第18話 そして未来へ。
点灯したモニターのグリーンランプが、来客を告げていました。
スイッチを切り換えると、すらりとした長身のシルエットがカメラに映し出されています。システムエンジニアでもあり、地質学者であるカマタ先生です。
「今解除しますね。内側に自動飛行のホバーボードがありますので、良かったら使ってください」
「いやいい、歩く」
即座に、パキンと折られた棒きれのような低い声が聞こえてきました。
シェルターから西側の門までは、およそ2㌔の距離があります。
カマタ先生は手足が長く、歩幅、速度も早い。足元の雪に足を取られることを考えても、1㌔ をおよそ10分、多少誤差をプラスしても22分以内の到着になるかな、とユキは考えながら、温めたポットにアッサムの茶葉を入れ、マヌカハニーの瓶を出し来客の準備をしました。
書き終えた手紙を封筒へ折り入れ、しっかりと封をしてから、そっと机の上に置きました。ふと宙に視線を巡らせ考えます。私は間違っているのかな。大切なみんなと別れることは間違っているの?
それは、否――。
と思いたい。
西側の門が、ちりんと音を立てました。
門を開き、屋敷の扉を開けると、足元を雪まみれにしたカマタ先生が立っています。それはそれは、とても、険しい顔をして。
「お前、何故黙って去った。答えろ」
ユキは、ハッと息を飲み姿勢を正し、真っ直ぐ向けられた視線を受け止めます。
「このシェルター関連の持ち出しは無許可で法に触れています。起訴されたなら確実に犯罪として成立する。だからあの時、未来ある先生を巻き込むわけにはいかなかった」
先生はその視線を外すことを許しませんでした。
「だろうな。だが何故そこで考えなかった? 一言、言ってくれさえしたら、そんな未来など捨ててお前に寄り添ったであろう私の存在を。私はそんなに軽い存在だったのか?」
苦し気に開かれるユキの唇が震えています。
「私は……私は……」
カマタ先生の肩からふっと力が抜けていきました。ほんの少し、安心したように。
「分かってたよ最初から。その事を八木の口から聞きたかっただけだ。いいんだ、無事でいてくれたなら他のことはどうでもいい」
カマタ先生の抱擁に、離れていた空白がゆっくりと埋められていきます。
「だが、行くと決めたんだろう。その為に私を呼んだな? 凍えそうだ、中に入れてくれ。そこでプランの話を聞こう」
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