第16話 冬、過ぎる。

 ユキは、父と一緒にこの屋敷に訪れた日のことを思い出していました。

この庭も例外ではなく瀕死の状態でしたが、シェルターで場を区切り外からの連続性を絶つことで、僅かな希望を見出したのです。

 

 その頃、父は末期癌に侵されており、ベットの上で過ごす時間が日に日に増えてゆきました。残された時が短いことは、お互いに知っていました。


「緑はいい。水とバランスの取れた緑はなお良い」

「うん、そうだね」


「いつから人は、自らが住む足元を見なくなったのだ?」

「うーん、人は未来の追い方を間違ってしまったのかもしれない」


「ほう、そうか。間違ったのなら、正せば良いのでは」

「うん。でも正すことが本当に正しいことなのか、私にはわからないよ」


「滅びの道が正解だと?」

「そうは思わない。けど、正しさを振りかざすことが本当に正しいのか、ってこと」


父さんは、細くなった腕を伸ばしてユキの髪を撫でました。

「何が正解かは、1000年後の地球だけが知っている答えかもしれんな。だから、とは言わんが気楽にやれ」

「うん。わかった」



 父さん。私ね、もう一度外の世界へ行くよ。

 父さんが好きだった緑を取り戻しに。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る