御神本 往人 Ⅷ(1999.7.1)「比良坂」


 林の中は走るのに向いていない。

 何度も足をひねりそうになる。

 枝が腕にひっかかり、血が出ていた。


 それでも、急がなくてはならない!



 ――あいつは今日、三年の男たちに潰されるのよ。


 ナミの言葉を聞いた瞬間、僕の足は動いていた。

 

 ナミの言っている言葉の意味はわからなかった。

 ただ、身体が勝手に動いていた。

 

「御神木、くん……! ま、待って……!」


 後ろから聞こえるのはナミの声だろうか。

 よく、わからない。

 彼女もついてきたのか。

 なんのために。よく、わからない。

 いや、

 どうでもいい。

 それどころではない!


 このままだと、比良坂は……!

 早く、洞窟へ――



 比良坂……!

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