世色多色

月華紅雨

第1話

世色多色





僕の人生が狂い始めたのはいつからだっけ?それすらも分からなくなってきた。唯一分かることは今自分が屋上のフェンスの外側で空を眺めている事。それ以外はもうなにも分からない。

今日人生に終止符を打ってなにもかもから解放される。

確か今日は誰かの誕生日だったはず。誰の誕生日かすらも思い出せない。なぜだろう?

世界がくすんで見える。青が黒に見えて全て全てに灰がかっていて、本当の色はなにも見えない。

手をフェンスから離し、右足を1歩宙へ踏み入れた。

ふわっとした感覚が僕を包んだ


――――――――――――――――――――――――――――――――

「おい、××なんでそこにいるんだよ」

「あいつなんて死んじゃえばいいのにね。」

「穢いから近寄らないでよ」

「気持ち悪い」

そんなの僕に言われても知らないよ。

もし、あの子がいたならあの子はなんて言うんだろう。こんな僕を見てあの子はなんて思うんだろう。

最近は全ての記憶を出来るだけ消すようにしてる。だからその代償としてあの子の名前を、顔を、声を忘れてしまった。でもあの子の存在だけは忘れたくない。

「おい、お前気持ち悪い。どこに目向けてるんだよ。」

「なんでこんな奴が死なないんだろうな?前世はゴキブリだったんじゃない?」

痛い痛い体が、心が、全てが痛い

「早く死んでくれよ〜クラスの邪魔」

ガスッ。特に強い蹴りが入った。僕の意識は飛んだ。

――――――――――――――――

気づいたら周りは暗くなっていた。校庭の中央へ行き時計を見たら19時を過ぎていた。歩いて帰ったら絶対に20時を超えるだろう。僕はクラスの人だけじゃなくて親にも殴られることになる。こんな日々に嫌気がさしていたが、自分からはなにも行動出来なかった。出来る環境も揃ってなかった。

もしダンプカーが突っ込んできたら、そう思った。いや、自分から死にいけば…こんな考えが頭を過ぎった。

「こんな時間までなにしてたのよ。恥さらし」

案の定殴られた。いつもの流れだからなにも思わない。ただただ無表情で耐えたら自分の勝ちだ。しかし、

「もう死んでいいよ。早くこの家出てってよ。」

ぷつりときたのが分かった。そこからの記憶は無い。気づいたら近くのビルの屋上にいた。

「ここから飛び降りればもうなにも残らない…。代わりにこの日々も続かない…」

心は決まっていた。フェンスを跨ぎ半歩前に出したら地上に体は打ち付けられ原型も留めない自分が出来る。

憎い事に全てを諦めた時に限って、この世界はとても美しく、綺麗に佇んでいた。

「せめて、最期にあの子を見たかった。」

僕は皮肉な程に綺麗な夜景と共に沈んでった。

刹那、あの子が見えた気がした

――――――――――――――――

気づいたら僕はベットの上にいた。

周りは驚きまた狼狽えていた。

「奇跡が起こったんだ…」

皆口々にそう言う。


どうやら僕は死にきれなかったらしい。


色々ゴタゴタしてる中ふと窓に目をやると遠くの山の谷間から日が登ってきていた。

世界が鮮やかな群青色に染まっていた。純粋に綺麗と感じた。

それと同時にこの世界は心の持ちようで色んな色がみえると思った。

死ななかった…ってことはあの子にも会えるって事なのかな?でも落ちた時に見たような、、、でもあの子ばかりに執着してても始まらないよな…

もうこんな事も全て全てを初めからやり直しても良いのかもしれない―――――――――それで見える世界があると信じて。

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