第17話 冬、閉じる。
そうだ、手紙を書きましょう。
みんなが目覚めた時、私はもうここには居ないのだから。
ユキは、机の引き出しから、白い便箋、細いナイフ、今では貴重な資源となってしまった六角の鉛筆を取り出すと、丁寧に削ってゆきます。
かすかな木と芯の香りが相まって、懐かしい香りへと変わっていきました。
首を傾げ、少し考えてから書き出します。
「大切な、みんなへ。
ねえ、みんな覚えてるかな。
初めて会った日のことを。私覚えてるよ。
みんなキラキラしてた、とても。本当にキラキラだった。
カタツムリのくるるん、君は、はにかんだ笑顔がとても可愛かったね。陽だまりのような女の子だった。
「お前は大丈夫なのか?」
それが口癖だったクワガタの閣下、いつも右肩にいて見守ってくれてた。そのことがとても、心強かったな。
そしてタケちゃん。君はキュウリなんだけど……
「オレ、こう見えても竹だかんな!」
って、よく言い張ってたよね、ほんと面白かった。背が高い竹に憧れていたのかな。
そこへ、隣にいたトウモロコシの闘くんが、熱い闘志を持って口を開くんだよね。
「おまえはどう見たってキュウリだろうが、カッパに食われてしまえ」
なぁんて仲良く言い合ってたりして、楽しかったね、本当に楽しかった。
そうそう、時折、美しい姿で舞い降りてきてくれた黒サギさん。毎回見惚れてしまった。あまりにも綺麗で。
今は、どこの空を飛んでいるのだろうか。もう一度、お会いしたかった。
あのね。
この庭は希望だよ。
決して絶やしてはいけない大切なもの。
だから私は、次の「手」にこの希望を託していく。
この世には、護らなければいけないものがあることを知ったんだ。
君たちに出逢ってから。
大切なことを教えてくれてありがとう。
たくさん、本当にたくさんのことを。
私は、外の世界へ緑を取り戻しに行くよ。
ほんの僅かでいい。
一縷の望みがあるのならそのことを信じる。
父さんが言ってたんだ。
「確率は問題じゃない。己を信じ進むことで越えられることはたくさんあるのさ」ってね。
みんな。
出逢ってくれてありがとう。
みんな大好きだよ。
本当に、大好きだ。
八木ユキ」
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