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 前回までで、本作の特徴をピックアップしてみたんですが、お気づきになりましたか? 無敵主人公、無能な敵、ベタ惚れヒロインズ、都合の良い世界……そう、いわゆる『なろう小説』なんです。

ΩΩΩ<な、なんだってー!

 な陰謀論を展開する気は毛頭ありません。が、ウケる要素というのは変わらないんだな、と思うわけです。

 そしてもう一つ、ウケる要素があります。『全共闘』です。本作の発表は1985年。つまり全共闘世代が中学生の子を持つリアルタイムな作品なのです。

 リアルと言えばリアルなんですが、主人公たち、実は自己矛盾を暴露してます。

『大人が攻めてきたら戦争さ』

 なんてうそぶいていたのに、味方の大人(復員兵の老人)が戦争体験を話したら、

『なんで戦争なんてするんだろうね?』

 どの口が言うとんじゃとほっぺたをつねり上げたくなります。うそぶいたのは別の男子ですが、彼らは群体。一人の意見は全員の意見と見なしてよいでしょう。

 全共闘も『大学生が、大学解体を叫ぶ』という自己矛盾を抱えて戦います。大学解体後のビジョン、つまり『散々やらかしたあとどうケツを拭くか』を提示できなかったところは、主人公たちと同じです。ゆえに両者とも、成功する可能性はないといえます。

 そもそも、『後詰無き籠城は自殺行為』です。それ以前に、小論冒頭に述べたとおり、法律違反のオンパレードなわけで、リアル設定厨な私は「これどうやってオトシマエつけるんだ?」とドキドキ――ごめんなさい嘘です、鼻から息を漏らしながら読んでましたが、この状況を解決できる力技があるんですよ。



 主人公たちは、2017年現在無効の無敵の盾を持っています。改正前の少年法です。作中でわざわざ警部がお墨付きを与えてくれるこの盾に、この作品がウケた人たちの本音が透けて見えます。

 つまり、かつてやらかしちゃった結果社会的制裁を受けたのが納得いかない“大人こども”が、「くそぅ俺たちも少年法みたいな無敵の盾さえあれば、やりたい放題できたのに。あの会社にもこの企業にも就職できてウハウハだったのに。そうすれば同学年のあの子もこの子も」とハァハァできる作品だったわけですよ。

 そりゃウケるでしょ。子どもは「清く正しい子どもが汚い大人を出し抜いて懲らしめる」作品が大好きだし。当時の大人にとっては、「清く正しいボクチャン(40代)が、うまいことやって世にのさばっている汚い大人を散々にやっつける」作品ですから。1/3で「批判する奴なんかいなかったんだろうな」と書いたのは、これが理由です。

 そこにリアルな設定なんかいらない。懲らしめ、散々にやっつけられればそれでいいんですから。この世の憂さを忘れて、スカッとできればいいんですから。これまた『なろう小説』に通じるものがありますね。

 映画版については観てませんので考察はしませんが、原作には出てこない戦車が主人公側で出てくる理由は推察できます。「あの当時これがあれば……」と妄想する彼らにとって、堅牢な巨体はマチズモの象徴だし、長くてぶっとい主砲は男子の憧れですから。あとは妄想を、「絵面が派手になる」って皮でくるめばいいわけですしね。

 それにしても、『宮沢りえ初主演作』ですか。ヒロインズ名有りキャラ3人の中でも一番出番のない子なのに……当時の彼女にスケ番や貧乏中華料理屋の娘を演じさせるわけにはいかなかったんでしょうが、これもまた力技というかこれ、ものすごい原作改変ですよね? ハーレムラノベでいうと4番手くらいの地味子が主役になるようなもんでしょ?


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 というわけで、ウケる作品というのは時代が決める要素もあるのだな、というありきたりな結論に、ターゲット層に占める大多数の心をいかに掴むかというのもプラスしたいと思います。

 そしてもしかして『なろう小説』というのは、児童向け冒険活劇を背骨に、異世界大喜利を上半身に、奴隷ハーレムやいじめっ子への復讐、周囲の異世界人総白痴化によるチート主人公べた褒めなどなどを下半身に持つキメラなのかもしれません。

 思うに、本作を今ネット小説として発表しても、「文章はうまいけど設定がなろうテンプレで、展開もご都合主義過ぎ」な評価で、すぐ埋もれちゃうでしょうね。共感してくれるボクチャン(70代)はネット小説なんて読まないし。

 ちなみにうちの子供(小学生)は読み聞かせに先立って自分で読んだ時、全共闘関連の記述(数ページにわたってその歴史が誇らしげに展開されます)を全部、

「意味分からんし」

 と言って飛ばしたそうです。さもありなん。

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ぼくらの『なろう』戦争 タオ・タシ @tao_tashi

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