宗像奈美 Ⅰ(1999.7.1)「涙」

 月の高い夜だった。


「こちら、神瀬こうのせ駐在所――」


 焦ったように警官が、隣でしきりに無線を鳴らしている。

 発砲し――あげく正体不明の化け物を殺してしまったのだから、その慌てぶりも仕方ない。


 比良坂は、みっともないくらいにその目をらして、大粒の涙をこぼしていた。

 屍体したいに――大きな化け物にすがりつくように、声を上げて泣きはらしている。

 月光が血と涙をてらてらと照らしていた。それはなんだか、妙に美しく見えた。



 まさか殺してしまうとは、私も思っていなかった。

 それでもの姿を見た時、私は無心で、「殺して」と叫んでいた。

 そして、猟友会の人も迷うことなく、あの化け物を撃ち抜いたのだ。


 そう……これで、いいのよ……。

 あいつは、学校の生徒を――

 は、なんだから――

 

 そして、やっぱり比良坂は、普通じゃなかった。

 も、だった。


 ――それでも、あいつの……比良坂の、初めて見た……


 しやがって……

 気にくわない……


  *   *   *



 でも、御神木おかもとくんは、いったいどこへ行ったのだろう。

 まさか、あの、化け物に……?

 ――いや、そんなはずはない。気配がない。


 ……とにかく、これで終わったのよ。

 ……全部。


 これで、御神木くんも――

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