カップラーメンはいけるのか?


 お湯は向こうにもあるだろうが、それでもこれは悩むな。


 これを向こうのやつに食わせたら神と勘違いされるのではないか。


 それほどこれはスゴいものだ。ほんと、日清さんマジ神。


 しかし、今のこの気分の高揚はなんだろうか。


 今の今まで特に興味が湧くものも、面白いと感じるものが無かった、それよりか諦めていたのに。


 今は未知の世界へ行くかもしれないと言うのになんだ、これほど俺の感情を昂らせているものは。


 さっきまで魔法否定派だったのに、今では異世界へ行く準備を喜々としてやっている。


 さすが俺、見事な掌返しだ。


 さて、やっぱりカップラーメンは諦めよう。


 残念だがこれは苦肉の策だ。


 それじゃあ、必要な荷物はあとなんだ。

 非常食にペンとノート、それとカッター。


 もちろん、細いやつではなく太くて切れ味抜群のを。


 そして、最後に魔導書。これで、全部か。


 ほんと、荷物少なかったな。


 まあ、向こうで手に入れたものを入れるのにも使えるしこのカバンで行った方がいいだろ。


 よし、これで準備は全てできたかな。


 さて、この魔法を使うにはどうすればいいのかな。


 俺は説明欄をしっかりと読み始めた。


 発動方法は至って簡単だった。


 発動する魔法のページを開き、そのページの魔法を唱える。


 それで魔法は唱えた者の魔力を消費しながら発動する。


 こういうものだった。


 しかし、この魔力というのはどういう基準で行われるのかがわからない。


 まず、俺にどれ程の魔力を有してるのかがわからない。


 その上、この魔法がどれ程の魔力を必要としてるのかもわからない。


 んー、とりあえずやってみるか。


 駄目で元々。第一この世界とおさらば出来る可能性があるのだからどんな方法でも試さなければならない。


 カバンを担ぎ、魔導書を取り出した。


 俺はそれを天井に掲げ、高らかに唱えた!


「時空転移!」


 しかし、何も起こらなかった。


 まじかよ……


 まじかよ…………………


 えっ、まじかよ。


 何も起こらないのかよ。

 何かやり方でも間違えたのか、それとも俺の魔力が足りなかったのか。


 なんか大分格好つけて唱えたのに、何も起こらないって。


 ヤバい恥ずかしい。


 俺は手にもっている魔導書をバサリと落とし、床に蹲った。


 くぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! なんなんだよ。


 何もないって、なんだよ。俺はもう行くき満々だったよ。なのに、なのに。


 俺は恥ずかしさのあまり床を何回も転がった。


 その時、ズボンのポケットに何か入ってるのに気づいた。


 なんだよ、転がる度に食い込んで来て痛いのだけど。


 俺はポケットをまさぐりそれを取り出した。


 んだよこれ。ネックレス?


 あぁ、そいえばこんなのも貰ってたな。

 なんか色々と役に立つとかなんとか言っていたかな。


 すると突然、ネックレスに付いていた石が目映まばゆい光を放ち出した。


 それと、同時にこの部屋の空気が突如変わり始めた。


 この感覚には覚えがある。それは、先ほどの公園でも感じたものと同じであった。


 つまり、


「魔法が発動すんのか?」


 そう思いすぐにネックレスを首にかけて、魔導書を拾い再びそれを唱えた。


「時空転移」


 今度は失敗しても恥ずかしくないように静かに唱えた。


 そして変化はすぐに表れた。


 本に描いてある魔法陣をなぞるように青白い光が走り宙に浮かび上がっり、床に投影された。


 いつの間にか、魔方陣は人一人が収まるサイズに拡大し、さらに光を増し始めた。


 どうやらこれで俺は異世界に行けるようだ。


 さらば、学校! さらば、日本! さらば、世界!


 俺は異世界で自由気ままに生きてやるからな。


 光はどんどん増していき、ついには目を開けられないほどにまで輝き始めた。


 すると突然体に浮遊感が襲い、そして…………





    ーーーーーーーーーーーーー




 どれ程の時間が経ったであろうか。


 先まで、まぶたの裏で感じていた光はもうなかった。


 俺はゆっくりと目を開けて驚いた。


 そこは完全なる別世界だった。


 レンガで造られた家が遠くに並んでおり、そこにいる人々の髪と目の色は色彩鮮やか、様々な色をしていた。


 後ろの方では水が弾ける音が聞こえる。どうやら噴水があるようだ。


 どうやら俺は無事、異世界には来れたらしい。


 そして、


「動くな! 少しでも不審な行為でもしてみろ。直ちにキサマを切り捨てるぞ!」


 目の前にいる鎧を全身に纏った兵士おぼしき集団が、槍をこちらに向けながら俺を完全に包囲していた。


 こんな時だと言うのに清々すがすがしいほど気持ちが良い風が吹いた。








 うん、ダメだ。詰んだ。

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